目を通した結果
「おうぇぇ。気持ち悪ぃ」
異世界に来てそうそう嫌な事が起きた。気持ち悪い。しかも、乗り物酔いした時のような気持ち悪さだよ。多分、転移した時に酔った。これを転移酔いと名付けよう!
「さってと、ここはどこかな?」
転移酔いのせいで気付かなかったけど、辺り一面木、木、木しかない。ある木には虹色の気色悪い実が生えていて、ある木には見るからに毒々しい紫色のキノコが生えている。これくらいは通ってた学校にあったから普通だけど、明らかに何かが違う。解らないけど。解らないから後回しにしよう。
神を騙るピエロから何か貰った気がする。何か思い出せないけど。何だっけ?
「そうだ、ガイドブック貰ったんだよ」
僕は手に持っている本に目をやった。何やら文字が書かれているけど、全く読めない。子供の落書きにしか見えない。おそらくこの世界の常用語なんだと思う。『異世界での心得』みたいな感じで書いてあったりして。
「読めねーよ。せめて英語にしてほしかったぜ。流石に開いたら読めるようになるよな?」
何が書いてあるか怖いけど、恐る恐る開いてみる。そこに書いてあったのは、よく解らない文字だった。
「開いて読めるようにならないのかよっ!」
右腕をピーンと伸ばして激しく、豪快に振ってツッコんでしまった。ここに人が一人でも居れば僕は羞恥によって全身真っ赤になり顔から火を吹いていたと思う。
そう、まさに目の前に居る女性のように。
「…ん?」
「何を、されているのですか?」
終わった。今まさに、氷刃圭の二度目の人生は終わったのであった。─END─
─出演─
氷刃 圭
エンディングテーマ「再会と災害」
「いや、出演てドラマか!」
またもや右腕をピーンと伸ばし、激しくかつ豪快に振ってツッコむ。いきなりエンディングに入ってしまった。しかもスタッフロールまで流れていた。なんだよ再会と災害て。
ふいにさっきまで目の前に女性がいたことを思い出した。
「何を、されているのですか?」
女性は純粋無垢な瞳で僕のことを見つめている。それは、まるでまだ何も知らない子供のような……昔は誰でも持っていたものだった。
凄く眩しい。何も悪い事をしていないのに罪悪感が出るくらいに眩しい。
繰り返すけど僕は何も悪いことをしていない。謎の罪悪感は汚れてしまった自分から来ているものだ。多分。もうどうしようもないけどね。
「おねえさまー。なにしているんですか?」
「今、この本を持っている方が何をしているのか聞いているとこよ。この人、さっきから変なことばっかりしているのよ」
さっきから言わせておけばなんだ。変な人だとか変なことだとか変態だとか。いくら温厚な僕でも怒るぞ。ガツンと言ってやろう
「さっきから言わせておけばなんだよ。変なこととか変な人とか。ふざけるな。そもそも俺がこんなことしているのはこの変な本のせいなんだよ」
そう言って僕は本を見せた。
「その本…あなた様は勇者様でしたか!」
「ほへ…勇者?」
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勇者様(僕の事らしい)がいたのを皇帝に報告しないといけないらしく、僕は今女性と少女と《帝国ガルド》に向かっている。因みに僕が転移して来た森は《アメリアの森》というらしい。エルフが支配しているそうだ。
「それで、俺が勇者だって?」
「はい。『数千年に一度、雷鳴が鳴り響き夜、天使の像が目を開く。その時、大樹の前に黒髪黒目の勇者が本を持って現れるだろう』と、皇帝は予言しました」
「その予言のおかげで俺がここにいることが分かったのか?」
「いいえ」
女性は首を横を振る。
「雷鳴なんて毎日鳴ってますし、天使の像なんて遠隔操作でいつでも目開かせることできますよ。でも毎回、樹の前を見に行けって皇帝が言いますから毎回私と妹が来てるんですよ。」
その後も女性は皇帝と呼ばれる人の愚痴を言いまくった。皇帝は変態だの我が儘だのうるさいだの可愛いだの。
色々不満だったみたいだ。最後のはどう考えても不満じゃないと思うけど。
「そういえば名前を言ってませんでしたね。私の名はメリー・グランディンで、こっちが妹のマリア・グランディンです」
「俺は氷刃圭。多分勇者とかの器じゃないだろうけどよろしく」
それにしても、生神女と呪いの人形か。何か関係はあるのか?いや、物騒な事を考えるのはやめよう。多分関係無いだろう。関係あるな。お願いだから。マリアという名前の人と関わると碌な事が無い。
そんな事を考えていると、女性─マリアさんが話し始めた。
「実はこの名前、結構気に入ってるんですよ。どこかの世界のしょうしんじょ?とかいう人の名前らしくて。何より、父が付けてくれたんです。子供ができたらこの名前にしようかと思うくらい好きなんです」
完全にあのマリアだ。超関係あった。マリアさんのお父さん、どんな人か解らないけど恨んでやる。マリアという名前は碌な事が起きない呪いの名前だからな。少なくとも僕にとっては。
「着きました」
「ついたー!」
マリアさんのお父さんに恨みをぶつけていたら帝国に着いていた。誰かに恨みをぶつけるって時間忘れられるな。
「さあ勇者様、行きましょう!」
僕の異世界ライフは始まったばかりだ!
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後から思えばあの時必死に自分が勇者じゃない事を訴えていれば良かったと思ってる。
そうすれば、彼女達は死ぬことはなかったんだから。
さて、次はいつ更新するのやら
追記:ヒロインを登場させると言ったな。あれは嘘だ。