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いろせかい  作者: 雲雀 蓮
虹の麓でこんにちは
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集まって咲く紫陽花色

唐突に、幸せを感じる時間がある。


「なんか、幸せ」


皆がそう言えたらいいのに。って考えたのが始まり。


──学校にて。


「なんかこう、人の役にたちたい!」

「漠然としすぎじゃないかしら?」


今日は頑張って学校にきた。聖奈みなと約束したからね!

昨日泣かせた子には会えなかった。もう、会えないだろうと思う。

あんなことをした後だし、今はそっとしておこう。なんて嘘。

あの手の人種は、単純に会いたくない。紅茶並みに無理だ。


それはともかく、人の役にたちたいのは本当だ。

私の耳で何か出来る事があるのではないか、と思ったのだ。

今回聖奈を助けてから、そう思った。


「私、実はすごいんじゃない?」

「寝言は寝て言いなさい」


実は前後の席だった私と聖奈は、授業休み中はずっと話している。


私にとっては授業は退屈だけれども、聖奈は必死にノートをとっている。

その健気な行動がとても可愛いので、話しかける事はしなかった。


「そういうのは誰だって思いつくの。行動できるかどうかで違いが出るだけよ」

「なんか難しいこというね」

「言うは易し行うは難し、って言うでしょ?」

「言うのは泰さん?行うのは固さん?社長と社員の話し?」

「違うわっ!」


全力で突っ込んでくる聖奈を微笑ましく見つめる。

あぁ、なんていい表情だろう。なんていい声だろう。

嘘偽りなく、私に接してくれる。やはり彼女は聖女なのだ。


と、考えが飛んだので戻ってくる。丁度担当教科の先生が教室に来た。

私は教科書を開き、授業を受けているフリをする。


このくらいの教育ならば、一度受けたとこがある。

耳の異常の前に、私と夏樹なつきは学力に関する能力が優れていた。

その所為で一度親元を離れ、遠くの海外へ留学していたのだ。

飛び級制度もあったので、小学生位の年頃で高校レベルは卒業した。


だから、この授業が退屈でしかたない。

再び高校に通うことになったのは、留学中の学歴は実験みたいなものだったからだ。

正式なものではない。中学入学までには戻ってきたから、中学卒業は出来た。

したがって、私の学歴は中卒で終わる筈だった。しかし、今私は高校生。

どうしてかと言うと、高校に通うのを渋った私を夏樹は説得したからだ。


那都琉なつるが行かなくても俺は行くよ?いいの?一人ぼっちになっても知らないよ」


今思い返しても酷いと思う。

色々あって、両親とは既に縁を切られたような形になった。だから私の家族は夏樹だけだ。

中卒で学歴が止まった私の就職は絶望的とも言えるだろう。


私は、中学すらまともにいかなかった。夢があるとか、就活したとかもなしに卒業した。

そんな中卒は使えない。

私には選択の余地は無かった。どんなに凄い学力があっても、能力があってもそれを表すモノが何もなくては意味がない。それを思い知った。


「なにか、私にできること・・・」


子供のように知っている職業をいくつか教科書に書き込む。

パティシエ、パン屋さん、警察、消防官、大工、役者。

どれもがピンと来ない。

仕方なく、最近みたテレビや、漫画の職業をあげてみる。

エクソシスト、神父、秘書、探偵。


探偵。

その言葉に、力を感じた。


探偵は人のために、人を探したり、犬を探したりする。

直接的に私が力になれる。しかも自信を持って出来る!


私にとって天職ではないか、と本気で思った。その瞬間だった。(ドキュメンタリーっぽく)


退屈な授業が終わり、下校時刻になった。

今までと同じ感じで私は聖奈に言った。


「私探偵になる!」

「無理でしょ」

「今でしょって言ってよ!」

「無理でしょ。どう考えたらそんな危険な発想できるのよ」


淡々と反論された。子供心を傷つける親みたいな返しだ。


「まぁいいんじゃないか?」

「ちょっと、無責任過ぎる返事はやめて」


一般家庭の遣り取りを学校で見るってシュールだな。

そう思って二人を見つめた。父性と母性そのものを持っているようだ。


「一度やってみてからでも悪くないだろう?人生経験は大事だ」

「う、それはそうだけれど」

『どうせ、仕事は来ないだろうし』

「本音そっちか!」


人間というものは、反発されるほどやる気をだす生き物だ。

意地でも探偵として結果を上げてやる!そう本気で思ったのだ。


その遣り取りを見ている人がいるなんて気づかなかったけれど。


次の日も私は学校に行った。

すると、急に知らない人に話しかけられた。クラスメートだろうか?


