reboot
夜空を星が一筋駆けた。
それを合図に、空間が歪む。
幼げな少女のか細い右腕から闇の刻印が漏れ出す。混沌。少女が苦痛を訴える。応えるものはいない。否、応えられるものはいない。
彼女を包む『混沌の施錠』は強く染み付いており、並大抵の祈祷や治癒ではもう手遅れだった。
少女が痛みに身を悶える。
その様子を見咎める者もいなければ、手を差し伸べる者もその無様な様子を滑稽だと笑う者もいない。
死んだのだ。いや、殺したのだ。皆。
少女が嘔吐く。もうとうに腹の中は空だ。
耐えかねた少女が闇雲に手を振りかざす。その手は虚空を切り、何も無い空間を掴むことなく落ちた。
少女は再び嘔吐いた。涙はとうに枯れ、もう生きる気力もない。
やがて痛みが引き、少女は地面に突っ伏す。もう散々だ。徐に立ち上がり、眼下の世界を眺める。
そして、か細い声で呟いた。
『……ごめんなさい』
それが誰に向けた言葉なのかは分からない。これが何度目かの謝罪かも分からない。だが、その言葉を聞き分ける者も、その回数を覚えている者も、もうこの世にはいなかった。
ふと、人の気配を感じた。
ハッとして下界を見下ろす。人などいるはずもない。私が殺したのだ。そんなはずは……
『いた……見つけた……』
助けて欲しかった。この闇の連鎖から。そんな願い烏滸がましいのかもしれない。それでも、私が愛した人間なら、また私の事を許してくれるだろう。私が人殺しなのは黙っておこう。そうすれば、私を生き残りだと思ってくれる。きっと仲良くしてくれる。私は罪だ。それくらい知っている。それでも、私は。
もう一度。
少女は微かな願いを胸に、立ち上がった。