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-タンザナイト-  作者: プレイヤー1
タンザナイト――2
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タンザナイト――2―3

 明日は授業がないという事で七尾さんが泊まることになった。

 嫌いなわけではないが、何されるかわからないし、何を読まれるかわからないという事で警戒しなければならず、妙に疲れるのだ。


「突然だけどいいかしら。二つ上の階のに住んでいる人は、今何してると思う」

「本当に突然ですね。というか、能力使ったんですか」

「使ってないわ。いいから答えてくれないかしら」


 七尾さんは溜息を吐いて、呆れたような表情で言う。

 溜息を吐きたいのは俺の方だと主張したかったが、面倒なことになりそうなのでやめた。


「腰に毛布を巻いて、果物の皮を剥きながら踊ってる、かな」


 その言葉を聞いて、俺が本当に愛梨さんが言ったのかと戸惑ったが、本人はというと、おかしなことは言っていないとでも言いそうなほどに真顔だった。


「インパクトはあるけど、そこまで面白くはないわね。といっても、何も答えられないぽんこつよりはましかしらね」


 よくわかっていない俺には理不尽に貶されたようにしか思えない。


「なら、自分の身体を麻縄で縛って興奮しながら四つん這いで這いまわってる、とかかな」

「それはまた、自由な人ね。でもそれって、あーちゃんの趣味じゃないかしら。自分から性的趣向を暴露していくなんて、あーちゃんてばお茶目なんだから」

「違う、私そんな趣味無い、無いから」


 手を振りながら全力で否定する。


「確かに、縛られたいって思わなくもないけど、でもそれは、手足くらいだし、麻縄じゃなくてリボンがいいし」


 胸の前で両手を忙しなく動かしながら、顔を赤らめて恥ずかしそうに続けた。


「あーちゃんの趣味って大体こんな感じなのよ。だから、そこそこ強引な方がいいのよ」


 そんな愛梨さんを指さし、薄ら笑いを浮かべながら七尾さんは楽しそうに言う。


「よーくん、今日はあーちゃんで遊びましょうね。何してもいいわよ。あたしが許可するわ」


 獲物が決まって楽しそうな七尾さんを見ていると、獲物に同乗してしまう。

 愛梨さんは今までよくこの人と付き合ってこれたなと、心の底から感じる。


「丁度いいところに、ここにリボンが二本あるわ。これをどう使うかはよーくんに任せるけど、あたしとしては、獣のように欲望を剥き出しにしてあーちゃんを押し倒してほしいものね」


