1100文字で完結する少女のお話
「私、こう見えても妖精なんですよね」
自室でのんびりと休日を過ごしている時だ。
小学生低学年くらいの身長と体格で、背中に透き通った薄い羽根を生やした女の子が不意に呟いた。
コスプレでは無いのは既に確認済みだから、こんなこと言い出すタイミングが謎だ。
まるで衝撃の告白みたいな口ぶりにも聞こえるが、そもそも私と同棲して六年近く経っている。
「そーだったんだ。へぇ、妖精ね」
おそらく相手が期待しているであろう反応を一応してみる。
ただあまりにも杜撰な演技だったせいか、少女は不機嫌な態度を露わにしてきた。
「淡々と聞き流さないで下さいよ。今の反応は普通に酷いです」
「空飛んだり離れた物を動かしたりと……他にも不思議な力を使っているのを何度も見ているからね。さすがに今更って感じなんだけど」
「これでも一大決心のつもりで言ったんですよ。だって、この世界だと妖精はおとぎ話みたいな存在らしくて……。もしこの真実を知られたら、きっと人間は恐ろしい事をすると思っていたわけですし」
「妖精だとか関係無く、一回保健所に連れて行こうとしたけどね」
「あれは本当に酷かったです!しかも駅の大きいロッカーに詰めようともしましたよね!あれから私、駅が恐くて近づけないのですよ!」
「あはははっ、ごめんごめんって」
私がへらへらと軽い態度で謝るせいか、自称妖精の少女は不満気なままで納得いっていないようだった。
どうやら真剣さが足りないらしく、私は仕方なしに言葉を付け加えた。
「しょうがない。なら、今日は良い所へ連れて行ってあげるよ」
「えっ、どこですか!?」
「保健所」
意地悪な思いで答えた瞬間、妖精らしかぬ鬼の表情を見せてきた。
なんとも敵意丸出しの顔。
こんな顔ができるんだなぁと思いつつ、私は答え直す。
「うそうそ。寿司屋行こう。回る寿司屋」
「…え?お寿司屋さんが回っているんですか?」
「うん、そうだよー。もう店ごと回っていて、まるで遊園地みたいだから」
「それは凄いですね!是非とも行ってみたいです!」
妖精だからなのか、この子は人間と比べて純真無垢過ぎる。
どれだけ私がからかっても素直に信じて、心の底から目を輝かせる姿は好きだ。
それにこの子は………とても苦しかった私を不思議な力で助けてくれたから好きだ。
いつか目の前から消えてしまっても、実は夢で存在しなかったとしてもいい。
少なくともこの妖精は私を心の拠り所にしてくれていて、その一方的な期待が私に生きる活力を与えてくれている。
そんな今だからこそ過去の幼かった私に言いたい。
どこかへ連れて行かれたり閉じ込められる事になっても、未来に期待して生き続けて欲しいと。
そうすれば同じ高さの視線で話してくれる、自分にそっくりな妖精さんが目の前に現れるよ。