1023話、ロゼッタ、国際会議夜会編3
「そういえばロゼッタ嬢」
「宰相閣下? なんでしょう」
本日も護衛はプルータリス達に任せて壁の華、になっておくつもりだったんだけど、宰相閣下がやって来て話しかけて来た。
メテオラもパステルちゃんもピュリティアたちも一斉に会話を止めて静かになった。
「確かダンジョン関連で告げるモノがあったのではなかったか?」
「はて? ダンジョン……あっ」
あった。なんか4月だか5月くらいにあった。
ほぼ一年前だったから記憶の彼方でフライアウェイしていた。
「そ、そういえばありましたね。よく覚えてますね宰相閣下」
「むしろ私が覚えてなければ誰も覚えていない事が多くてな。しかしロゼッタ嬢でも忘れることがあるのだな」
「それはまぁ、さすがに私も人間ですし、たまに忘れてることもありますよ。人間だもの」
「ふむ、確かにモノ忘れがあったと分かるとそなたも人間なのかもしれんと……失礼。人間という主張だったな。ともかく、公表するのであればあの三人が必要になるぞ?」
「そうですね、明日までに転移で連れてきておきます。宰相閣下、今回の報告はそれだけで? そろそろのらりくらりと軍のレベルをごまかすのも限界が近そうですが」
「ふむ。確かに陛下の常套手段も効かなくなっておるし、ザルツヴァッハやメルクナードでの活躍でさすがに弱い兵、というわけにはいかなくなっているな。しかし全てを開示するのはマズかろう?」
「邪神洞窟を降した、ってことで新人のレベルを皆に見せる形でいかがでしょう? となると、ラビリルは連れてこない方が良さそうですね」
「ふむ、それがよかろう。では発見の理由にメイズ、今のレベルを見せるために新人最低レベルの者と、邪神洞窟攻略の証にアステルを連れて来て貰うとしよう」
了解の意を告げると、宰相閣下が去っていく。
ふむ。言われるまで本気で忘れてたなぁ。
他にも何か忘れものないだろうか?
「うん? ロゼッタよ。何やらこっちに近づいてくる男がおるぞ?」
「男?」
ああ、確かに一人いるな。
かなりふとっちょの青年だ。
にたにたとした表情でやってくるところを見るに悪意を持って来ているようだ。
あ、違うな。太ってたから見えなかったけど後ろに二人付人と思しきガリガリの男とネクラそうな前髪で表情隠した男が付いて来ている。
「やぁやぁパステル女王殿、少しお話よろしいかな」
パステルちゃんに用事か。
「お前達は……?」
「おお、これは酷い、これでも中規模国家の長を去年からやっている名の知れた王なのだがね。プライジャコリャ国の王レーベンス・プライジャコリャだ。以後お見知りおきを、デュフフ」
「私はしがない小国の王ではありますが、プライジャコリャ国の隣に位置するヨラバタイジュ国の王ホソイ=ダイサク=ヨラバタイジュです」
「ぼ、僕は、同じく小国、ですが、ウラギ国のイール・ウラギ、です。よろしく」
正直話しかけてくるような身分とも思えないんだけど。ほら、中規模国家以上の王様が物珍しそうにこちらを見てる。
そして私たちではなくパステル指名なので横入りするのもちょっとややこしくなるな。
私は王族ではないから特にパステルの矢面に立つ訳にも行かないし。
メテオラでは止めに入るには国力が弱過ぎる。
「ふむ、何か用か?」
「ええ。折角人族の国々と話し合えるチャンス、通商条約などを締結したりなどしていないご様子。よろしければ我が国と国交を開いてみませんかな?」
「プライジャコリャ王国は食肉と畜産に力をいれているのですよ。我が国やウラギ国の特産品と合わせるととても魅力的な食の産地なので、是非に国交を開いて頂きたいのですよ」
「こちら、ぼ、僕たちの国の目算による商業を行った時の資金の流れとなります」
「むぅ?」
んー、一応不正してる感じはないなぁ。
実際にこの資金で通商しても充分潤いはあるだろう。
問題は国家間移動による税金がどれだけかかるか、だな。
パステルちゃんの領地から考えると結構な国を経由しないとプライジャコリャとの商売が成り立たない。
此処に書かれていない各国を通る際の税金を考えると……ダメだな。これは旨みのない取引だ。
なんでそんな取引がしたいんだこいつら?
んー、あ。まさか!?
いや、まさかなぁ。魔族領から奴隷とか、商売道具として手に入れようと皮算用してないよな。
魔族の奴隷ともなれば珍しいから確かに人族には高値で売れるし、高い関税取られまくっても充分に採算がとれる。
魔王領に商業目的で入れさえすれば油断した魔族を舌先三寸で奴隷に落として自国や属国で売り払う。
だからあんな気持悪い笑みを浮かべられるんだ。
これはさすがに止めた方が良いか。パステルちゃんが許可を出す前に……
「くくく、我が国と商業路を開きたいとな? 関税とやらが掛かるのであろう。我が国との間にどれ程あると思っている? 貴様等の薄汚い魂胆など見通しておるわ。阿呆どもめ。大方高い関税をものともせぬ魔族の奴隷を手に入れようと思っておるのだろうが、魔族だから人族の法に明るくないとでも思ったか? 甘く見るなよ若造?」
「な、な……そ、そのような侮辱、わ、我々は純粋にッ」
「迅く失せよ下郎共。これ以上煩わせるならば戦争だ」
「ぐ、ぐぬぅ!? こ、後悔するぞ、うすぎたない魔族め、わ、我が国とは国交断交だからな! 覚えておけよブヒィッ」
今、最後に豚鳴かなかった?
結局何がしたかったんだろうねあの三人。
とりあえずブラックリストには載せておこう。




