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いろせかい  作者: 雲雀 蓮
番☆外☆編
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ほの昏い未来



がしゃぁああああん!



深夜の住宅街に大きな破壊音が響いた。

交通事故によるそれは、たった一人の犠牲者を出したという。

それを見ていた一人の少女は警察が駆け付けるまで茫然としていた。

そんなニュースがテレビから流れだす。


「どう思う、那都琉?」

「どうって、言ってもねーよくわかんなーい」


そう言ってごまかす、私。碧井 那都琉。

忘れちゃったかな~?そうそう別の世界の人だよー。見てるー?

なんて冗談もほどほどにしておこう。

あからさまに変な人じゃないか。


ニュースの話に戻そう。


目撃者の、優騎さんとやらは夜遅くに事故現場を通った。

塾の帰り道と言っていたが、未成年を長時間拘束するか?

つまり彼女は何かしら嘘か、ごまかしている。深夜徘徊は間違いない。

で、事故の犠牲となった人が運転手ただ一人。

誰も引いていないのだ。何かを避けた跡もない。


「那都琉は夜遅くに出歩いちゃ、ダメだからね!絶対よ?」

「うん、お姉ちゃん」


どうしたって私は夜遅くまで起きてはいられない。

それがこの力の代償でもあるのだろう。

なんて考えつつその日は眠った。





「はろー」

「貴女は誰ですか。馴れ馴れしく挨拶してきて」

「んー、と迷子、みたいな?」

「・・・丁度目の前が警察なので、寄っていけばいいじゃないですか」

「おぉ、ほんとだ―」


自分でも頭やばい子アピールが痛すぎて涙がにじむ。

ここまで徹底的に馬鹿だったら誰の目にも触れない。

情報を受動的に入手する化け物とは、誰も気づかない。

彼女と少し話しただけで事件の概要は完璧に理解できた。


(なんだ、ただのストーカー被害だったのか)

そんな淡々とした気持ちが湧き出る。

彼は彼女のストーキングをしていたが、夜道と疲れによって手元が狂ったのだ。

世の中こんなものか、なんて勝手に思って離れようとする。


「・・・貴女、暇ならちょっと付き合ってください」

「へ?」


演技じゃない、素の声が出てしまった。

大したものじゃなかったためか、表情の変わらない彼女を見て安心した。

そして、着いて行くことを即決した。

例え誘拐だとしても逃げ出すには、十分なほど知恵と知識があるから。

彼女は、私の右横に並んで歩いた。

どこに向かう予定なのかと訊けば、近くの喫茶店だという。



カラン、カラン・・・


「あら、いらっしゃい。お友達?」

「いいえ。違います」

「えー違うのー?」

「違います。先ほどあったばかりで友人などと言える訳がないでしょう」


優騎は尚も不平を言う私の手を、窓際でかつ壁にも囲まれた隅の席まで引いた。


「えっと、お財布持ってないよ?」

「いいです。おごりますよ」

「え!いいの?」

「勝手に連れてきたのは私ですし、軽装な貴女を見て金銭をたかろうとは思いませんよ」


優騎の言うことはもっともだった。

今の私は馬鹿さを強調するために何も持たず、手ぶらで散歩をしていた。

でもまぁ店に連れて来られたのは少し意外だった。

そんなに行動力のあるような人間には思えなかったから。


「じゃぁ、ココアがいいなー。冷たいのー」

「アイスココアとホットコーヒーを一つずつ、お願いします」

「かしこまりました」


品物が運ばれてくるまで優騎は頑なに口を閉じていた。

店員が話の腰を折ることを懸念しているのだろう。

まぁ私にとっては、どうでもいいことだが。

品物が届くまで、馬鹿な話をつらつらとしてみた。あ、眉間に皺発見。


彼女は美しい部類に入る美貌だろう。

左右対称なその顔は美にそれほど執着していない私にもわかるほど正確だ。

だからこそ、熱狂的なファンができる。

つまりストーカー被害者になることは慣れっこのはず。

性格的に割り切ることもできる、感情制御も得意のようだ。

それなのに、なぜ。見知らぬ他人の私に、相談を持ち掛ける?



