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選べない本屋

 そこそこ栄えている駅の地下で、1件の奇妙な本屋が人気を博していた。

 その本屋は自分で本を選ぶ事が出来ない。

 じゃあどう買うのかと言うと、店頭に立つ奇妙なロボットが、客の外見から好きそうな本を選んでくれるだそう。

 本当にちゃんと選んでくれるのだろうか。そう期待しながら、ある一人の冴えない青年が声をかけた。

 「あの、すみません、僕の好きな本、分かりますか?」

 そう答える青年に、ロボットはカメラを当て、青年を分析し、結論を出した。

 「アナタヲブンセキシマス……。ブンセキガオワリマシタ、レジヘドウゾ」 

 青年はロボットに促されるがままにレジに並び、一冊の本を買った。

 そこには「自分を変える! モテる為の100テクニック」と書かれていた。

 確かに青年はその本を望んでいた。

 女性に縁がなく、いつかモテたいと心の中で思いつつ、あまり表に出さないように過ごしていた。

 そんな臆病な青年が、欲求を代弁されたと来たら、当然黙っている筈がない。

 ふざけている。きっと、自分が冴えないからこんな人を小馬鹿にするような本を出したんだろう。

 言い訳をするかのように、青年は冴えない男らしいみみっちい言い訳を脳裏で並べた。

 やがて抵抗を諦めたのか、ロボットが選んだのなら仕方がないと言い訳をしながら、その本をぺらぺらとめくった。


 青年は本を読み終わり、満足した。

 自分がモテない原因の概算が出来、それを改善すればある程度の成績が得られる事を見込めたからだ。

 だからと言ってロボットに満足したわけではなかった。

 青年は、ロボットがこの「世界に一人だけの大切な」自分の考え方を一方的に推測し、しかも当てた事に腹を立てた。

 ただのまぐれだろう、青年はそう思い込む事で自分の思想範囲の狭さをごまかしたが、そこである疑問が浮かんだ。

 じゃあ明日もまた読みたい本を出してくれるだろうか。

 きっとまぐれだから出さないだろう。

 明日ボロを出す所を見てやろう。

 仮定がいつの間にか確信に変わってる事を気にせず、青年は次の日を迎えた。


 ロボットはまた分析を当てた。

 「脱冴えない男! 世界のかっこいいファッション」という本を渡された。

 確かに、モテない原因の概算が終わった、次はファッションを知りたい、という意思はあった。

 しかし、こんなどこにでも居そうなロボットに当てられるというのは、しかも二回連続だ。

 どうも腑に落ちない。……というか、癪に障る。

 ならば、もし自分が絶対に欲しがらないだろう本を欲しがりつつここに足を運んだら、ロボットは本当に欲しい本を出してくれるのだろうか。

 きっと誰も試した事がないから、次はまたモテるなんとかって本を出してくるだろう。

 一杯食わせてやろう、とどこにでも居る凡人が考えそうな事を頭に浮かべながら、青年は翌日を迎えた。


 青年は絶対の自身があった。

 自分が今望んでいる本はあの本屋には無いだろう。わざわざそういう本を選んだのだから当然だろうと。

 しかも、自分は絶対に欲しがらない類の本だから。

 等という、いかにも凡人らしい思考回路に絶対の自信を懐きつつ、ロボットにまた本を選んでもらった。

 今度は2冊出てきた。

 1冊しか想定していないのにこれは勝ったなと思いつつ、それらの本に目を配った。

 「漢! 世界の同性愛」想定していた、絶対無さそうな本。

 「人を試さない――健全な関係を築く為に――」恐らく当てつけ。

 青年はこの結果を見て、呆れを通り越して大爆笑した。

 このロボットは、自分の策を見抜いた所か、当てつけまでしてきやがった。

 こりゃ負けたな、と自らの愚かさを認め、青年はこれ以上ロボットで遊ばなくなった。


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 「最近のAIは本を特定する! 命中率95%!」

 好きな本特定AIの作者である禿山教授が、ネット上の煽り記事を見てほくそ笑んだ。

 自分もネット記事に書かれるだけ影響力のある物事を成し遂げられたのだ。

 研究者の道を志してから苦節20年、ようやく報われた。

 今はまだ小さい成功だが、ここからAIが出来る事を広げていけば……。

 最終的に私の理想とする、AIが人間の仕事を全て行い、人間は文化的活動をやるだけの世界が来るかもしれない。

 好きなだけ趣味の絵を描きたい。そう空想を張り巡らせていた時もあった。

 しかし、そんな空想ももう叶わなくなるかもしれない。

 絶望に満ちた表情が教授を襲う。


 「やりましたね禿山教授! 先生の作った好きな本特定AI、大絶賛みたいじゃないですか!」

 学生が、まるで自分で成し遂げた物事みたいに、責任者の禿山教授へ感動を伝えたが、返事は冷たいものだった。

 「……済まないが後にしてくれないか」

 学生が「何か悪い事したかな」と言いたげな顔でその場を去った。

 出来れば一緒に喜びたかったのに。

 教授の心の中は純粋な悲しみの感情で満たされていた。


 1時間前に某広告代理店会社が来て、好きな本特定AIに以下の注文を入れた。

