1002話、ジョー、今だ脱出ならず
SIDE:ジョー・ゲーコク
カスタローレル軍が良く分からない無人島にやって来てから一週間が経った。
正直に言えば、今のところ問題は無く生活基盤が出来ている。
各部隊に別れて住居を作成したり、食糧を持って来たり、探索してきたり。
洞窟痕らしきものはいくつかあったが、その全てが破壊されており、内部に入ることもできそうにない。
かなり広範囲に落盤があったようで、復旧させるだけでも何日かかることか。
正直開通させてもいい事はなさそうなので放置状態である。
下手に開いて魔物が溢れだしたりすれば、今の状況をさらに悪化させかねない。
ゆえに陛下の命令で手を付けない事に決まったのである。
脱出部隊は木々を使って船を作成中だ。
とはいえ素人が作る船。何度も試行錯誤することになるだろう。
未だに作られた船は海に沈んでばかりである。
さすがに万に届く兵士がいれば、いろいろ充実するのも早く、すでに家まで出来ている程に生活面は拡充していると言っていいだろう。
ただ、拡充したからこその問題が噴出し始めていた。
いくつかあるが、一番の問題は、何もしない王族たちだ。
部隊長以上であれば陛下を立てているようだが、木端兵士になればなるほど、何もせず命令しかしてこない陛下やその親族たちに憤りを抱き始めている。
何しろ自分たちは汗水垂らして食材を拾って来たり、家を作ったり、その間陛下達はと言えば。
まだ終わらんのか。いい加減日差しがキツイのぅ。腹が減ったぞ、雨が降り出したではないかどうしてくれる!
などなど、そんな言葉を吐くごとに部隊長達の時間が取られるせいで俺達の作業にも差し障りがでているのだ。
正直、俺も王族いらんと思う。
兵士達だけであれば皆揃って筏でも作って脱出出来ているだろうに、王弟が「陛下に筏なんぞに乗れというのか!」 とか威張り散らしているせいで未だに脱出は難しいし、食材も高級そうな物を中心に王族に奪われているのだ。
ここは、カスタローレルじゃねぇんだぞ?
お前ら、ここじゃ王と呼べる存在じゃねぇだろ。
折角苦労して集めてもあいつ等に搾取される。そんな思いが募りだし、兵士達の一部は徐々に個別の村を形成し、独自に脱出を目指し始めているのだ。
まだ一週間なのにこの状況である。
このまま時間が経てば、王族を弑してしまおうとか考える奴も出そうな気がする。
現に蔭口では王族死ねばいいのに、とか言ってる兵士がいたりするのだ。
部隊長達も聞いてしまっているが、王族には告げていないようだ。
「しっかし、こうして俺らが生きてられるのも、アレの御蔭だよな」
回収班に配属された俺は同僚たちと落下地点へと向っていた。
同僚たちは陛下たちにあまり良い感情を持っていないメンバーだ。
御蔭で俺もそっち側で頷かないと浮いてしまう。
俺はまぁ。王族だしアレは仕方ねぇんだろうな、くらいには納得できてるんだが。
アレの御蔭、っていうのは、一日数回。飛竜による食材の投下のことを言っているのだ。
数千人分の食材が一気に送り届けられるのだが、さすがにこの人数だと焼け石に水だ。
それにその食材のほとんどが王族に接収される。
ふふ、冗談じゃねぇよな。お前ら働きもせずに俺達の上前撥ねるだけかよ。
いや、カスタローレル王国に居た時ならいいんだ。でもここはカスタローレルじゃない。
だからあいつ等は王族ではなく、ここではただの人間である。
つまり、上前を撥ねられる地位はここにはないのである。
「なぁ、コイツ俺らで分配しねぇ? っていうかもう王様必要ねぇだろ」
「だよなぁ。王族がいるだけで俺らに食材が回ってこねぇしよ」
「自分らで働けよって思うよな」
不満が爆発だ。
こうなると皆止まらない。
「俺、彼女出来たばかりなんだよな」
「あー、丁度会いたい盛りじゃねぇか」
「そうだよ。馬鹿王がザルツヴァッハ攻めるとか言わなけりゃ一週間会いまくってたんだぜ。クソっ、一週間禁欲生活とかどうしてくれんだよ、丁度今がヤリたい盛りだろうがっ」
「そういや、他の奴らも風俗行けねぇとか叫んでたな」
「俺もそろそろヤバいんだよな。周り男ばっかだし知り合いばっかだろ、自分で処理とかも恥ずかしくてできねぇし、一部の奴が新人の尻、眼で追い始めてんだよ」
「あー、そういや一部の新人なよッとしてたな。女みてぇって言われてた奴だろ」
「お、おいおい、それ、マズくねぇか?」
「一度襲っちまうとそっち方面に増えていくとも聞くぞ。特に軍はヤバいって」
「お、おいおい、冗談に聞こえねぇよ……」
ちょっと待て。お前らなんか俺の尻に視線向けてねぇか?
なぁ、おい、なんで黙っちまったんだよ? なぁ?
「おっと、皆、アレだろ、今日の落下物」
「この飛竜便が無けりゃさすがに万を超す兵士全てを飢えさせずってのは難しいからな」
早く、早くこの島から脱出しなければ……
不思議な焦燥感に駆られながら、俺は飛竜便の回収作業を始める。
なんとなく、これから本当のサバイバルが始まる、そんな予感がしたのだった。




