1、翔の決意
「も、もう、無理……。手ぇやばいって……」
ダンボールの片方を持つ俺こと、冬野来斗が、掠れた声を漏らす。
「うるさい、よ……。もうすぐ、だって……」
俺の反対側でダンボールを持つ、翔こと、早川翔から掠れた声が返ってくる。
さっきからもうすぐばっか言ってる気がするんですけど?
気のせいなんですか?
俺と翔は桜高高校に通う、同じクラスの1年D組で、この高校で初めて会った。ニ人とも桜高高校、略して桜高のある県の隣の県から通っている同士だった。入学式に初めて会って、それからまだニ・三ヶ月だが、お互い好きな本の話で盛り上がり、折角なので、桜高まで徒歩数分というところにあるアパートでシェアハウスを始めることにした。シェアハウスを始めてから約一ヶ月たち、生活も落ち着いた頃のことである。
ついに! ついにだ! ────翔が超能力を自己制御出来るようになったんだ!!!
さっきも言ったが、翔も俺もよく本を読むので、記念に大きめの木製本棚を買おうって話になった。
なぜ木製のを買うかと言うと、翔が持つ超能力は、自己の手にふれた木製の物を破壊する性質だからだ。名は『木破壊』である。
早速買いに行こうと思ったんだけども。
でもですね、よく考えると、車もないし、ってか車の免許、年的に取れないし、チャリにも乗っかんねぇし、俺の超能力である『加速』もこんな重たい物持ちながらじゃ使えないし、結局歩きで運ぶことになってしまった。
ちなみにだが『加速』とは、俺の超能力で、瞬間移動といったところだろうか。簡単にいえば、ほぼ目に見えないスピードで走る感じだ。ちなみに、爽快感は半端なかったりする。俺はもう小五で自己制御出来るようになっている。超平均的だ。
幸いにもアパートから徒歩約5分のところににいろんな物売ってる所があったので──少々変な店だったが──そこから運ぶもんだから、まだましだ。
……宅配サービスとかあったらよかったのに。
もう少し遠くの店まで俺が──加速は自分しか適応出来ないので──加速して行って宅配サービスを利用しようとも考えたが、節約ってのも大事だろ。
くそぉ、もう腕パンパンだ……
やっぱ宅配にしとけば───あー、だめだ。節約! 節約するぞ!!
本買う用のお金がもったいねぇからな!
あれこれ考えてる内に、もうすぐ今住んでるアパートに着く。
「来た……。ついに、ここまで来た、ぞ………!」
俺が擦れているが、喜びの声を出す。
「一階、で、ほんと……よかった、よ……」
翔も喜びの声(?)を出す。
本当に一階でよかった。
二階だったら今頃、階段が俺らを襲い掛かって来たことだろう。
「ほんと、そうだな…………一言、申してよろしい?」
「? なに?」
「もう一生これはしねぇぇえええええ!」
うん。絶対しないから! こんな面倒くさいの! 節約とか知るかぁぁああああああ!
そしてやっと着いた部屋にて、一服後。
「さて。とりあえず開けるか」
「そうだねー」
と軽い会話をしながらも、俺はダンボールから、中身を取り出す。
「よし。行くよ……」
家に帰って、とりあえず俺が試したかったこと。───それは、翔も一緒みたいだ。
「……おう」
少し間を置き、返事をする。
「…………」
翔がダンボール内にあった板に触れる。
「────ッ!」
…………きた……きた……! これで確信だ。
翔は、もう超能力の暴走に困らされない!!
「やった……。やったよ来斗!」
「ああ、ついにこのときが来たか……」
俺が試したかったこと。
それは、翔の超能力は本当に暴走しなくなったのか、である。
「おめでとう! 翔!!」
折角なので祝ってみる。
「ありがとぉ〜!! 来ちゃん〜〜!」
「やめろ気持ち悪い」
来ちゃんって何よ。来ちゃんって。お前いつも呼び捨てだろ。初めて聞いたぞそんなの。
「男二人でお祝いなんて寂しいかなーって思って。ね、来ちゃんっ!」
「わざわざ俺を女役に仕立てる方がどう考えても寂しいだろ!」
「いいじゃん。来ちゃん女顔だし」
「どう考えてもお前の方が女顔だろ!?」
「そんなこと、な・い・よ♡」
顔近っ! 近いって! 俺女の子にこんなことされたことないから、どうしていいかわかんないんだけどっ!? 息がくすぐったいんだって!!
