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-タンザナイト-  作者: プレイヤー1
タンザナイト――1
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タンザナイト――1―3

 目が覚めた時、俺はソファの上で横になっていて毛布が掛けられていた。窓の方へ目を向けると、入ってくる光は弱々しい橙色に変わっている。


「ごめんね、放っといちゃって。持ってた機械はテーブルの上に移したよ」


 申し訳なさそうに笑う愛梨さんの側に、金髪セミロングで金色の瞳をした美少女が立っていた。


「陽平君、この子が友達の七尾桜子」

「初めまして、富山陽平です」


 首だけでお辞儀をしながら名乗る。

 俺のことは寝ている間に紹介されたらしく、彼女はもう聞いたとでも言いたげな顔で小さく頷き、こちらに歩いてくる。


「貴方が寝てる間、あーちゃんから色々聞いた。あーちゃん丸め込んで色々楽しんでたんでしょ。ご奉仕させたり、この後も色々、そう、色々」


 七尾さんは表情を変えることなく淡々と告げる。

「ちょ、ちょっと桜子、そんな言い方しないでよ。何か、卑猥だよ」


 どこか恥ずかし気な姿も様になっていて、七尾さんも確かに整った顔立ちをしていてモデルのようだが、どちらがタイプかと言われると愛梨さんだ。

 起きてすぐに俺は何を考えているんだと呆れ、溜息が出る。


「卑猥、ねえ。あーちゃんは一体何を思ったのかな」


 にやりと笑い、振り返ろうとした七尾さんの頭を愛梨さんは軽く叩いて無理矢理止める。


「それ、私じゃなくて陽平君に……」

「ちょっと愛梨さん!?」

「陽平君違うの、そうじゃなくて、そっちじゃなくて。もう、桜子、後は任せた」


 愛梨さんはもう一度振り返ろうとした七尾さんの頭を叩き、溜息を吐く。


「でも、あーちゃんがあたしに頼んだことはそういうことなのよ」


 愛梨さんは視線を逸らしてこちらを見ようとしない。

 愛梨さんの方ばかりを見ていると、這い寄ってきた七尾さんに上半身を押し倒されると、肘掛けに頭をぶつけた。痛くはなかったが視界が揺れる。


「ごめんね、あーちゃんはもっと貴方のことが知りたいんだって。貴方の同意も心情も関係なく」


 七尾さんの顔がだんだんと近づいてきて、輝かんばかりのその金色の瞳が俺の目の奥を覗き込んでくる。

 横から見ると、俺でもきっと美少女に襲われて羨ましいと思うだろうが、当事者になると、逃げ出したくなるような異様な圧迫感しか感じない。


「あーちゃんあーちゃん」


 無表情だった七尾さんが突然、驚いた様子で振り返る。


「とりあえずあーちゃん、可愛いって」

「え、あ、ありがとうございます」


 俺にはよくわからないが、いきなり愛梨さんに感謝された。


「あーちゃんあーちゃん、家族とか初恋とか。あーちゃんの初恋っていつ?」


 七尾さんは俺を見据えながら愛梨さんに質問する。聞かれても答えたくはないが、どうせなら俺に質問すればいいのにと思う。


「彼の出身地は日本、エネルギーカラーは茶、年齢は十七、家族構成はお父さんお母さんと弟、おばあちゃん。彼女は今まで一人もいなくて、初恋は小学二年生の時に近所に住んでいたお姉さん。彼にとってはここが異世界で、あの機械は携帯電話っていう通信機器。で、この世界に来た理由はアニメやゲームで異世界に憧れていたから」


 俺は何も話していないはずなのに出身地どころか初恋のことまで知られた。どういうことかわからないが、催眠術にかかったのか、それとも頭の中を読まれたのか。


「何で、何したんですか。俺なんか言いました? 俺が言ったのか?」

「ごめんね陽平君、少し待ってもらえるかな」


 愛梨さんは拒むように手のひらを見せる。俺の疑問より、自分の知りたいことを優先したいようだった。

 もう一度質問しようかとも思ったが、今は引き下がることにした。


「そうなんだろうって思ってたけど、でも、茶色で、どうやって?」

「名前のわからない人に送ってもらったらしいわ。もともと彼の世界にはエネルギーって概念も能力も存在しないからその時くじ引きで与えてもらった。瞳の色、現れた光は群青らしいから、その人の能力なら問題ないわね」

「でも、そんなことしてもその人に何の意味があるの?」


 七尾さんは何も言わずに首をかしげる。

 戸惑う俺を置き去りにして二人の話しは続く。


「愛梨さん、七尾さん、群青だったら何かあるんですか」


 彼も茶色だからとか言っていたが、その色がどのように能力に関係があるのか全く知らない。この世界出身ではないと知られたのだから、この機会に聞いてみてもいいかもしれない。


「ごめんね陽平君、もういいよ」


 愛梨さんは微笑みながら顔の前で手を合わせ、七尾さんもそれに追従するように少しだけ頭を下げる。


「カラー群青の能力は時間操作、空間操作、天体操作、事象操作等よ」


 七尾さんは教科書を読み上げるように言う。

 時間操作と空間操作は、いや、天体操作も五十歩譲って漠然とでもイメージできるが、事象操作と言うのが百歩譲っても、五百歩譲ってもイメージできない。


「じゃあ、愛梨さんと七尾さんの色とか能力って。それより、能力って皆持ってるものなんですか」

「皆、うん、みんな持ってるね。で、私たちの能力だけど、私はカラー銀で金属操作系能力。桜子はカラー金で心情操作系能力」

「だから、今あーちゃんが発狂してあたしたちを殺しにかかると、あたしたちは一方的に殺されるだけ。でも、それもきっとあーちゃんの愛の形だと思うから、あたしはそれでもいいわ」