ことん、ことん。


「お待たせしました」


置かれたココアとコーヒーは、かわいらしい兎のコースターの上に置かれた。

きっと聖奈が見たら喜ぶだろうな。


「貴女はニュース見ていますか?」

「ううん、お姉ちゃんがいつも見てるけど、私は見てないよ」

「そうですか。だから、着いてきたんですね」


彼女の言わんとすることは理解できた。

明らかに警察から出てきた人間についてくる人はいないと思っているのだろう。

今回私は敢えて近づいて行ったのだけれど。

それに彼女は、他者と触れ合うことを拒否している顔をしている。

彼女の心理描写をこちらで勝手にすると

(あ、何だ。ただの考えなしか。だったら別れ際は適当にすれば問題ないだろう)

といった感じだろうか。



「どうやったら人間って死ねると思います?」



あぁ、彼女も私と同類だったのか。

なんて思いもなかった。彼女のはまた別だ。

ストーカー事件を通して、自分の味方がいないように感じているからこその考えだ。

私と似ても似つかない。

あちらが私に対してするのと同じように適当にあしらおう、そう思った。


「血がいっぱい出たら死んじゃうんでしょ?」

「そうですね。1L以上出たら危ないです」

「あと、心臓が止まるーとか?」

「それもありますね。血が廻らなくなることで、すべての機能が停止します」

「それと本で見たのは、忘れられた時死んじゃうんだよね?」

「名台詞ですね。でも、私が言いたいのはそう言うことじゃないのです」


彼女の言いたいことは、わかっていた。

自分の手で、自分を殺さない方法。他者に自分を殺させる方法は何か。

更に彼女は自分の都合が終わるまで私を解放する気がなさそうだ。

私はあくまで馬鹿を装って彼女に助言するしかなかった。


「優騎は死にたいんだ?」

「はい。でも中々うまくいかないのです。この間も失敗してしまいましたし」

「なんで?」

「なんで、死にたいかですか?それは簡単です。私は生きている価値がないからです」

「それって絶対必要なの?」

「え?」

「生きている価値がなければ、死んじゃわないといけないの?

 だったら私は早く死んじゃわなきゃいけなかったよ?

 だって馬鹿だもん。周りにすっごく迷惑だと思われてるもん」

「貴女は、それでも周りに愛されているから価値はあるのです」


一番愛を信じていない人から出た言葉とは思えなかった。

愛されているなんて、どうやって知るのだ。

こんなにも恐ろしい化け物を愛する人間なんてこの世のどこにいるのかぜひ教えてほしい。


「誰もそんなこと言ってくれなかったよ。たまに死ねって言われてたくらいだし」


人間は同類とでも対立する。同類でも、躊躇いなく傷つける。

同類でもそんな対応なのだ。だから異端な私は嘘を吐かねばならない。

でも、同類だからこそ受け入れられることもある。

それを優騎は知らないようだけれど。



「別にいいんじゃないかな。人に必要とされなくても。生きていたい限り生きれば」



何時だって限界は自分が決めるものだ。そうあるべきだ。

それなのに誰かのために無理をして全てを失う必要はない。


「・・・・あなたは不思議ですね。馬鹿かと思ったら真面目なことも言えるなんて」

「うー、ほめられてない」

「貴女の名前は、なんて言うんですか?」

「今更自己紹介?変なの~」


この出会いでまさか友人が増えるなんて思いもしなかった。

遠くない未来で死ぬであろう私なんかに、だ。


その事実がただ悲しかった。


やはり誰も私のことは理解してくれないことに。

馬鹿を装わなければ、仲間が増えないことに。

本当の自分が、必要とされていないことに。



やはりどこかで私は間違えたのだ。

人として生きるための道を選びそびれたのだ。

あの時、誰かに助けを求めるべきだったのだ。

そうすれば過度なストレスを得ることも、こんな力に目覚めることなかったのに。



自分は、人間として失敗してしまったのだ。



これは、誰も知らなくていい。

こんな失敗はもう誰もしないだろうから。


だから、もう幕引き。

見世物の私は舞台袖へ行こう。


それではみなさん、ごきげんよう。






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