目を覆いたくなるプロローグ
その日、彼はとても機嫌がよかった。明日は2月14日、そうバレンタインデー。バレンタインと言えばチョコである。好きな子がチョコをくれると言うのだ。17歳。心も体もまだまだ発達の余地がある年頃の男の子である。好きな子からチョコが貰えることは心身共に良くも悪くも影響─この場合は良い影響─がある。
「ただいまー」
機嫌が良いまま帰る。
「おかえりなさい。何か良いことでもあったの?」
親というのはやはり子供をよく見ているものなんだな、と彼は思う。彼は出来るだけ感情を出さないようにしたつもりだった。
最も、そう思っているのは彼だけであって、周りの人たちは彼に良いことがあったのだと、見てすぐに分かった。
「べつにー。なんでもないよー」
「その割には嬉しそうだけど、まあいいわ。どうせバレンタイン関係だろうから」
「よく分かったね。母さんって超能力者だったっけ?」
「違うわよ。そんなことばっかり言ってないで、さっさと手洗って勉強してきなさい」
「はーい」
そんな、他愛もない軽口を言っておやつを食べながら勉強をする。こんな日常がいつまでも続くと彼は思っていた。
─その夜、氷刃圭は死んだ。