表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

一族

 いい加減、普通の寝床で寝てみたいものだ。


 Mは、その辺で拾ったイナゴを食べながら誰に言うまでもなく愚痴った。


 目覚めの悪い朝だ。公園の葉をベッドにして、一年ほど経つ。


 Mは「我々の世界」で言う所の「ホームレス」である。仕事もなく、ただ淡々と同じ毎日を過ごす彼は、我々から見たらそんなものだろう。


 Mは今までの人生を思い返した。今思えば、俺たちの一族って、他と違って狂っているんじゃねえの?と。






 Mはとある集落で生まれた。しかし何処の集落だ、と言われても答える事が出来ない。


 そんな事、誰に聞いても分からなかったからだ。


 Mは物心がついたばかりのとき、「ここって何処?」と聞いた事こそあったが、聞いても大人達は具体的な地域名を答える事は確実に無かった。


 ここは家の近くの森だとか、湖だとか。答えはいつも曖昧だったものだ。


 だがMはそれを疑問だと思ってはいなかった。今も、疑問に思う事はないのである。その歪さに男は未だに気づく事はない。


 歪さ、といったらMの集落やその周辺の集落の体格の大きさだろう。それはもう大きいもので、狩りを行う彼等にとって、その獲物を手で難なく捕まえられる体格は役に立つ。


 といっても森の中で過ごすMの集落はそのなかでも小柄な方で、同じような集落は周辺にあったものの、彼等から「可愛らしい」といまいち褒めてるのか貶してるのか分からないセリフを言われる事もあった。


 しかし、その周辺の集落と比べると明らかに違う点が一つだけ存在した。


 腹だ。何故か体の大半を占めるほどの大きさで、それはMのいた集落全員のコンプレックスだった。(周辺の集落は誰もそんな事気にしてはいなかったが。)


 Mの集落の最大の特徴と言ったら、その兄弟の多さであり腹が異様に大きいせいか、生まれた時は本当に兄弟が多かった。


 しかし、Mを除く全員の兄弟は死んでしまったのだ。元々食料は自分で調達しなければならないという厳しいルールがあり、兄弟達は皆飢えか何かでその短い人生を終え、生き残ったMは一人で生活してきた。


 成長したMはやがて思春期を迎え、様々なメスに興味を持つようになった。


 しばらくするとMにも彼女ができた。集落の中でも一番人気だった彼女とはすぐに気が合い、二人の間に子供が生まれた。


 Mも彼女も、幸せな家庭だったに違いない。


 ただ、とある日だった。


 彼女が突然とある場所にMを呼び出した。


 その場所は誰にも目につかなさそうな草はらで、彼女曰く「大事な話がある」という。


 Mは特に断る理由もないので、彼女とともにその場所へ向かうことにした。


 彼女はよだれを垂らしながらMに問いかける。


 「私の子供達は、栄養が足りないの」


 Mはなんとなく話の内容が理解できた。食料が足りないのだろうか。だったらもっと父親らしく、狩りに専念しなければならないのか。


 「安心してくれ。もっと食料を取ってくるよう努力するから。どれくらいあればいい?」


 すると、彼女はいきなりMを押し倒した。


 彼女のよだれがMの顔にかかり、Mは何か本能的とでも言うような恐怖を感じた。


 彼女は鋭い目でMに叫ぶ。


 「食料じゃなくて、あなたが欲しいの‼︎」


 あなたが欲しい?夜の営みでも始めようというのか、とMが下心を弾ませるのもつかの間。


 彼女はMに噛み付いて、Mの肉を食った。


 「栄養が足りないのっ。私にもっと栄養を頂戴っ」


 Mは痛みと激しい恐怖で混乱して訳が分からなくなり、彼女を突き飛ばして急いで逃げた。


 「栄養をよこせええええええっ」


 後ろから聞こえる声がMの恐怖心を煽る。


 Mは絶叫しながら疾走した。


 嘔吐、頭痛、パニックによる様々なものに襲われながらMは走り続けた。


 どれくらい走ったのだろうか。いつの間にか彼女はおらず、気が付けばよく分からない場所にいた。


 紅葉があちこちに落ちていてMの体に刺さり、大きな水辺もある上に、狩りの対象となる生き物もいる、なんだかよく分からない場所。


 時折巨大な何かが理解不能な言語で話しながら進むのが見えたのだが、自分には危害を加えるつもりはないらしい。


 Mは暫く考えて、彼女がいる集落に嫌気がさして、ここに住み着く事にした。


 

 そして今。


 彼女は何がしたかったのだろうか?あの集落はなんだったのか?なぜ兄弟が一人残らずいないのか?


 様々な疑問は頭の中で次々と出てくるが、今は物思いに耽っても変化があるわけではないのだ。


 さっさと狩りをすませ、ご馳走にありつけよう。今日はバッタにでもしようか。


 歩みを進めた瞬間、いつもは自分を無視している巨大な何かに体を掴まれ、透明で四角い容器の中に入れられた。


 一瞬のことで何が何だか理解出来なかったMは依然として狩りをしようと歩くが、透明な何かに遮られて出られそうにもない。


 これからどうなっていくのかMにはわかるはずもなかったが、Mの頭の中はバッタのことしかないのでどうしようもない。




 「おいおい、カマキリなんか虫かごに入れてどうするんだよ」

 「ひろきにはカマキリの鎌のカッコよさが分からないの?」

 「わかりたくないな、しかもこいつまだ外出ようとしてるぞ?」

 「うわ、アホだなあ。後で分解するして中身見てみようぜ」

虫からしたら、やはり我々は恐怖の対象なんでしょうかね。

僕は軟体動物が恐怖の対象です。ナメクジとかあれなんで世の中に存在するんだっ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