104話・リオネル、これは、どういう意味なんだろう?
夜会が終わった。
久しぶりに会ったロゼッタは随分と綺麗にめかしこんでいた。
赤いドレスは彼女によく似合う。
ガイウス兄さんがまるで悪女だな。とか言ってたせいで思わず頷き掛けたけど、ロゼッタの顔がそういう顔だから仕方ない。それでも綺麗で目を引き付ける顔立ちなのだからいいんだよ。
ロゼッタは綺麗だ。
僕としてはロゼッタが婚約者だってことは嬉しい限り。
でも、ロゼッタはどうなの? 王子である僕をどう思ってるんだろう?
第三王子だから王になる可能性は限りなく低い。
継承権が低いからおそらく侯爵家であるベルングシュタットに婿入りすることになる。
さすがに公爵として領地を治めることになるとしても自分はまだ何も分からない状態だ。出来れば傍で何をどうすればいいか教えてくれる先達が居てくれた方が良い。
だから、おそらく侯爵家を引き継ぎロゼッタと侯爵邸で暮らすことが僕の人生になるだろう。ゆえに独り立ちの公爵にはならないと思う。
学園の卒業。それまでは結婚出来ないらしいからロゼッタと婚約状態で王族のまま。
つまり、これから学園卒業までは確実に外回りを行わなくてはならない。
エリオット兄さんに聞いてみたところ、外回りの時は暗殺の可能性が一番高いので連れて行く兵士はしっかり選べって言われたんだけど、僕の場合ガイウス兄上が揃えてくれたみたいでかなりの手練兵で固めてくれるらしい。
ただ、バレると兄上が怒られた上に僕が自分で兵士も選べないと父上に思われてしまうので内緒なんだそうだ。
僕としては自分で兵士選びたかったんだけどなぁ。
まぁ兄上の好意を無駄にするのも悪いのでありがたく受け取っておくことにしたのである。
今から外回りが楽しみだ。
さて、今日は僕の誕生日。
各貴族から誕生祝いのプレゼントが送って来られており、メイド達が安全かどうかを調べるために今全部のプレゼントを開けて見ている。
出来れば自分で開けたいけど王族である以上。プレゼントに暗殺用の何かを仕込んで来る輩が居ないとも限らない。
ゆえに自分で開けてはならないのだ。
でも、折角ロゼッタからプレゼント貰ったんだから、これくらいは自分で開けてもいいよね?
まさか、ロゼッタが僕をプレゼントで暗殺なんかしないだろうし。
それに皆の前で渡して来たから僕が死んだらロゼッタが怪しいってなるからさすがに危険物は仕込まないだろう。
プレゼントは四角い箱を包装用の紙と思しきもので包み、紐で不思議な縛り方をしてあった。なんだか結び目がリボンみたいだ。リボン結びって言ってもいいのかな?
リボンをほどくように紐をほどく。
包みを剥がし、箱を開ける。
中にあったのは……なんだこれ? 首飾りかな? ペンタグラム?
あまり華美ではなく何処にでもありそうな意匠のペンタグラム。
王族が身に付けるには不釣り合いだが、何故これを送って来たんだろう?
単純にプレゼントのセンスがなかった?
さすがにそれは、言い辛いなぁ。
あるいは、別の理由がある、とか?
僕は気になったのでメイドに頼んで鑑定士を呼んで貰う。
やってきた鑑定士に鑑定してもらうと、呪いのペンタグラム、等ではなかった。
思わずほっとする。
ロゼッタは素直に僕の誕生日を祝ってくれたのだ。
だが、ペンタグラムの効能を知った時、僕は違う意味でゾッとした。
なぜ、こんなモノを僕に送ったのか。
否、違う、この時期に、僕にこれを送った理由は理解した。
それだけじゃない。分かったんだ。
ロゼッタの日記に書いてあった暗殺の理由。
なぜロゼッタが僕に対して暗殺などという言葉を綴っていたのか。
確かに暗殺はイメージの悪い言葉だ。
でも、このプレゼントが送られたことで意味は反転した。
ロゼッタ、ごめん。僕、君の事凄く疑ってた。
今も、これは僕を安心させるためのものじゃないかって疑いを持ってしまってる。
でも、多分違う。
日記にあった暗殺。アレは、暗殺をする。ではなく、暗殺から守る。とか、そういう意味だったんじゃないだろうか?
詳しくは日記の暗号を解かないと分からないけど、でも、この、身代わりのペンタグラムが僕に送られたってことは、暗殺から僕の身を守ろうとしているってこと、なんじゃないかって、ああ、これってロゼッタを疑いたくないから自分で納得しようとしてるだけなのかな?
いや、でも、僕は、信じたい。
僕の事を好きだって言ってくれたロゼッタを信じたい。
これはずっと身につけよう。僕の宝物にしよう。
ロゼッタを信じる証として、常に身に付ける。きっと、それが彼女の願いなんだと思うから。
ロゼッタが敵なのか味方なのか、未だに半信半疑だけど、僕の婚約者のままでいたいと言ってくれたロゼッタを、僕は信頼したいって、思うんだ。
最初の外回りが終わったら、ロゼッタに謝罪に行こう。疑ってごめんって。多分気付いてないから小首を傾げられるかもだけど。
だけど、一つだけ。ロゼッタ、君は何時から……僕の暗殺計画を知ってたの?