ああぁあ〜〜、待て待て待て! こいつは男。男だ!
「待て今のはわざとだよな!? わざとだって言って!」
俺の友人がこんなに可愛いわけがない!!
わけがないんだ!
「さぁ。ねぇ?」
ねぇ? とか言われましても!
「……オーケー、もういいから。さっさと組み立てよう」
「りょーかいだよっ、来ちゃん」
「あとその可愛いモードは今後禁止」
ここでちゃんと注意を入れておく。
「それは無理だね」
「おいっ!?」
なんでだよ!?
「来ちゃんのテンパる姿、可愛い!」
おちょくってやがったのかこいつ!!
ここで反撃すると面倒くさそうなので、何も言わないで、そそくさと組み立てていこう。我ながら素晴らしい考え方だと思う。
「────よし、出来た〜!」
「意外と簡単に出来るんだね。もっと、こう……釘とか打つのかと思ってたよ」
「金づちないじゃん」
「あ、そっか」
二人いたらなかなかスムーズに進むってもんだろ。多分な。
「うわぁ……でも凄いなぁ……僕が棚を組み立てれるなんて……」
翔が棚を眺めて、目を輝かせる。
その辺に売ってる物をこんな輝かせて見るなんて、翔凄いな。
「大体の人出来るだろ」
「も〜、夢がないなぁ」
夢とかの問題じゃないから。それ以前の問題だろ。
翔が棚を撫でる。どんだけ嬉しいん……
────バギィィッ!!
「………………うそ」
え? えぇ? えぇぇええええ!?
うっそぉ…………
本棚……壊れた…………
「翔……」
「来ちゃん……」
「そのモード続いてたのかよ……」
「まぁね……」
────。
────。
──────。
「「ぐわぁぁああああああ!」」
壊れたぁぁああああああああ!!
床が木の破片まみれになってしまった。
「────うっさいわよ!」
「おぅわっ!?」
誰!? びっくりして変な声出ちゃっただろ!
なんか窓開いてるし! どっから入ってくんだよ!
「───うぉっ!?」
床にあった木の破片が飛んできた! って、ああ! 壁がぁ!? ちょ、修理代どうしてくれんの!?
「殺す気かっ!?」
─────あぁ、なるほど。理解した。この超能力を操るやつといえば──
「──夏雪春っ!」
春こと、夏雪春。春は、俺らの隣に住んでいる。超能力は『木操作』。木製の物を自由に操ることができる。今やりやがったように、自己制御可能。
ちなみに、結構────かなり可愛い。
「なによ? こんなので死なないわよ」
「そういう問題じゃないだろ!」
「あ、春ちゃん〜。こんにちは〜〜」
「なんで翔は呑気なんだ!?」
「……翔ってあんな感じだったかしら?」
うん。それは俺も同感でございます。
「翔、そろそろ可愛いモードやめろマジで。しょうもないことで、俺も怒りたくはないんだ」
「怒っちゃうぞ宣言っ!? やだなぁ。もう」
俺がやだだっての。
「怒るぞ?」
「来斗が滅多に怒らないのは知ってるけど、僕良い子だから。やめといてあげましょう!」
「あげましょう! じゃねぇよ」
なんで上から目線なのっ!? つか、最初のはいらんでしょうよ!
俺だって怒ることはあります。
「で、何? また翔が壊しちゃったわけ? バカじゃないの? なんでまた木製の買って来てんのよ」
「──うぉっ!? 危ねぇな!」
やめろっ! これ以上壁に被害をもたらさないでくれ!
「そりゃ壊れるに決まってんじゃない。折角、管理人さんに加工して貰ったのに」
「──うわっ!? だから危ないって!」
壁! 修復代出してね!?
あ、管理人さんってのは、古野栄成って人で、いろんな物を加工することが出来る『物工』を操る人だ。その物工を使って俺らの住んでる部屋だけ、翔の木破壊が暴走しないようにして貰っている。だから、この本棚も管理人さんに頼んで、直して貰う予定だ。
ありがとうございます管理人さん。
てか、危ないって! さっきからずっとビュンビュン棚の木の欠片が飛んでくる!
