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K高校の怪談  作者: 大林秋斗
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四の怪・五の怪 教室・エレベーター

K高校に電話をしてみた。

コール音が続くだけで誰も出ない。



わたしはひとつため息をつくと受話器を置いた。



つい冷静さを欠いてしまっていた。


昔の学校なら宿直があり、学校に泊まる先生がいたのだが。

今は宿直を取り入れている学校は減り、代わりに警備会社と契約を結んで、無人警備のシステムを取っているところが大半だという。


K高校もそうなっているのだろう。

わたしが在校中、先生が宿直している話は聞いたことがなかった。





卒業後、学校に関する不思議な話がどのように作られていくのか、その興味で娘から話を聞いていたのに。



けれど、学校の怪談は怪異ではなく、事故の前兆、事件の暗喩を含ませているという考えは変わらない。


「おとうさん?」


「つい頭に血が上っていたようだ、大丈夫」


わたしは娘に話を促す。




K高校は、今現在40人学級で、8クラスの編成だ。

3年になると1~2クラスが理数コースのクラスとなり、その兼ね合いで、7クラスの編成になることもある。


コの字に並んだ4階建ての校舎で東と南にある校舎の2階から4階の大半が教室だ。

2階を3年、3階を2年、4階を1年が使っている。

不思議なことは4階で起こっているという。


わたしは思わず眉を寄せてしまった。


娘がそんなわたしを心配そうに見上げている。


「なんでもないよ、続けて?」


と声音をできるだけ優しく作ってみたのだけれど、腹の中に巣食う学校に対する不信感はどうにも収まりがつかない。



1年の教室は普段の生活では何の不思議もないのだそうだけれど、何かのはずみで1人教室にいると体験するらしい。

(娘は体験していないのだそうだけれど)


ポタリ、ポタリとどこからか水の音がするという。

体験者が不気味に思い辺りを見回すと天井や壁に人の顔がぼうっと浮かんでいるという。


恐ろしさのあまり教室を出ようとすると、今度はドアがガタガタきしむだけで開かない。

心の中で念仏を唱えると脱出できた(できる)ということなのだが。



わたしはため息をつくと眉間にある深い皺に右手の人差し指を当てて伸ばす。


「……教室は改装したということは聞いていないよな」


「ええ、改装したのはトイレと正門、塀と、エレベーター設置かな?」



生徒の活動の中心である教室に手を加えないとは。

わたしは腹の内に収めた不信感がぐんぐん勢いを増していくのを感じた。


人の顔が浮かんでいるというのは、シミュラクラ現象だろうと思うのだが。

シミュラクラ現象というのは人の脳の構造上、逆三角形に並ぶ三つの点を見ると、人の顔と認めてしまうことを差す。


天井や壁にある染みが人の顔に見えたのだろうけれど、問題なのは、水音と開かなかったドア。


1人いる時に聞こえる水音、校舎の給水管、もしくは排水管が漏水している可能性があるのでは?

(常時水が巡っている給水管の方が可能性が高い)


開かないドアは、ドアそのものに歪みがあり、冷静さを欠いた体験者が開けようと乱暴に扱うことにより、いっそう開き辛くなったということだと考える。


30年の月日は校舎に経年劣化をもたらしている。

それにより建物の強度に問題が起きてやしないか?


わたしの考えすぎ、水音は、人の怖い気持ちが作り出した錯覚ともとれる。

ドアの建付けが悪いだけかもしれない。


ああ、でも、わたしの中で嫌な予感が増すばかり……。





「他の話は?」


「ええと、5つ目はね、エレベーター」



増設した所からかよ!


ぎょっとしながらも娘の話を聞く。





エレベーターは学校の正面玄関がある西の校舎の角にある。

生徒は怪我や急病でない限り階段を使うので、1階に止まったままの状態である。



けれど、誰も利用していないのに動いているそうだ。


エレベータ横の階段掃除の当番に当たっていた生徒が無人のまま降りてきたエレベーターを目撃している。

1階に降りてきても扉が開くことなく、そのままエレベーター内の灯りが消えたそうだ。

階段掃除に当たっている当番は、気味悪がり、それ以降西側の階段掃除がおざなりになっているそうだ。


またある生徒は、部活で足を骨折したため、エレベーターを利用した。

生徒は無人で動くエレベーターを目撃はしなかったが、乗ってる最中に異音を聞いていた。


ブーンという羽音のような音が酷く耳障りだったという。



「……なんということだ」


わたしはうなるように言葉を吐いた。


無人でエレベーターが下りてきて灯りが消える。

この現象は何の不思議もない。


エレベーターは任意の階に常時誘導、留め置くことができる。

K高校のエレベーターも、他の建物(マンション等)を習い、常時1階に留め置くよう操作しているのだろう。

灯りが消えるのは節電のため。

使用されていないエレベーターは灯りが消える設定になっている。



この話で問題なのは音。


エレベーターはワイヤーロープを巻き上げ昇降させる。

(実際にはワイヤーの他におもり等、他の部品、要素も加わるが省く)


乗ってる生徒が異常と感じる音と軋み。



ごくごく小さな異変でも、大事故の前兆であることがある。


エレベーターは点検する会社が、監視しているのだろうけれど、「見逃し」ということもありうる。


それにエレベーター自体は築30年の古い物ではなく、バリアフリーとして新しく数年前に学校に作られた場所だ。

その場所に何らかの問題があったということ自体、非常識なことだ。


わたしは、日を改めてから学校に電話する事柄に、教室にエレベーターのことも追加だ、と不信感で煮えくり返りそうな心を宥めながら思った。


シミュラクラ現象 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%83%A9%E7%8F%BE%E8%B1%A1


エレベーター https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC

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