1019話、ロゼッタ、国際会議夜会編1
一日目の夜会が始まった。
明日は環境問題だっけ。
それに付いて陛下や宰相閣下は他の王様連中と話し合いだ。
護衛は近衛兵たちが付いてるけど、万一の場合を考えてネクサスとプルータリスも付けてある。
私はメテオラとパステルちゃん、キーリを引きつれシャンパングラス片手に壁の華だ。
一応護衛にオリールを引きつれてるから問題はあるまい。オリールはコウチャノサイテン国王を見ない。多分王様は君のことを認識すらしてないんだよ。哀しいけれど。
というか、メテオラもパステルちゃんも護衛が居ないのはどうなんだ?
「ごきげんよう」
「あら、シャト。ラグナ王の方はいいの?」
「ええ、陛下は宰相とついでにガレフがいるから。ああ、大丈夫よ、皆の代表でガレフが来たわけじゃなくてたまたま今日がガレフの日だったの」
「なるほど、でもシャトは護衛くらい連れておきなさい。王妃なんだから」
「貴女がいるから大丈夫でしょ」
どんな信頼だよ。
「それに、こういう夜会は初めてだから勝手がわからないのよ。知り合いの女性と一緒に居た方がいい、と思った次第」
それは確かにその通りか。でもそれはラグナ王も同じなのでは?
「陛下は宰相がいるから。でも私は王妃、女の戦いは女同士でしかできませんのよ?」
「成る程、そういうことね」
世代交代したばかりの彼女にとって海千山千の王妃たちが笑顔の裏に権謀術数隠して行うこの夜会、あまりにも不利すぎるのは確かだ。
私だって最初に行ったころは変なのに絡まれそうになったこと何回あったか。
とはいえ、私の笑顔が素敵だった御蔭で向こうの王妃様方がすぐにごきげんよう。と去っていったけれども。
キーリ曰く、私の愛想笑いは相手に何かしらの悪意を見せつけてるようにしか見えないらしいんだよ。
ただのコンゴトモヨロシク、という言葉すら、お前の国を内外から喰らい殺すからヨロシクゥという意味に捉えられて恐れられているらしい。
結果、歴戦の王妃たちがこぞって私から距離を取り、彼女たちから逃げて来た若い御令嬢が私の傍にやってくるという謎の現象がここ数年起こるようになったのである。
御蔭で歴戦の上位国家や中規模上位国家の王妃様がたからは蛇蝎の如く嫌われている私である。
国のために日々頑張る令嬢だってのにねぇ。酷い話だよまったく。
「シャトラパルラッ」
あら?
「まぁ」
声が聞こえたので皆して振り向けば、そこには青い顔の青年。
えっと、たしかライモンドだっけ?
「ライモンド国王、ごきげんよう」
「あ、ああ」
やや勢いを殺されたように口ごもり、しかし意を決してこちらに歩み寄ってくる。
「少し、話がある」
「まさか二人きりで、とか言いませんわよね。私はザルツヴァッハの王妃、貴方様はカスタローレルの王、二人きりで密通など疑ってくださいと言っているような醜聞に発展しますわ」
「うぐっ、し、仕方ないだろう。父から王族の振る舞いを教えられる前に王位に就いたのだ。母上は知らん、自分たちでやればいいではないですか、などと教えようともしないし!」
「王母様から王妃への訓練を断ったのは貴方様でしょうに。今更頼ってもへそを曲げるに決まっておりますわ」
「くっ……ま、まぁそれはいい。お前がなぜこのような事をしたのか、我が国を滅ぼすつもりなのかはこの際どうでもいいんだ」
シャトの前へとやってきたライモンド王は、ぐっと何かに耐えるように顔を顰め、シャトに向い、頭を下げた。
「戻って来てくれ、シャトラパルラ。我が国の宰相となって国を救ってくれ。お前でなければ……国が滅ぶんだ」
悔しげに、力ない自分に絶望した男が自ら追放した女に頭を下げる。
彼にとってはあまりにも辛い選択だっただろう。
ただ、彼は分かっていなかった。
そもそもシャトにとってカスタローレルを救う意味がないってことに。
「嫌ですわ」
「っ!? な、何故だ!? 最高名誉の地位を与えるっ! 男が欲しいというなら好きな男をいくらでも見つくろうっ、どうか、どうかカスタローレルを救ってくれっ、頼む! 俺とカサンドラでは無理なんだっ」
そりゃそうだろ。
王国とは、運営とはなんぞや。ってことを知りもしない王と浪費しか考えてない王妃。宰相がいればまだ良かったが宰相さんはザルツヴァッハ侵攻を否定したせいで前王により処されてた後。
王妃の助けも無く大臣達は己の富だけのために讒言をして互いに足を引っ張り合う。
もはや王国崩壊の序曲は終わり、中間地点も越えたあたりだ。
後はもう崩壊するのを指咥えて見届ける位しか出来ないだろう。
「そもそも、私は既にザルツヴァッハの王妃、カスタローレルを助けろというならば我が国の属国になればいいのでは、としか言えませんね」
「なっ!?」
「うーん、お母さんに土下座してでも引っ張り出すしかないと思うんだよ? おっと、失敬」
折角教えてあげたのに睨まれた。
お口にチャックなんだよ。