「──春ちゃん、違うって! 僕が悪いんだ」
おおお……。なんと翔から助け舟を頂きたいたぞ……
「ほぉ〜? で、何? この近所迷惑なお遊びの原因は?」
あ、やっと欠片の嵐が止まった。よ、よかった……
いやいやよくないけどね!?
「えーと……」
翔が、かくかくしかじかと説明してくれる。
「───はぁ。なるほどね。んじゃ、これ管理人さんに直して貰って来たらどうなの?」
「そのつもりなんだけど、春が余計にボロボロにしてってんだよ! 壁もな!」
管理人さんの仕事増えんじゃん!
「……てへ?」
てへじねぇし。しかもなんで疑問形なの?
「まぁ、とにかく。管理人さんに話してくるから。行くぞ、翔」
「え? 僕も行かなきゃ駄目なの?」
俺に丸投げする気だったのか!?
「当たり前だろ? 説明するのに翔がいないと」
翔が悪いとはいわないけど、原因は翔だよ?
「……あぁ。なるほどね。騒ぎの原因は僕だもんね」
自覚あったのか。なんかすまん。
「まあ、仕方ないことだとは思うけど」
一応フォロー。
管理人さんの部屋はすぐそこだ。部屋の前にすぐに着く。
────♪ピンポーン
『は〜い』
扉越しに声が聞こえてくる。
お、留守じゃなかったか。よかった。
「すみません。冬野来斗です。ちょっと相談があって」
『お、来斗くん。久しぶり〜。待ってー。今出るから』
このフレンドリーさ。管理人さんが栄成さんでよかった。
ガラッ、と扉が開く。
「やっほー。あら、翔くんも揃って。どうしたの?」
「あ、こんにちは〜。早川です」
翔が短く挨拶をする。
「こんにちは翔くん」
「あの、説明しなくても、俺らの部屋に見たらわかると思うんで、来てくれませんか?」
「うーん嫌な予感がするけど……わかったわ。行きましょう」
予感いいですね。ビンゴです。
三人で俺の部屋に行く。
「…………僕来る必要性って……」
なんか小さい声でそんな声が聞こえた気がした! うん。多分気のせいだ。
「────どうぞ。入ってください」
俺が扉を開ける。
「はい。どうも」
クスッと栄成さんが笑う。
え、え? お、おかしいですか俺?
「────う、うわあ………………。なにこれ………」
まぁ、そうなりますよね……。
「すみません……」
──ってあれ!? 春! 春がいない! 逃げやがったぞあいつ!!
「………なるほどね。なんとなく伝わったわ。つまり、また暴走しちゃったのね……。いろいろと」
多分、いろいろと、の部分には春がビュンビュンしまくったって事も入ってると思う。
さすが栄成さん。逃げても意味ないんだぞ、春!
「はい……」
「ごめんね………」
翔からも謝罪の言葉が。今ぐらい真面目に謝れよ。
「──別に怒ってはないんだけどね」
あはは……と苦笑いをする。
栄成さんの優しさ。本当にありがとうございます。助かります。
「────でも。残念ながら、これは直せないわ」
──────!?
「そ、それは、なぜでしょうか?」
「だって……。ボロボロすぎるわよ」
「春〜〜〜! どうしてくれんのっ!?」
どどどどど、と壁を殴る。もちろん春の部屋側のな!
『て、てへ……』
てへ、で許されたら警察要らないよ!
そして、その日の夕方。
「来斗……」
「しょ、翔……? ど、どうしたんだ?」
翔が気持ち悪いぐらいに目を見てくる。ぐらいじゃなくて、気持ち悪い。
翔が目線を外してまた、俺の目を見てくる。
おい。マジでなんなんだこれ。
「僕……」
「何だ?」
どういう展開なの? ねぇこれどういう展開!?
「……超能力制御部に入るよ!」
「────え。えぇぇええええええええ!?」
超能力制御部って! マジか翔! 確かに桜高の部だけど! だ、大丈夫か!? あの部は評判結構悪いぞ!?
「────本気か?」
「────本気だよ」
そうか。本気か………。
「──なら俺は止めん」
「──うん。ありがとう。来斗ならそう言ってくれると思ってたよ」
「ま、俺に止める権利なんてないけどな。あの部も一応、学校公認らしいし」
とか言っちゃったけど、本当に大丈夫かな、とは思ってるよ。思いっ切りな!