それでも回復術師は剣士で登録したい。
もうすでにストックがない件について!
ギルドに入ると、やはりと言うか四方から視線をビシバシと感じる。どうしても、転生してからの十四年間。名家シャニアテ家の二男として過ごしていたが、この視線だけは慣れることができない。目立ちたくない日本人のサガであろうか。メイド服と鎧のハーフのような戦闘衣を纏っているリタが美人だからというのもあるだろうけど。
「ユーリット様! お久しぶりです! この間はありがとうございました」
僕の姿を見るなり、一つのパーティーがこちらに寄ってきた。
「この間? 僕何かしたっけ?」
「死にかけの僕らを助けていただいたではないですか! 巨大蛇の毒にやられていたシーフのリュマまで助けていただいて!」
あー、なんかあったなそんなこと。レイピアの練習がてら魔物が出る森に向かったらなんか死にかけているから適当に解毒と回復の魔法を飛ばしてそのまま蛇の首を落としたんだっけか。
すると、後ろの重戦士がしたり顔をして進み出てくる。
「心優しい聖女様のことだ。この程度のことなど、して当然だという事だろう。なんと慈悲深きお方だ」
いや違うんですけど。通りがかりにいたからレイピアと魔法の練習台になってほしかっただけなんですけど。つーか聖女じゃないし。男だし、聖人だし!
そりゃね、少し体に張り付くような純白の神官服に、下半身は動きやすいよう上半身と同じカラーのホットパンツに足を守るためのこれまた純白のニーソックス。シャニアテ家の掟で一族そろっての銀髪は着ることができないし、中世的な顔立ちに銀の長髪、唯一露出したふとももとほっそりとした指先はきめ細やかな白い肌を見せている。リタには儚い森の妖精風美少女と言われたので給料を減額してやった。
女の子に見えても仕方ないけどね? この服、聖衣の機織り機というマジックアイテムで折られた布で出来ていて、下手な鎧より防御力があり、それでいて布で出来ているので筋力のステータスに乏しい僕にとっては最良の防具なのだが、神官服の体を成していないとマジックアイテムとしての効果は無いに等しくなるし、しかし下半身がローブのように長ければ足に絡まって邪魔だし、足を出せば足の防御ができないしと、これで最良の形なのだ。これがなければ僕なんてすぐ死ぬのはわかりきっている。
これだって父が出した条件の一つだし、好き好んできたいわけじゃない。僕の筋力のステータスの伸び無いのが悪い。アレだけ筋トレをしているのに。
「ユーリット様、そろそろ登録した方がよろしいでしょう。ギルドも混雑し始めます」
「おっと、それはいけない。僕はそろそろ行くね」
「はい、こんな弱小パーティーでよければいつでも力を貸します。いつでもお声掛けください、聖女様」
だから僕は聖人だってのこのポンコツどもめ。
カウンターに向かうと、シャニアテ家独特の神官服を見た受付嬢が慌てて上司を呼ぼうとするのを何とか抑えて登録の手続きを行うことができた。
「あの、ユーリット様……」
「なんですか」
僕が提出した登録用紙を見て困惑する受付嬢。何とも言えない顔だ。
「この、性別欄に男性とあるのは……」
「男です」
「はい?」
「こんななりですが男なんです。初対面だと九割九分九厘勘違いされますが男です」
「申し訳ありません!!」
「構いません。慣れています」
「それでこの、職業欄の剣士と言うのは……」
「僕は帯剣していますし、剣士でよいでしょう」
「ダメです」
「なんだとっ!」
あまりの衝撃に身を乗り出す僕。大きな声を出したがために、周りからの視線をさらに強めることになる。
「ステータス欄には回復術師とありますし、それも高位の物ですので」
「そこを何とか」
「ステータスの虚偽は重罪になります」
「刺剣術レベルが7まであるんですよ! 達人レベルなんですよ!」
「それでも職業欄は回復術師ですので」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
「あまりごねるといくらユーリット様とはいえギルドへの立ち入り禁止にします」
「なっ!? ……………………仕方ありません。妥協します」
「ありがとうございます」
いい笑顔でこちらに礼を言う受付嬢。なんとまあ、本当にいい笑顔だ事。剣士で登録できなかったのは本当に、本当に、非常に残念なことではあるが、何とか冒険者ギルドに登録することができたので、さっそく依頼を受けることにする。
「常駐依頼のゴブリンでも構いません。何か討伐系のクエストはありませんか? もちろん僕のランクで受注可能なものです」
「それでしたら、薬草採取クエストのついでに東の森の少し奥まで入ればウルフ系やゴブリンなどの低位モンスターがいますのでそちらを受けたらどうでしょうか。加入してすぐのEランクには討伐依頼はありませんし」
「じゃぁそれを受けます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
手を振る受付嬢を後に、僕たちは王都から半日ほど歩いた先にある、東の森へと向かった。