「あの、お願いがあるの」


そう言った彼女の目は潤んでいた。

ぎょっとしたが、彼女は今にでも泣きそうだ。事情をおとなしく聞くことにした。


「この間から**ちゃん来てないでしょ?」


聞き覚えのない名前だったが、恐らくあの化粧魔人(失礼)のことだろう。

元凶の私に非難をしにきたのだろうか?とビクビクした。


「**ちゃん、電話もメールもしてくれないの」

「私に何をたのもうとしているのかな?」


話がさっぱり見えなかった。

私への文句とかではないのが理解できたのだ。

この子は心底**ちゃんとやらの心配しかしていない。

だったら、私に話しかけた意図はどこにあるのだろうか。


「**ちゃんを学校に連れてきて欲しいの!」


彼女は藁にもすがる思いでそういった。

私も藁にすがりたい。助けて、溺れそう。


「な、なんで私に?」

「だって、探偵だって・・」


なんてこった、勘違いだ。

なんていい加減なことを言いたく無かった。彼女は本気なのだ。


本気で私が助けられると信じているのだ。


胸の辺りがそわそわする。

誰かに信じられるなんて、初めてだ。こんなにも嬉しいことなのか。


「わかった。頑張ってみる」

「ホント?良かった。これあの子の住所」


手渡された紙には几帳面そうな字で住所と地図が書いてあった。

大きく頭を下げて自分の席に戻る彼女をみて、私は決心した。

やってやろうではないか。神様は私を心底嫌っているような仕打ちをするが、神様は超えられる試練しか与えないそうではないか!


「ということで、どうしよ」

「何で引き受けたのよ」


一人じゃ無理です、一緒にいこうと言ったら聖奈は怒った。当然だと思う。


「だって私のせいじゃん」

「元々の原因のあたしに言わないでよ!」


ギャンギャンと人目をはばからず、道の真ん中で言い合う。

なんだかんだで一緒に来てくれる聖奈って、本当に優しいなぁ。


ピンポーン。


地図は案外正確だったので、迷わずついてしまった。

そしてつい普通に、ためらいなくインターホン鳴らしちゃった。私のバカ!


「あら?」


出てきたのはあの子のお母さんだった。案外普通(失礼)。


「こんにちは、クラスメートの」

「あらいやだ、今呼ぶわね」


名乗る前に娘呼ばないで。彼女は私たちにとってトラウマです。

いやマジで。あかんって。


「今部屋に引きこもっちゃって」

「あ、では」

「部屋まできてくれるかしら?」


会えないような言葉だったから、そのまま帰ろうとしたのに・・・。

こんな風に言われたら、帰れない。

このお母さんは純粋に友達が遊びに来たと勘違いしているのだ。


「おじゃまします」


心配そうな、いや恐怖している顔の聖奈の手を繋いでお邪魔した。

フローリングで、壁には可愛い装飾がなされている。一般家庭。


「ここなの」


彼女の部屋の扉には**の部屋と書かれたプレートがかかっていた。

そして、そのパンドラの箱を片手でこじ開けた。


ぎぃぃ。


そして聞こえた声。今までも聞いたことのある声だった。


「ねぇ、お姉ちゃんよわっ」

「うるっさいな!頭を使うのは苦手なんだよ!」


「ねぇいく、何してんの?」

「あ、那都琉お姉ちゃん。久し振り!」


優騎の妹、郁奈いくな。小学生。

優騎と同じで髪の色素が薄い。赤っぽい茶色をこちらはツインテールにしている。

とても可愛い幼女だ。純粋ないい子だ。なんでココでオセロやってんの?


「あのね、このお姉ちゃんと遊んでもらってたの!」

「あ゛?あんたの知り合いだったの?!さっさと連れて帰れ!」

「まぁまぁ、お姉ちゃんカルシウム足りてないよ~」

「うるっさいよ!」


なんていうかもう。限界。どこから突っ込めばいいの?

