1030話、???、会議終わりて1
SIDE:サイエンスフィア
「ふぃー、終わった終わった」
サイエンスフィア王は凝り固まった肩をぐるぐると回しながら移動していた。
夜会が終わり、各国が帰宅を始める頃、彼は自室、ではなく城内にある会議室へと向っていた。
その会議室に入ると、8人の男女が待っていた。
ただ、待っていた態度は皆酷い。
眼鏡の男は本を読み、一番年いった男は機械を弄り、若い女は鏡を見ながら無駄毛探し、他の面々も思い思いにやりたい事をやっていた。
彼らは皆、王族である。
サイエンスフィア王の妻と子供たちであった。
「全く、儂は会議で数日趣味ができなんだというのに、貴様等はっ」
「父上、終わったのですか?」
「待つ間凄く暇だったわぁ」
「あらあら、折角お父さんを待ってるのにこの子たちったら」
頭の痛くなる光景ではあるが、これがサイエンスフィアの次代を担う子供たちなのである。
「まぁいい、全員王族会議始めるぞ、趣味は後にしろ」
「「「「「「「「はーい」」」」」」」」
妻と息子が5人、娘が2人。
仕方なく趣味を脇に避けて聞く体制に入る。
皆、これ以上趣味の行動をしているとゲンコツが頭に落とされることを長い年月で学んでいるのである。
「今回の会議で我が国に重要なことをまず告げる」
毎年のことだがサイエンスフィアに必要なことは王族全員に落とし込まれるのだ。
とはいえ、王の叔父や兄弟に関してはここには居ない。
彼らは王族籍をさっさと抜けて趣味に没頭しているからである。
もはやこちらが土下座で願っても彼らは戻ってこないだろう。
こちらとしても戻って来て貰う気は無いので彼らは好きにしてもらうことにしている。
サイエンスフィア王も引退すれば彼らと同じように趣味に没頭するつもりなのだ。
後は次期王となる子供たちにお任せである。
そのため、誰が王になってもいいようにこうして全員に必要事項を落とし込むのである。
「ああ、そうだ。マルコよ、お前が言っていたライオネルの映像、会議で放映されたぞ」
「え、ほんと!? 父さんいいなぁ」
「といってもお前が言っていたモノとはだいぶ違って編集されていたがな。これで各国もライオネル軍の脅威を知ったのだろうが……おそらく秘密を小出しにしただけだな」
「ライオネルも急に強くなりましたね。できるならばロゼッタ嬢を引き抜きたいですが、無理そうですか?」
「無理だろうな。ロゼッタ嬢の有用性はライオネルが一番分かっていよう。お前の話では第三王子リオネルが婚約者だろう?」
「ええ、とても仲が良いそうですが、最近リオネル王子はめっきり祖国に戻っていないとか。狙い目かと思うのですが? 私か兄上あたり、紹介できませんか?」
「一応一人分枠は作った。ザイードをライオネルに留学させる予定だ」
「え? 俺かよ!?」
「さすがに二人の兄を送り込むには日が経ち過ぎている。いや、だがザイード以外もついでに送るか」
「おー、私ももう一度行って置きたかったんですよね」
「さて、それじゃ会議内容を順を追って落とし込むぞ。しっかり聞いておけよ」
サイエンスフィアは王族総出で国際会議の内容を精査していくのであった。
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SIDE:マギアクロフト
「ええい、あの若造め、あの質問さえなければッ」
帰りの馬車で、マギアクロフト王は憤慨していた。
同じ馬車に乗っているヨーデリヒとガイウスは口を噤んでいたが、同じ思いであった。
カスタローレル王ライモンド。何を言ってくれるかと期待すれば肩透かしもいいところだった。
おかげでライオネルの脅威を各国に伝え、一致団結することによるライオネル攻めの構想は進展せず。未だに各国を動かすには至らなかった。
デーバルデ辺りが敵対中であれば共闘も可能だったかもしれない。
あるいはアルカエスオロゥが行っていた各国を煽ってのメテオラ暗殺。いや、あれは叛竜王国の提案に乗っかったのだったか。
ガイウスを考える。
どうにか今のライオネルを粉砕し、自分を王に据える大国家を作りだすにはどうしたらいいか。
しかし、未だにいい案は浮かばなかった。
「しかし、ガイウスについて指摘された時は焦ったな」
「ふん、俺の言う通りにしておいてよかっただろうヨーデリヒ。しかし、俺の顔をこんな醜悪に変えやがって。もう少しやりようはなかったのか」
「そのくらい変化した方が別人だと言い張れるだろう。現にライオネル側からの追求は仮面を取った時点で止まったしな」
確かにその通りだ。
ガイウスとしてもあそこでライオネル側に攻め入る理由を与えたくはなかったのだ。
ならばなぜ国際会議に顔をだしたのか。
それは大手を振るって活動するために、仮面の男とガイウス元王子が一致しないということを全国家の目の前でライオネルに認めさせる必要があったからである。
御蔭でこの先は仮面を付けてさえいれば元の顔で表舞台に立つことも可能になった。
「潜伏期間はようやく終わった。次の布石を打とうじゃないか、ヨーデリヒ」
「ああ、ライオネルの兵士のレベルもよくわかった。この分なら僕の作った兵士達で充分に対処できるよ。ふふ。くふふっ」
今はまだ密かに爪を研ぐ。
しかし、ガイウスの目的はゆっくりと、着実に、ライオネルへと近づいていた。




