目も飛び出る程の驚き
三度目の正直
朝になった。目が覚める。何かが変だ。そう感じた僕はとりあえずぐるっと辺りを見回した。そこは、僕の部屋とは似ても似つかない、真っ白な部屋だった。なので無論、僕の家ではない。
一言で言って、奇怪だった。部屋が奇怪なら飾られている物も奇怪だ。明らかに物理法則を無視して浮いている水晶、見た目は金属なのに触るとぶよぶよとする気持ちの悪い箱。何もかもが地球にある物とは、根本的に何かが違うようだった。
いろいろ漁ったりしていると、コツ、コツ、と音がした。どこから聞こえてくるのか探すと、それは目の前の壁から聞こえるようだった。
「やっと気付いたみたいだね」
壁から声が聞こえた、と思った時には目の前にピエロが立っている。さっきまであった壁が無くなっている。意味が分からない。この部屋、いや僕が居るこの世界に質量保存の法則はないのだろうか。
しかし、今はそんな事はどうでもいい。いや、よくはないけど関係は無い。今問題なのは、僕がここに居る事だ。
「俺に何があったんだ?何故ここに俺はここに居るんだ?」
「死んだからだよ」
そうか。死んだのか。そうか。死んじゃったのか。…は?死んだ?意味が分からない。あまりにもあっさり言われたので一瞬気付けなかった。何があって死んでしまったのか。
しかし、このピエロなら知っている気がした。
「おや?さっきの子より冷静なんだね」
「聞くと納得出来る事が多かったからな。それより、さっきの子って言ったな」
「ああ、言ったとも。君と同じくらいの女の子だったかな」
さっきも、ここに人が来たというのか。ってことは死んだ人がここに、来た。それをこのピエロは知っている。一体、何者なんだ?
「お前は、誰だ?」
「ボクかい?ボクは君たち人間の言っている、神ってやつだね」
意外にも、神らしい。神はピエロの格好している、変な奴らしい。神がこんな奴だと知ったら生きている人達が失望するだろう。死んでいるから伝える方法は無いけど。
「神…神か。神なら」
「それは出来ないよ」
運命を変える事が出来たんじゃないか、と言う前に答えられた。心を 読まれたのだろう。確かに、一応は神らしい。
「一応、じゃなくてちゃんと、神だよ?」
ピエロ─もとい神が何か言っている。しかし、どうでもいい。知りたいのは自分の死因だ。少なくとも、昨日寝るときに変な事は無かったはずだ。何か、死んでしまう予兆とかはなかったか、必死に考えてみる。
すると、ピエロがゆっくりと口を開いた。
「殺されたさ」
「おい、どういう意味だ。今のは」
「どういうも何も、そのまんまだよ。普通、不幸にも死んでしまった人はここ、『マナの溜り場』に来る。その時に死因も解る。殺されたなら殺した犯人もね。死んだ本人がこう死にましたって言うから。直感的に解るらしい。そして我々も本当にそう死んだのか死んだ本人と死んだ瞬間を見返す」
よく解らない制度だ。僕はここに来たときに死因も、僕を殺しやがった奴も解らなかったぞ。
「しかし、君は誰に殺されたのか解らない。いや、一部は解っているのだが」
「どういう、ことだ?」
「君は地球とは違う世界、俗に言う【異世界】って所から来た奴に殺された。しかし、正確に誰に殺されたかは解らない」
意味がわからない。誰に殺されたのか解らないとはどういう事だ。ピエロが説明してくれていたが、正直全く聞いていなかった。犯人が解らなければ、恨むことすらできない。
「何か、方法は無いのか?俺を殺した奴を特定する方法」
「あるとも。君が異世界の住人に殺された事は解っているからね」
「じゃあ、そいつの所に連れて行ってくれよ。神ならできるだろ。」
「誰が解らないのに場所が解るわけがないだろう?連れていけるわけないさ」
「…そっか」
「だが、君が誰に殺されたのかは我々にとっても知りたいことだ。なので、君には異世界に探しに行ってもらう」
自分を殺した奴を探しに行く。必ず見つけて殴ってやる。
そして、夢にまで見た異世界ライフだ。チート能力使ってハーレムウハウハ生活を送ってやる!
「それじゃあ、そろそろ行ってもらうとしようかね。誰もいない所にしておくから」
「え!ちょ!待てって!心の準備が…」
「ああ、そういえば、忘れてた。このガイドブックを持っていきな。今から君が行く世界のアレコレが書かれている。後、犯人を捕まえたらそのままそっちの世界で住んでもいいから」
と、ピエロが言ったところで、空気が一段と重くなった。ピエロも、さっきまでのふざけたような顔ではなく、神妙な顔つきに変わっている。
「実を言うと君を殺した犯人、私は分かっているんだ。私は神の中でも少々特殊な方でね。でも、他の神々に教えることは出来ない」
「じゃあ俺にだけは教えてくれよ」
「残念だが、それはできない。私としては、君に教えておきたいのは山々なのだが」
あのピエロは俺を殺した奴を知っている?どういうことなんだ?と、思った時にはピエロはさっきまでの、不気味な笑顔に戻っていた。
「じゃあ、のんびりまったりの異世界ライフ、楽しんでらっしゃ~い」
手を振るピエロがそう言ったところで圭の意識が途絶えた。
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圭を異世界に送った少し後の事。ピエロは、ため息を吐いた。瞬間、周りにあった水晶、箱などが一点に集まり、人を型どった。それは見た目は七、八歳位の少年だった。
「来るなら先に言っておいて下さいよ。準備出来ないじゃないですか」
「大した準備もしないくせに僕に指図しないでくれるかな?」
「…すみませんでした」
ピエロへは少年に頭を下げる。見た目だけで言えば七、八歳の少年も、ピエロと同じ、いや、それ以上の神なのである。そして、その齢はゆうに三百を越えている。
因みに、ピエロはというと齢、百にも満たない新人である。
「あーそうそう、それでだけど、彼はどうだい?」
「一言で言うなら面白い、ですかね」
「面白い、か」
少年は、少し考える素振りを見せる。そしてピエロの周りを歩き始めた。ピエロが疑問に思い、質問をしようとすると、少年ははたと立ち止まった。
そして、静かに、ゆっくりと口を開く。
「彼なら、やってくれるかい?」
「何を、ですか?」
「それくらいは分かってほしいな。でも、今のは少し僕も悪かったかもな」
「いいえ、全部私が悪いです」
「それで彼なら、奴をやってくれると思う?」
「今はまだ分かりませんが、きっと、やってくれると思います」
「そうか、なら面白いな」
少年は口元を少し上げ、ニヤリとニヒルに笑った。と、同時に少年の姿は消えた。
「さてさて、ここまではボクの計算通りに動いているけど、っと」
ピエロは指をパチン、と鳴らす。その瞬間、ピエロがいた場所が主の消えたような部屋に変わっていた。
「ここから、圭がどう動いてくれるか、だな」
ピエロは主が消えた部屋の物を漁る。
「あったあった!これさえあれば、圭を操ることは簡単♪」
ピエロが手にしていたのはある一人の人間が写っている写真だった。
「さあ、足掻いてくれよ。そうでないと、君の目標は達せられないからね」
ピエロがまた、指を鳴らす。すると、ピエロがいた場所が真っ暗な空間になっていた。
「さあ、どれだけ楽しめるかね」
ピエロは暗闇に消えていった。
タイトルが思い付かないので、何かいいタイトルがあったら感想等で教えてくれると嬉しいです。