1080話、ロゼッタ、お帰りください
「あー、これでウチ召喚されるんやろーなぁ。邪神やしー」
あ、そっか。邪神召喚だから一番近くにいる邪神ちゃんが呼ばれる可能性高いのか。
キーリがすごく面倒そうにしている。
悪かったって。召喚されたらいろいろお願い聞かなきゃいけないだろうし、あとでお詫びのデザート買ってあげるから。
あ、見てキーリ、魔法陣から光が。
魔力ドバっと送ったから光り方が半端じゃないよ。
そろそろキーリ呼ばれちゃうかな? かな?
……かな?
「ウチ、全然呼ばれる気配、ないんやけど……」
「じゃあナニが呼ばれるのさ?」
「「…………」」
あ、光が点滅して闇色に変化した。
なんかすっごい揺れてない?
「あ。これ多分ヤバい系や」
「やばい系ってなによ!?」
天井が崩れ、魔法陣の上に落下する。
魔法陣を覆い隠すように降り注いだ落盤事故に、ナゲキノカルマ王国の王族たちが慌てふためく。
そんな瓦礫から、何かがにょろりと飛び出した。
それは尻餅ついて呆然としていたおじさんの額に、ぴしゅっと突き刺さる。
「あ、お……」
しおしおしお~。
って、なんかヤバいの召喚されとる!?
思わずキーリを見る。
ウチの触手やないで。じゃないよ、何あれ! 知り合い?
先端が注射器の針みたいな形状になった触手が瓦礫から無数に飛び出す。
悲鳴がそこかしこから轟いた。
阿鼻叫喚の地獄絵図……って、見てる場合じゃなかった。
ウインドスラッシュ! ×100
さらなる被害が出る直前で私の放った風魔法により触手はすべて切り裂かれた。
「主はん、あれは多分触れたらヤバいタイプの触手型生物や。ウチでもまともに戦ったら吸収されるかもしれへんよ」
「おっけぇ、全力でお相手するんだよ!」
まずはあの瓦礫を何とかしないとよね。
そのまま攻撃手段にしてやろう。ラーヴァフィールド!
岩の群れを灼熱状態にしてドロドロに溶かす溶岩地帯に変化。
これで……死なないな? なんで普通に触手伸ばしてこれてるの?
切り飛ばした触手もその場でびちびちのたうち回ってるからうかつに近寄れないな。
同じく風魔法使って一か所に集めておこう。
あ、集めた触手がその場で融合した!? 気持ち悪っ!?
「なんなん。あれ、なんなん!?」
「私に聞かれても困るんだけど!?」
「主はんの規格外な魔力で召喚されたんやから規格外に決まっとるやん!」
「ははは、まさかぁー……外なる者、来ちゃったかな」
「やっぱ主はんなんか召喚される前に考えたやろ。邪神として呼ばれるならこいつだろ、みたいなの考えたやろ!」
……ソンナコトナイヨ?
ホントダヨ?
「怒らんから正直に言ってみ?」
「カルト系が召喚するならお母さんだろーなぁって。だから召喚されるなら来るのは子供の方だろうなって思ったから……黒い子山羊」
「あれのどこが子山羊や!? 触手生えとるやん!!」
「いや、黒い子山羊にはあるんだよ、名前それっぽいけど別物だから……とりあえず、本気でやろう。これは手を抜けるもんじゃないわ」
「主はんが手を抜けないって、そんな生物ほんとにまだおるんやな」
私もこのレベルで苦戦しそうな生物がいるとは本気で想定外なんだよ。
しかも相手は姿見ただけで正気度消されそうなヤバいのでしょ。
私としても消し飛ばした程度で倒せるか不安だし、ここは送還一択よね。
姿見える前に、召喚陣を利用して召喚から送還に。
パスを通してありったけ魔力を流して力づくで送り返す。
「キーリ、魔法使ってあっちの切り裂いた触手の群れ、召喚陣に戻して!」
「ウチがやるん!?」
驚きながらも風魔法で触手の群れを集めて瓦礫に向かって放り込むキーリ、抵抗されているようでなんだか騒がしい。
「ぎゃーっ!? 今のウチが押されとる!? 風魔法に抵抗してくる触手ってなんやのん!? こんなん封印解かれる前のウチとか敗北確定やん! なんやのん、これほんとなんやのんっ!? ひぃぃ、魔力辿ってなんか侵入してこようとしとるっ。あかん、ウチは主はんのもんやから、あかんのよぉぉぉっ」
っし、送還魔法陣改良完成。
行くよキーリ、しっかり固定しといてよ!
「外なる者は外なる場所へ。強制送還っ!!」
魔法陣が黒く輝く。
渦巻くように空気を吸収し始める魔法陣。
瓦礫など一瞬で消え去り、一瞬だけソレの姿が見えた。
とたん、対策をしていた私たち以外が一斉にあばばばばばっと感電でもしたかのように全身を震わせる。
おばあちゃんたち大丈夫? ああ、目を瞑ってるのか、ならいいや。
被害はナゲキノカルマだけみたいだ。
「ひえぇ、なんやあの生物。怖、怖っ!? 同じ邪神やのに、なんかいろいろ違うでアレ!」
黒い子山羊……邪神じゃないよって教えた方がいいかな?
使徒みたいなもんだって告げたら……可哀そうだからやめておこう。




