ビスクドールの心
目の前に広がる深い暗闇、それが目を開けることの無い私が知っている風景。
何も見えない暗闇のなか、すべすべだったり、少しザラザラしてる大きくて湿り気のある何かが私に触れている。少し冷たいけど、でも…温かい。
カチャリとかコトンといった小さな音しか聞えなかったのに、私の近くで声が聞こえた。
「この子には可愛いフリルよりナチュラルなレースの方が似合うかな?」
聞いたことの無い、低く渋い声が聞こえる。フリル?レース?何を言ってるのかわからないけど、この人は迷っている。それだけは分かった。あの後、
「ちょっと失礼」
また声が聞こえた。と思ったら、少し冷たいけど、温かい何かがあたしに触れる。でも、私に触れるあの時とは違う。右腕と左腕は片方ずつ包まれていて、胴体も包まれているけどお腹は少し締め付けられている。脚は右脚と左脚が一緒に包まれていて、足には左右で固い何かに包まれている。不思議に思っていた時にあの声が聞こえた。
「素晴らしい!やはりレースにしてよかった。とても似合っているよリーシャ」
低くて渋い声なのは変わらない。喜んでいるからだろうか?初めて聞いた時の声の低さとは違った。
その他にもいろいろなことが分かった。今私を包んでいる何かはレースであること。そして、私には"リーシャ"という名前があるということ。その時、胸のあたりが熱くなった。これが嬉しいという感情なのかしら?だとしたらなぜだろう。名前を呼んで貰ったから?レースで包んでくれたから?それとも、別の理由が?
だとしたら、もっと知りたい。私に触れる冷たいけど温かい何かを。そして、低くて渋いあの声をもっと聞きたい。できればこの先ずっと……。