神よ、どうしてこんなにも非情なのですか?

そうして祈っている間に聖奈は聞き込み終了したようだ。強かだな聖奈!


「えーと、つまり

 郁?ちゃんが迷子になってて、それを買い物帰りに見つけてしまった**さんが家に連れて帰った、 と。警察に連絡はしたけれど、調べるのに時間がかかるので遊んでいたと」

「大体そんな感じー」

「こっちは迷惑してんだ。早く連れて帰ってくれ」


ぷいっ、とそっぽを向く彼女。まだ遊んでとせがむ郁。

そして、『気まずい』という彼女の声が聞こえた気がした。


「なにはともあれ、ありがとう」

「ふんだ」

「郁、もう帰るよ」

「えーもっとあそびたーい」


このままだと暴れだしかねない郁に、「お菓子食べたくない?」と誘惑。

おとなしくなった郁を聖奈に預けて、先に外に出るようにお願いする。

二人きりになった部屋はどうしても気まずさを感じる。

先程まで遊んでいたオセロを片付けている彼女は、比較的穏やかな声で言った。


「なんか用なの?態々残って」

「うん。伝言、届けようと思って」


うさんくさそうな笑顔にならないといいな。

そう願いつつ口角をあげる。少しでも好意的に見えるように。


「君を心配している子が居るの。君が学校にこないって」

「そんなのあんたに関係ないだろ」

「ううん、関係あるよ。だってその子の声が聞こえたから」

「は?」


「『もう、会えないのかな』、『さびしいな』って」


「そんなの・・・!」

「それに君だって、『淋しい』って思ってるじゃん」

「・・・!この化物!」


彼女は知っている人だった。耳のことは誰かに聞いたのだろうか。

なんにせよ、事情が飲み込めているのなら楽だ。

思っているままに言えばいい。


「この部屋はうるさいね。ずっと泣いてる」

「あんたのせいだろ!」

「うん。まあそうだね」

「あんたが、あんな」


「びっくりしたけど、さ。すっぴんの方が可愛いよ」


「はぁ?」

「あんなゴテゴテだから、どんなもんかなって思ったけどさ。実際は肌が少し荒れているくらいだし。それにあの荒れ方はきっと化粧のしすぎが原因だと思うし」


肌は排泄器官だってCMにもあった。

人間の体には常に綺麗な場所はないだろう。よく考えてみれば。

毎日細胞が使い捨てられているのが本当の話なのだ。それを知っていれば上手く付き合えるはずだ。


「それに、今の君の心の声は女子力全開じゃん。意外に可愛いね」

「なっ!!」


怒りからか顔が真っ赤に染まった彼女。

また殴られるかと思ったが、拳を握った様子はない。平手も来る気配がない。

彼女は下を向いて、手で顔を覆った。泣いてしまったのだろうか。


「君が学校来るの、待ってるよ」


彼女に聞こえたのかは確かめずに、家を出た。

外では早くも頬を膨らましている郁となだめている聖奈がいた。

私が出てきたのを見た聖奈は、私に駆け寄ってきた。


「大丈夫だった?」

「なんの問題も無かったよ」


心配そうに私を見つめる聖奈に笑ってみせた。

多くは語るまい。また彼女と戦うハメになっても困るし。


「帰ろうか」

「うん!」

「あ、郁を送ってかないと」


その日はちょっと寄り道をして帰った。

郁の要望通り、お菓子やさんでプリンを買って静かにさせたところで優騎を電話で呼んだ。

思ったより心配していないなって思ったら、郁は携帯を持っていた。

このあざとい幼女め!こんなの、誰だって騙されるわ!


何はともあれ、私のできることは全て終わった。

聖奈を途中まで送って、家路につく。待っているのはあのバカ兄だけど仕方ない。



次の日。

すっぴんの彼女が学校に来て私に挨拶する、なんて思いもせず眠りについた。



気がついたら長くなってました。れんです。


モブキャラが出ました。わかりやすく**さんです。

こんな夢物語あればいいなーって。普通こんなにならない。郁の件も。


こうやって主要キャラは増えていきます。

あと一話でやっと一章完結です。よければそちらもどうぞ。

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