食らう。
彼女は喰らい続ける。
私は、目の前の狐を食い散らかす。
「うまいかよ」
狐はこちらをにらむ。
「俺はただ嘘をついただけじゃないか。ただ人を殺してないって言っただけじゃないか。それだけで俺は死ななくちゃならんのか」
私は狐を食う。
「食うよ。私は」
やがて狐は何も言わなくなった。
今度は狸だった。
まるで私に食べてもらうために、内臓や肉をズタズタに引き裂かれた状態で寝かされている。
たぬきは私を見て笑う。
「あいつらの死ぬ直前の表情は最高だったね。絶頂にすら達しそうになったさ。そして俺も今、死のうとしているのだからたまらないね」
私は狸を食う。
「知らないよ、お前の事情なんて」
狸は動かなくなるまで笑い続けた。
満腹なんて、ない。
次は私と同じくらいのサイズのミミズだった。
ミミズに傷はないが、縛られているのか身動きは取れない。
「いやだっ。正当防衛なんだっ。あいつが襲ってきたから俺はただ自分を守るためにっ……」
言い終わる前に私は食らいついた。
慟哭が耳元で響き続ける。
「私には何もできないの」
悲鳴をあげようと何をしようと、結局は死ぬのだ。
今度に現れたのは、鳥だった。
目に涙が浮かんでいる。
「もう、俺は人を信じられないよ」
鳥は言う。
「なんで見ず知らずの人間の罪を被らなきゃいけない?俺には妻も子供もいて、慎ましく暮らしていただけで、人なんて殺していないというのに」
「ごめんね」
私は食らいつく。
「なんでっ。なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだよっ。狸と狐は何人も殺してるけど、俺は無実なんだっ」
私は、耐えられなくなって答えることにした。
「私に決定権はないの。これが仕事なの。私は社会のルールに従って、罪を犯したものを殺すのよ」
涙が溢れてくるのはなぜだろう。
「ごめんね」
鳥はこっちを見る。
「あなたの名前は?」
私は食らいつく手を止めた。
「死刑執行人」
彼女は一体、何を食らい続け、何故食らい続けなければならないのでしょうか?