1014話、ロゼッタ、科学の王
「おお、ライオネルの王よ、随分と遅かったな」
謁見の間へとやってきた私達を出迎えたのは、油やら錆やらで汚れた服のお爺さんだった。
好々爺といった朗らかな笑みで謁見の間に現れた彼は、ツナギ姿に手持ちのスパナそのままで玉座にどかっと座る。
ドワーフかなって思ったくらいなんかこう、工場のおっちゃんだった。
「最近は大体この位の日に来とるぞ。他の国でものぅ」
「そうなのか、そういえばここ数年ライオネルからの挨拶周りはかなり遅かった気がするな。まぁよい。我が国に居ると時間が過ぎるのが早くてな。機械を弄っておったら一日なんぞあっという間よ。御蔭で各国の到着報告が煩わしく感じてきおる」
「こちらも省けるなら省きたいがのぅ、他の国が黙っとらんだろ」
「そうなのだ。ここで双方以後挨拶しないでおこう、なんて取り決めたら二国間に軋轢生まれとか邪推されるからなぁ、全く俺ァ機械弄ってるだけでいいんだっつーのによ。王なんて柄じゃねぇんだ」
「ふぉっふぉ、ウチはそろそろ後進に道を譲るつもりじゃ。悠々自適に過ごす気満々じゃぞ」
「くあぁ!! 後継ぎが優秀で良いな全く。ウチの倅は機械ばっかりで嫁もいらんとか言い出す始末。最近では機械で嫁を作るとか抜かしだしてな。優秀な息子を育てたそなたなら俺の息子もなんとかできんか?」
「……」
陛下? なんでそこで私を見るんだよ?
「やめとけサイエンスフィアの。矯正を求めるなら別の方法が良い、うむ、我が国の教育係にまかせるとやりすぎるからの」
「あんだぁ? やりすぎくらいがちょうどいいだろ」
「責任持たんぞ。今の方がマシだと思うかもしれんし、どんな変化を齎すかわからん劇薬じゃ」
「それでも今よりゃマシだろ、ぜひ紹介してくれや」
「あー、一応、先に他国の居る場所で宣誓して貰おうかの、結果がどうなっても我が国に責任は問わんと」
「おいおい、まさか死なせる可能性があるとかじゃねぇだろうな?」
「そんなわけがあるか。死ねる訳があるまいに」
陛下、言い方おかしくありません? そこは死なせる訳が無いとかでは?
「なら問題ねぇな。面倒だが会議開始の時に宣言するからよ、息子の事頼むぜ。とりあえず普通の女抱きてぇって言うくらいになってくれりゃ問題はねぇ」
「う、うむ、そうなると、よいな……」
「ま、それはあとでいいとして、だ。そこに居るのはメテオラの嬢ちゃんだな。三か国がいっぺんに挨拶するってぇことは天竜とライオネルだろ、あとは……どこの国だ?」
「ああ、それは……」
陛下が何かを告げるより早く、パステルちゃんが前にでる。
「お初にお目にかかるぞ、さいえんすふぃあ? の人間の王よ。我が名はパステル。フリージア魔王国より来た魔族の王である」
「は? お、おいおい、魔族の王かよ!? こりゃたまげたな。つーこたぁ何か、今回の全国会議は魔族領も参加すんのか?」
「いや、彼女はあくまでも見学扱いじゃ。我が国の学園に入学しに来たついでに人族の会議を見てみたいと付いて来たのじゃ」
「ふぁー。そりゃまたどうして?」
「人族領に来たのは初めてでな。折角だからいろいろと体験しておこうと思ったのだ。丁度タイミング良く人族の国々が集まるというではないか。ならば顔だしくらいはしてみようかと、問題はあるか?」
「いんや。なんか面白そうだから許可する。ってまぁ王同士許可もなにもなく参加したけりゃしてくれってなところだ。だが暴れてはくれんなよ?」
「あ、当たり前だ私はまだ死にたくないっ」
「いや、さすがに王族同士で死傷沙汰にはならんが……?」
パステルちゃん、こっち見て怯えないでくれないかな? サイエンスフィアの王様が怪訝な顔してるじゃん。
「ま、挨拶はこんくらいか。んじゃライオネルの、一先ず今回の会議であげる議題はあるか? 議長国として議題は把握しとかねぇとよぉ」
「ウチからは無かったと思うが、宰相。どうだったかの?」
「我が国からは周辺国と共同して通行税の引き下げを行う話はありますが、これはコウチャノサイテン国が主催するからそちらから聞いておられるかと」
「おう、そいつなら聞いてるぜ。しかし、すげぇな、メルクナードやヘルツヴァルデまで参加してるってなぁ、一体何があったんだ?」
「……ぎすぎすしておった問題が、解決したんじゃ」
サイエンスフィア王の疑問に陛下はやや答え辛そうに告げる。
そして虚空を見上げ、感情を押し殺すように告げるのだ。
「……解決、したんじゃ」
すっごく国家間バチバチだったんだけど、いろいろあって解決した。なんだよ?
「ああ、忘れておった。もう一つあったわ」
「ん? なにがだ」
「アルカエスオロゥの聖女、ウチに亡命しとるんじゃ」
「大問題じゃねぇか!?」
今までの会話の中で一番驚いたなサイエンスフィア王。