 無表情でも柔らかく、落ち着いた声なのに内容は物騒だった。


「先生、まだ質問いいですか」

「私はいいけど、桜子は」


 尋ねられた七尾さんは何も言わずゆっくりと頷く。

 聞きたいことは少なくなかったが、それらを全て質問するのも申し訳なく思い、なるべく項目は減らした。減らしたはいいものの、わからないことが余計に増えたような気もした。


 一応俺だけの一方的な質問ではなく、彼女たちから向こうの世界や俺自身のことについて質問もされ、質問大会は日も沈んだ後、七尾さんが空腹を訴えるまで続いた。

 何が食べたいかと愛梨さんに聞かれたが、この世界の食べ物なんか知らないので、何でもいいと返事をすると七尾さんが怪しく笑って端末を操作する。


 何だろうと思ったが、直後に愛梨さんが端末を確認して呆れたように笑ったので、メールでも送ったのだろう。

 愛梨さんの中ではメニューが決まったようで、俺は買い出しに向かおうとする彼女を呼び止め、同行する許可をもらう。


 向かった先は、昼間とは違う近所にあるスーパーマーケットのようなところだ。近所のと言っても、俺が見慣れたものよりずっと大きい。

 食材は知っていたり聞いたことのあるものの他に、見たことも聞いたこともないものも多かった。この世界特有の食材なのだろう。

 二人で買い物している時、空腹で腹が鳴る。今日は何も食べていないことを思い出す。


「もしかして陽平君、昼も食べてないんですか?」


 愛梨さんは何故か今にも泣きそうな顔で聞いてくる。


「そうですね、何も食べてないですけど。でも、人間一日何も食べなくても――」

「ごめんなさい、気付いてあげられなくて。許してください」


 手も震えて、泣きそうなだけではなく、怯えているように見える程に愛梨さんの反応はとにかく異常だ。


「愛梨さん、別に俺のことなんかそこまで気にしなくても。俺は別に一日くらい食べなくても腹減ったくらいにしか思わないですって」

「だめ、だめなの。それじゃあだめなの。それだと気の利かないだめな子になるから。気配りできない悪い子になるから」


 周りの人の視線が集まってきているように感じる。

 女の子を泣かす冴えない男みたいに思われたくないのと、悪目立ちしたくないという保身ばかりが頭の中で繰り返し現れる。


「愛梨さんお願いです、えーと、七尾さん、七尾さんが待っているので」

「七尾さん……桜子。そっか、そうだね」


 それからもしばらく俯いたまま手も震え、消え入りそうな声でごめんなさいと幾度も呟いていた。

 買い物を終え、帰路に就く頃には調子も戻って笑顔になっていた。


「陽平君、さっきはごめんね」


 何と言えばいいのかわからない、溜息が出る程そんな自分が情けない。


「ねえ陽平君。行く当てがないなら、私の家に住まない?」


 彼女はそう言って優しく笑うが、それは今日であったばかりの相手に言う台詞ではないと思う。出合って半日、一体どこで好感度が上がったんだ。

 今荷物を持っているのは俺だが、それだけで好感度が上がったとは考えにくいし、もしたったそれだけで上がったなら、愛梨さんには教育が必要だと思う。


「愛梨さん、俺たち今日会ったばかりですよね」

「そうだね。でも、今日の私の運勢には出会いがあるかもってあったから、きっと神様の巡り合わせだよ」


 愛梨さんの声は楽しそうに、どこか喜んでいるようにも聞こえた。


「これだけ科学が発達してるのに、何で占いなんか」

「占いの結果が良くて、その日一日を楽しく幸せに過ごせるなら、それでいいんだよ。科学とか、その程度の物は関係なく、あった方が、きっといいの」


 容易に砕けてしまいそうな儚さと切なさを漂わせる笑顔で、声を弾ませる。


「でも、付き合っているわけでもないのに一緒に住むっていうのは、色々と問題があると思うんだよ。やっぱり」

「陽平君は私のことどう思っているのかな? 好きか嫌いかで」


 この質問で俺は何を求められているのかを考える。

 嫌いと答えて泊めてもらえなくなるのは困るが、好きと答えても話が複雑化する一方のような気もする。


「愛梨さん、突然どうしたんですか」

「別に、嫌なら答えなくてもいいよ。無理に知ろうなんて思わないから安心して。私は貴方がどう思っていたとしても、居場所が見つかるまでは面倒みてもいいって思ってる。でも、陽平君が好きな相手としか暮らせないって言うなら」


 心なしか結局複雑な方へと話が進んでいる様な気がする。


「愛梨さん、帰りましょう。腹減ったんで」


 彼女はハッと我に返ったような表情になると、微笑みから笑顔へと移ろう。


「いっぱい作るから、いっぱい食べてね」


 その笑顔は不思議ととても眩しく見えた。

 それより、今からそんなに作られても、夜中になっていそうな気がするんですが。


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