皇帝を目に掛ける
久しぶりです
帝国はとても沢山の生物で賑わっていた。有名どころで言うとリザードマンやエルフ、果てはリザードマンと人間のハーフのような生き物までいた。地球にいた頃に普通に過ごしていたらまず見たことの無い生き物が居た。
僕が居た高校は普通じゃなかったから見たことがある生き物ばっかりだった。どんな生活だったのかはまた今度。
街並みに目を奪われた。綺麗だ。石造りの家、緑の葉を生やした樹木、土で固められた道。それはよくファンタジーの世界で見るような街並みだった。お世辞でも、科学が発展しているとは言えなさそうな世界だった。
店で売っている物にも目を奪われた。リンゴのような赤い果実、日本にあった着物のような服、シーサーのような置物。どう見てもこの世界にあるような物ではない。
もしかすると、この世界とあっちの世界を行き来する手段があるのかも知れない。もし本当にあるなら最後に母さんに会いたい。
街の中心に一つ、大きな建物が見えた。それは城のような見た目をしている。
「街の中心に見えるのが王城です。皇帝は王城の玉座にいます」
やっぱり城だった。しかも王城。やっぱり皇帝と言うからには髭を生やして恐い顔なのだろうか。会いたくなくなってきた。
逃げ出そう。凄く恐くなってきた。
「あははー。ちょっと忘れ物してきちゃったー。森に戻ろっと」
そろそろ~っと逃げようとしたら、マリアさんに腕を捕まれた。振り払おうとしても振り払えないし逃げられない。てか、痛い。骨がギシギシいってる気がする。気がするじゃない、ギシギシいってる。男の僕が逃げられないとか握力強すぎやしないか?
「何言ってるんですか勇者様。そんなの城に居る騎士に頼めばいいんですよ。皇帝の所に行きますよ!」
そう言った後、腕を離してくれた。まだ痛い。多分骨に罅入ってる。全治二週間とか掛かる。
マリアさんによって僕は王城に連れて行かれた。
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マリアさんに(半ば強制的に)王城に連れて来られてしまった僕は今、特別応接室に居る。皇帝が来るまで待っていて欲しい、との事だ。
皇帝が来るまでの間、特別応接室を見て回った。見て回った、と言うのは特別応接室が凄く広いからだ。多分、この部屋だけで僕の部屋(たしか6畳くらい)の12倍以上はあるだろう。ざっと60畳以上?特別応接室広すぎる。誰を応接するんだよ。
特別、と言われるだけあってとても豪華だ。例えば、黄金でできたシャンデリア。よくよく見ると照明の類いは全部黄金でできている。道理でずっと眩しかった訳だ。重くて落ちたりはしないのだろうか。いや、よく見ると浮いている。やはり、この世界には不可解な事が多い。
他にも豪華(?)に見えた物はある。何をモチーフにしたのか分からない変なポーズをした人型の置物、どう見てもモナ・リザにしか見えない絵、そして禍々しい壺がある。他にも沢山美術品はあるけれど、特別気になったのはこの三つだけだ。
モナ・リザもどきと置物は誰かをモチーフにしたのだと分かるけど壺だけはモチーフが全く分からない。だから、他の二つより興味を引かれた。
その所為で、勝手に腕が伸びてしまった。
「おい、おじさん。勝手に人の壺を触るなよ。人の物を勝手に触っちゃいけないってママに教えてもらわなかったか?」
突然、特別応接室に入ってきた少年が叫んだ。その少年はただの小学生くらいの坊主だった。しかし、着ている服は高級そうで、いかにも上流階級のお坊っちゃま、という印象だ。
「おじさんだって?喧嘩売ってんのか、坊主?」
「いやだって、おじさんじゃん」
「俺にそう言ったってことはやるんだな?おい?」
今にも生意気な坊主と僕の喧嘩が始まろうとした時、
「皇帝も勇者様も喧嘩はやめてください!」
凛とした声が特別応接室に響いた。マリアさんの声だ。今何て言った?皇帝と言ってなかったか。この生意気な坊主が皇帝だって?
「マリアさん、この生意気な坊主が皇帝なんて嘘だよね?」
「おいマリア、こいつが言ってた勇者か?この無礼者が?」
僕と坊主─皇帝の言葉が被る。僕は心底ムッとした。こんな生意気な坊主と言葉が被るなんて。そう思って坊主を見ると同じ事を思っていたのかムッとしていた。
「二人とも、まず落ち着いて下さい。ここにいるのは皇帝と、勇者様の圭さんです。喧嘩は、やめて下さい」
マリアさんに免じておじさんと言った事は許してやろうと思う。僕が大人だって事を坊主に解らせてやる。
「喧嘩?なんのことだよ。このおじさんがつっかかってきただけだ」
前言撤回。やっぱこの坊主許さねぇわ。
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「ふぅん。じゃあ、おじさんが今代の勇者か。ちょっと嫌だな」
「ああ?嫌とはなんだ嫌とは。俺だって勇者なんか嫌なんだよ」
「ちょっと二人とも、喧嘩を始めないで下さい」
嫌だ?ふざけるなよ。僕だって嫌なんだ。ってか勇者って何すればいいんだ?まさか魔王でも倒せってか?やってやろうじゃないか。魔王でも神でも殺してやるよ。
と、ここまで考えてふと思った。勇者って何するんだ?
「それで、勇者ってのは何をすりゃあいいんだ?なんかよく解んないが、この本が読めない所為で全く解らん。てか、俺が勇者だって事もマリアさんと会って初めて知ったんだ」
「本が読めないとか今代の勇者役立たず過ぎ。本読めるようにしてあげるから待ってろ」
坊主がそう言った瞬間、部屋全体が白い光に包まれた。これから詠唱だとか儀式が始まるのかとワクワクしていると、坊主の声が聞こえた。
「終わった。本読んでみな」
「えっ!?もう終わったの?」
思ったよりあっさりすぎてびっくりした。坊主に言われた通りに手に持っている本に目を向けた。
そこに書いてあったのは、
「いせかいのしおり☆だぁ?舐めてんのかよあのピエロ?」
「ピエロ?」
「いや、何でもない。こっちの話だ」
それにしても驚いた。本当に読めるようになるなんて。魔法なのか?それとも魔術?よくわからないけどここの文字が読めるようになったのはいい収穫だ。この坊主が嫌いだからって帰らなくて良かった。
「その本に何が書いてあるんだよ、おっさん」
「何でお前に教えなきゃいけないんだよ。こっちに教える義理がないだろ」
「いや、読めるようにしたじゃん」
「くっ」
痛いところを突かれた。しかし、このまま教えるのもなんか癪だと思う。何か取り引きをしなければ。
そうだ!さっき気になった禍々しい壺をもらおう。
「じゃあさ、あの壺くれよ」
「いいよ」
よっしゃあ!案外あっさりくれた。
「呪われてるからいらなかったし」
ん?今呪われてるって言った?だからあっさりと貰えたわけね。呪われてるの嫌だな。どんな呪いなのかにもよるけど。
どうにか交渉して他の物に変えられないかな。
「あのさ、他の」
「無理」
「早くない?」
しょうがない。諦めるか。
こんな茶番なんてやってないでさっさとこの本を読んで見たいんだ。
「それで、この本に書かれてる事だけど」
「おう」
そう言って僕は本─いせかいのしおり☆─を開いた。
ヒロイン、今回出るはずだったんですけどね