1052話、シクエス、構わないでください
SIDE:シクエス・ライオネル
正直な話、ロゼッタ様の来訪はただただ迷惑でした。
そもそも私が王族だとか、いまだに実感湧かないし。
今まで貧民街で生活していたのに、急に学校に通えとか、王族としての身だしなみなどを覚えてくれとか、好きでもない男性からの婚約の嵐がやってくるとか、勘弁してほしいです。
確かに、母さんに捨てられて、お金もなくて、住処もなくして、食事もできなくて、ただ死ぬだけを待つ日々に比べれば、感謝はしているの。
でも、いきなり儂がお前の父さんじゃ。とか言われてもちょっと……
道で倒れてた私を屈強な男二人ががっちりつかんで捕獲、そのまま嫌がる私を連れてきたのが王城の謁見の間。
現れた豪奢な服装の男性に父親だとか言われても納得できるはずもなし。
ただただぽかんとした私はそのままお風呂という場所に連れていかれ、女の人たちに丸洗いされ、豪華なドレスを着せられ、長すぎるテーブルに置かれたすごい量のご飯を好きなだけ食べていいって言われて。
あの日は、本当に幸せだったなぁ。自分はきっと死んだんだ。だからこんな幸せなんだって何度思ったことか。まさか本当にこれが現実だなんて、未だに受け入れられていないくらい。
母に捨てられたときはもうだめだと思ったけれど、まさか父親が王様だったなんて、想定外すぎて怖くなる。誰かと間違えてない? 大丈夫? アルケーさんって人の話本当に信じていいの? 私なんて孤児だし、ほんとに誰の子かわからないと思うの。だからいつお前は間違いだったから孤児に戻すって言われてもいいように、学園生活はできるだけ目立たないように生きようって……思った矢先にロゼッタ様の来訪である。
すっごい目立っちゃった。
しかも王様の娘だってバレちゃった。
男子たちの目の色が一瞬で変わったのが怖い。
女子たちも派閥に引き込もうという意思がギラリと見えた。
ただ、ロゼッタ様が全面支持を表明したことで彼らは一斉に視線を逸らす。
一応、私の安全な学園生活は確保されたようだ。
ただ、今までのように目立たずってわけにはいかないらしい。
怖いなぁ。
いつまた孤児に戻されるのか、お前は王族じゃなかったって言われる不安が有名になるほどに積み重なっていく感じがする。
あとロゼッタ様、全面支持はいいですけど、最後のウルスハさんの話、不穏すぎます。
私が気に入らない人彼女に告げたらどうなっちゃうんですかっ!?
「ロゼッタさん、ウルスハさんは私の護衛じゃなかったの?」
「大丈夫なんだよ。ウルスハなら同時護衛できるでしょ?」
「うわー、まさか常時ミラーリング使えって言ってます!? 魔力消費がきついんですけど!?」
「寝れば回復するでしょ。あんたレベルいくつよ。絶対回復する方が多いんだよ」
「そりゃまそうですけどね。はい、二人同時に護衛します。ミラーリング!」
ひぃっ!? ウルスハさんが二人に増えた!?
今の分裂前一瞬だけ両方がくっついて見えた時が一番気持ち悪かった。
ウルスハさん怖い。
「二人に分裂できるんだ。意識どうなってんのこれ?」
「リンクしてますねん。なんといったらいいんですかね。二画面表示で天竜討伐映画を前編と後編左右同時に放送してる感じ?」
とりあえず常人には理解不能な意識だってことは理解した。
「それでは、私はこれで失礼いたします。ほらパステルちゃん、降りといで、怖くなーい、怖くなーい」
「ふしゅー、ふしゅーっ」
なぜか怯えながら威嚇しているパステルさんを天井から降ろすロゼッタ様。
今、浮いてなかった?
「ぴ。ぴぃぃっ」
「はいはい落ち着け落ち着け。怖くなーい怖くなーい」
頭なでながら怖くないアピールしてるけど、パステルさんはロゼッタさんに怯えているので硬直しっぱなしだ。まさに借りてきた猫みたいにおとなしくなっている。
ひとしきりパステルさんを撫でまわすと、満足したのか侯爵令嬢様が去っていく。
ふぅ、酷い目にあった……
「お互い大変だねぇ」
「え? あ、はい」
うわ。突然話しかけられた!? えっと、誰だっけ、あ、ある……アルティマさん?
「ん? もしかして聖女様のお名前覚えなかったのかな? じゃあ改めて自己紹介。私がウルスハ、こちらは元アルカエスオロゥの聖女様。お名前はアルマティエね」
あ、そうですそうです。アルマティエさん。
「すいません、名前とか覚えるの苦手で」
「構わないわ。ねぇえっとシクエスさん? せっかくだから放課後遊びに行かない? といっても東屋とかでお茶するくらいなんだけど」
「え? で、でも、あの、私はその……そういうの所作がわからないので」
「うん? えっと王族なんだよね?」
「学園に来る前に突然知らされて、えっと、私それまで孤児で……」
「……なおさら、詳しい話をお聞きしましょう。聖女としてなんかほっとけないわ」
え、いえ、私のことはほんといいので放っといていただければ……
あ、これ強制だ。
腕を取られて連れていかれる私は、早急に抵抗を諦めるのだった。