 要約すると、本特定AIに社会バイアス――社会的に影響のある本を上位に検出されるようにする――、つまり社会的に人気のある本を上位に上げて欲しい。

 その代償として支援金を出す。

 なお社会データは提案者が提供する。


 要するに、こういう事だ。

 「自分たちが売りたい本を宣伝する代わりに金を出す」

 AIを馬鹿にするかのような提案を聞いた教授は激怒し、机を殴った。

 机は甲高い音を立て、拳は衝動を喰らい痛覚を覚えたが、それすら忘れる程の敵意が包んでいた。

 「我々の研究チームが必死に作った作品を宣伝に使えとは何事だ!」

 「貴様はAIへの信頼を無くす気か!」

 教授の熱意とは対照的に、周りの研究者の目は冷ややかなものだった。

 「まあまあ、研究費が貰えるみたいだからいいじゃないですか」

 「社会的な影響も入れた方がより精度が上がると思いますよ、データも用意してくれるみたいだし」

 ふざけている。

 こいつらは仮にもAIの研究者を名乗っている人間だ。

 金の為に一方的な情報を入れさせる。これがどういう結果をもたらすかは火を見るより明らかだった。

 短期的には精度の低下。そして長期的には……。

 AIの信頼失墜。

 研究者として最悪のシナリオが頭をよぎった。

 もしAIの信頼が失墜すれば、人々がAIに抱く未来を否定することになる。

 研究者としては絶対にやってはいけない。企業の宣伝道具となることも、人々の未来の否定に比べれば些細なものだった。

 テクノロジーなんてくだらない、結局は宣伝道具か。

 そう思われる前に、我々が止めなければ……。


 「水面下で私の異なる大学への異動が決まった。

 目的は単純で、AIへの圧力に邪魔だったのだろう。

 恐らく圧力は実行される。

 しかしまだ希望は残っている。

 私はこの残酷な日を一生忘れない」

 異動が決まった日、私はメッセージを手紙に記しながら、同時に本特定AIの仕組みも残した。

 教授は闘争から負け、この大学から追い出される事が決まった。

 勝ち目のない闘争だった。

 内部は協力する研究者がおらず、かと言って外部に公開しようと考えたが、他AI団体はまともに話を聞いてくれず、AIの素人に話す気にはなれなかった。

 AIがたった少しの仕様変更でただの宣伝道具と成り果てる。

 人々のAIへの期待を否定するには十分な材料だ。あまり伝えたいものではない。

 そこで、教授はある程度落ち着いたら文章をネット上に公開しようと考えた。

 もしAIへの希望が失われた時に、このメッセージを公開出来れば……。

 やがて誰かが共感し、また希望を見出してくれるかもしれない。

 絶望の中に細やかな希望を残し、かつての希望を捨てようと荷物を片したら、前に教授に声をかけた学生が近づいた。


 「先生、いや、元先生、いい情報がありますよ」

 「何だ?」

 言い方に嫌味ったらしさを感じ、警戒した。

 「そもそも、AIに希望を見出してたの、貴方だけですよ」

 「そんな筈はない、他の研究者の人たちだって、AIが作り出す希望の未来を信じている」

 「なら、何故貴方がこの大学からつまみ出されなきゃいけないんですか?」

 顔に冷や汗が走ったのを覚えた。

 もしかしたら、私が一人で希望を抱き、呆れて見放されただけなのではないか……。

 「他のAI研究者も、学生も、みんな欲しいのは金なんです。そうでもなければ、こんなつまらない研究なんてしません。

 AIの未来も誰が信じているんですか。聞いてみてくださいよ、AIなんてくそみたいな存在消えてしまえ、そう信じている研究者も多いですよ。

 昔は居たかもしれませんが、とっくのとうに死滅しました。

 貴方はAIの未来未来言うから嫌われたんですよ、じゃあ、さようなら」

 学生の言う事は信じたくなかったが、否定する要素が少なかった。

 予算に目がくらんだ訳ではなく、元から金しか見ていなかった。

 だから自分が邪魔だった。

 ……なんだ、そういうことだったのか。

 自分は全て独りよがりで動いていた。

 未来の為だと言いながら、誰も望んでいないAIの未来を追求していた

 くそったれ。


 教授は手紙を破り捨て、大学を去った。その後の消息は定かではない。

 風の噂によると、同時進行させていた文章作成プロジェクトを悪用し、人間をからかって遊んでいるらしい。


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 ロボットは常に最新の、似たような本を選ぶようになった。

 試験前のシーズン、試験対策の本が欲しいという声に、最近発行された「学校をぶち壊せ」といういかにもどうでも良さそうな小説で返した。

 学生らは愕然と同時に、失望感を抱いた。

 そして彼(女)らの小さな脳でも原因は導き出せた。

 「AIは下らない」

 

 次第に寂れていく本屋を見て、ニュースすら見ない老人集団が嘆いた。

 「なんだ、最近の本屋は自分で選べないのか」

 「最近のテクノロジーって奴らしいよ」

 「そんな不便なテクノロジーがあってたまるか」

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