 鞄から取り出した桃色のリボンを俺に突きだしてくる。

 二本ともそれなりの長さがあり、人の手足を縛るくらいなら容易に出来そうだ。


「最初から狙ってたんですね」


 溜息を吐きながら渋々それを受け取ったが、その瞬間名案を思いついた。

 受け取ったリボンで七尾さんを縛ってしまえばいいのだ。


「別にあたしをしばっても構わないけど、その時はあーちゃんに媚薬を飲んでもらうことにするわ」

「読んだんですか、わざわざ」

「してないわ。ただ、貴方がそうしようとする可能性くらい最初から考慮してるわ。失敗するのが見えているのだから二手目、三手目は用意するものよ」


 何とかならないかと考えて粘った結果、せめて手くらいは縛ろうね、ということになった。それ以上は譲れないらしい。

 食後、七尾さんに急かされる形で愛梨さんの手を縛ることになったのだが、罪悪感を感じる一方で楽しんでいる自分がいた。


 愛梨さんも愛梨さんで、間違いなく困っているのだろう、困っているのだろうがもう少しだけして欲しい、そんな雰囲気が漂っている様な気がした。

 なんだろう、この二人は相性がいいというのか、利害が一致しているとでも言うのか、俺にはよくわからない。


 この日のターゲットは確かに愛梨さんだったが、俺も何度か標的にされ、いつもよりはましだったものの疲れたことに変わりはなかった。

 実は、愛梨さんを狙っていると見せかけて俺が狙われていたのかもしれない。


 翌朝、上から漂ってくる妙な気配に耐えられず目を覚ますと、妖しい笑みを浮かべた七尾さんが俺の上で四つん這いになっていた。

 戸惑いからか、一瞬、殴ってやろうかとも考えたが、流石に手を出すのはどうなんだと、考え直してやめた。


「何やってるんですか、七尾さん」

「あーちゃんじゃなかったのがそんなに不満だったかしら」

「そうじゃないです。何をしてるんですかって聞いているんです」


 七尾さんの顔が、表情を変えずにゆっくりと近づいてくる。


「知りたい?」


 唇と唇が触れそうな程の距離で彼女は囁いた。


「別に知りたくないですよ。どうせ大した理由じゃないのは目に見えているので」

「大した理由じゃないのは認めるわ。でも、少しくらい興味を持ってくれてもいいんじゃないかしら」


 全く興味を示さなかったからか、口を尖らせ不満げに言う。


「愛梨さんは、もう行ったんですか」

「あーちゃんならお風呂入ってるわよ。そうね、今から見学にいかない?」

「行きません。行くなら一人で勝手にしてください。というかどいてください」


 四つん這いのまま七尾さんは一向に動こうとしない。直接的に言うなら邪魔だ。


「そんなこと言う悪い子にはお仕置きが必要だと思わない?」


 俺に覆いかぶさり問いかけてくる。

 七尾さんの身体は思っていたよりも軽く、体温や胸の柔らかさが服を通して伝わり、シャンプーなのか香水なのか、微かに花のような匂いが漂ってくる。


 鼓動が少しずつ早くなり、悪いものではないなと途端に感じ始めていた。

 彼女は身体を擦り付けるように僅かに動きながら、俺の腕をその細い指でなぞる。

 呼吸も徐々に荒くなり、余計なことは考えられなくなってきた。


「よーくん」


 砂糖のように甘い声が耳元で囁かれ、頭の中でこだまする。


「よーくん」


 身体を反らし、蕩けた笑みの七尾さんに見下ろされる。

 美しい金色の瞳に魅せられたが、次第に血色のいい赤色の唇へと引き寄せられる。

 取り繕うことが出来ないくらいに、鼓動は早く呼吸は荒い。


「今のあなたなら簡単でしょう。一糸纏わぬあーちゃんの姿を思い描くことくらい、とっても、とっても簡単でしょう」


 俺の手と七尾さんの手が重なり、指が絡まり、繋がれる。

 息を飲み込むと、ごくりという音が聞こえた。


「あーちゃんの白い柔肌を、二人で見に行きましょう。そのままあーちゃんで遊びましょう」


 繋がれた右手に少々力が入り、七尾さんの指を手を、より強く感じる。


「あたしじゃ駄目よ、その欲望はあーちゃんにぶつけなさいな」


 頭の中に浮かぶのはシャワーを浴び、水に濡れた愛梨さんの姿だ。

 そこまで想像して俺は漸く戻ってこれた。


「俺は覗きに行きませんよ、行くなら本当、一人で行ってきてください」

「だめね、急ぎすぎたのかしら。もっと欲望に素直だと思っていたのに、残念ね」


 七尾さんの身体が、距離がゆっくりと離れていく。


「やっていいこととだめなことくらいわかりますよ。何だと思ってるんですか」

「あーちゃんに取り入って毎晩興奮してる思春期真っ盛りの男の子、かしら」


 どう返せばいいのかわからずに溜息が出る。


「冗談よ。半分はね」

「それでも半分は本気なんですよね」


 誤魔化そうとしているのか七尾さんの笑顔が途絶えることは無い。


「何でもいいですけど。俺、ちょっと出かけてきます」


 そうして俺は一人、部屋を後にする。

 愛梨さんより早く出たのは今日が初めてかもしれない。

 行くあてなんて公園とショッピングセンター以外ろくになかったが、それでもマンションを後にして歩き出した。

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