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K高校の怪談  作者: 大林秋斗
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一の怪 保健室

学校で不可解なことが起こる場所に必要なものは古さ、これにつきると思う。

改築前、取り壊す前の築数十年ほどの建物ならなおのこと。



古い校舎はきれいに使っていても、長年に渡る汚れがしみついてく。

天井、壁、廊下や備品に、独特の空気、圧迫感をもたらせる。


その独特の空気に保健室という空間の効果。



保健室は主に、怪我や急病の時に利用する場所だ。

保健医が待機し、来る生徒たちの状況により怪我や疾病に対する処置をする。

いわば学校の中の小さな診療所である。


しかしあくまで学校内の施設であるから、利用者はほぼないに等しい。

(生徒は健康な状態で登校するのがデフォルトであるから)


必要にかられた(怪我、急病の)少数の生徒が利用する場である。

逆に言えば何事もなければいかない場所、閉鎖的な空間でもある。


だから、たまたま急病等で利用する時に、普段は気にならない物が不意に気になったりしてしまう。


気分を悪くして一人保健室のベッドで横になっている。

保健医は所要で一時的に保健室から退室している。


そんな時、保健室の外の音、廊下の音(話声、足音)、窓からの音(葉の擦れる音、体育の授業で吹かれるホイッスル)が妙に耳に響いたりする。


ベッドを仕切っているカーテンが入り込んだ風で緩く動いているのも気づく。

ささいなことが大きく耳や目に入り込んでくる。


そこに不可思議な話の要素が入り込んでくるのだろうなと、わたしは思う。






さてK高校の保健室だが、わたしが在籍中、残念ながら急病などでお世話になることはほとんどなかった。

保健委員もやらなかったし。

4月初めの健康調査の際に胸囲と、内科検診で聴診器を当てる為に列をなして並んだことぐらいだ。

(その時の保健室は閉塞とは真逆の、開放的な空間となっているが)


今思い出してもごくごく一般的な保健室だと思う。

臭いは無い。

(建った直後は保健室だけではなく、校舎のいたるところで塗料や接着剤のにおいがしていたかもしれないが)

常時、中年の女性の先生がいた。

学校が建って5年目、まだまだ新しい。


じっくり保健室を見ていたわけではない。

けれど、白くてぴかぴかだったと思う。

(生徒が頻繁に出入りしない分きれいだろうと)



だが娘の代では。


建立三十年、古さからいっても不思議な話の土壌は十分である。





「おとうさん、自分話をすると長すぎる」

気づくと娘が不機嫌になっていた。


これはまずい。


「すまんすまん」

わたしはすぐに謝る。








娘の話の概要は以下。



体験した生徒は体が弱く、週に1-2度の頻度で保健室を利用。


授業中、少し気分が悪くなった生徒は授業担当の先生の指示もあり保健室で休むことにした。

保健室にはたいてい保健委員か日直がつきそうのだけれど、よく保健室を利用する本人自身の気安さからか、その日は一人保健室に向かった。


保健室にはいつもの中年の女性の先生はいなかった。

(話はそれるが、その先生はわたしがいた時の保健の先生とは別の人物である)


そこいたのは若い女性の先生だった。

先生はマスクをつけていた。

白衣はところどころ黄ばみがありアイロンもきちっとかかってなくてよれていた。

こんな保健の先生いたのかな?と、生徒は思いながらも彼女に体の症状を訴えた後ベッドで休みたいと述べた。

女性の先生は生徒の訴えた通りに、ベッドに休むよう促した。


生徒はベッドに横たわるとすぐに眠ってしまった。

数時間眠った後で目を覚ますと、女性の先生はいなくなっていた。


そこまでならなんの不思議もない話だが、話はあと少し続く。


生徒は女性の先生にお礼を言おうとした。

保健室にいたいつもの馴染みの先生にその所在を聞いた。

けれど先生はそんな人は知らないという。


生徒は不審に思った。

担任の先生に話しした。

担任の先生も他の先生に心当たりがないか聞いてみたけれど分からないという返事だった。



誰かは分からないけれど、たまたま居合わせた先生が保健医の代わりをつとめたのだろう。

そう結論付けた。

しかし、別の生徒で、また、同様のことが起こる。


昔、学校に就任する前に事故で亡くなった保健医が、本来の保健医が不在の時、変わって生徒の面倒をみているということなのだそうだが。




「うーん、霊でもなんでもないと思うよ」



わたしは娘に意見を言ってみた。


謎の保健医は実在している。

そう考えるのが自然。

対面している生徒が、きちんと意思疎通できているからだ。

人でない存在ならば、ここに違和感があるはず。


また謎の保健医が身に着けていたマスクと、黄ばみのあるよれた白衣。

一見不気味な印象を持たせるが、人を示す特徴として具体的だと思う。


マスクは確かに負のイメージがある。

都市伝説で有名な口裂け女もマスクを使用していた。


しかし近年、疾病の予防ということで正のイメージが大きくなっている。

むしろ保健医のマスク姿は自然だと思うのだが。


わたしたち自身も花粉症、風邪(疾病)、大気汚染PM2.5等でよく利用するようになっている。

使い捨てマスクが広く流通、柄のあるものも出回り、身近で手軽な存在になっている。


「白衣」は医師につきものだけれど、医師だけが着ている訳ではない。

他の科目の先生も利用している。


話の中であった他教科の先生であるのが自然な解だと思う。



わたしがK高生の時では生物の先生、化学の先生が着ていたのを思い出す。

あと、もう一人、選択で取っていた美術の先生が着ていた。


美術の先生に至ってはよれた白衣に絵具が付着していた。

先生は絵を描くときの作業用として愛用していた。


では謎の保健医(他教科の先生)が保健室にいた理由。

正直、よく分からない。

しかし他教科の先生が保健室を利用してはいけない理由もまたない。


彼女はちょっとした負傷して保健室に来たとか。

初夏、秋頃なら虫刺されもありうる。

または軽い風邪の初期症状をおこし、マスクを取りに来た直後なのかもしれない。


理由はなんとでも想像できる。


担任が知らない先生は非常勤で来ている先生だと仮定。

受け持つ授業が少なく(わたしが知る範囲で週4時間勤務という人がいた)、生徒にも先生にも認知されにくいとか。


娘の話には見過ごせない違和感もある。


なぜ生徒が後になって、謎の保健医にお礼を言おうとしたのか。


このエピソードが不自然に思えてならない。


先生が生徒の世話をする。

感謝を感じるのは当然だけれど、お礼はふつうその場で言わないだろうか。

この話の生徒は眠ってしまったために、先生にお礼をいう機会はなかったのかもしれない。

が、わざわざ先生を探してまで、言う必要があるのか。



なにより話の生徒は保健室の利用が常態化している。

使って当たり前という気持ちも入り込んでいると思っている。


保健の先生が病気(怪我)の生徒を診るのは当たり前、仕事の内という、驕った気持ちも入り込んでいると思っている。

だから先生に改めて礼をいうなど考えないのが自然だと思う。

(実際、在学中のわたしは、保健の先生に限らず、他の先生に対しても、「先生も仕事だから」とどこか突き放した思いを持っていた)


あと他の生徒以外でも同じ体験をしたと、あるけれど、この部分もいかにも作り物くさく感じる。


「結論から言えば、ほんとうに在った話と作り話との合作」


娘がぽかーんと口を開けてわたしを見る。

しかし主張を変える気はない。

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