大雨の中みたいな灰色
ふと見上げた空の色がとてもきれいだった。
バイトが終わって、ぼんやりしていたからだろう。
疲れた心に沁みこんでくるような空に涙した。
もうすぐ。
もうすぐで。
ここにトラックが突っ込んでくる。
きちんと時間をいうのなら一時間。
もしも誰かが私の友人でいてくれたなら、
もし誰かがありのままの私のことを受け入れてくれたのならば。
こんな選択をせずに済んだのだろうか?
今更どうして、そんなことを考えてしまったのだろう。
今となってはもうすべてが遅いのに。
なにもかも、耐えきれないのに。
今までついてきた嘘も
隠してきた秘密も重すぎる。
抱えて歩いていくのはもう無理だ。
来世なんてものがあったのなら、私は──。
私は外になんて見ない、触れない、関わらない。
全部全部、私にとっては害悪でしかないから。
あと三十分。
最後の最期まであんまりにもぼんやりした人生だった。
多くのことを能動的に知るせいで、いつも考えは自分の中で完結して。
他人と話すときに限って全然違うことを話してしまう。
変だね、とよく言われては。
変なのはそっち、と考えていたような気もする。
混濁した記憶が走馬灯のように私の周りを走る。
この世界での唯一の救いは・・・この性格だろうか。
取り入れた記憶を勝手に咀嚼して、吐き出してしまう。
知っている上でもう一度確認をしてしまう。
何も知らないように、気づかないようにふるまってしまう。
あと、十分。
どうか誰も私の死を悲しみませんように。
なんて。
わかりきっているのに。
聖奈はきっと一番泣いてくれる。
夏樹はどうだろう?聖奈につられて泣くか、聖奈を慰めてくれるよね。
優騎は全然泣かないでむしろ迷惑がってそう。
郁は、泣かないだろうな。泣いたらお姉ちゃんが困るって知ってるから。
「・・・・シャロ・・・・ごめんね、
また、一人になっちゃう」
あと六十秒。
偶然止まった、信号を無視して前に出る。
そばにいた聖奈と夏樹の静止の声をも無視。
耳が痛くなるようなブレーキの音を右耳で聞く。
足は震えていて動かない。
顔を上げる勇気が出ない。
「・・・・・・・・・・・いたいのは、やだなぁ」
宙を舞う私の体。
ぶつかったところから痛みが広がって、全身に回る。
心臓の音がやけに大きく聞こえる。
ぼんやりした頭がさらにぼんやりしていく。
手が、足が冷たくなっていき。
地面に戻ってきたときには意識は半分以上奪われていた。
「那都琉!那都琉!!」
声が、遠のいていく。
あの手紙は誰が見つけてくれるんだろう。
いつ、見つけてもらえるかな?
こんなにも異端の存在の、私の本心を。
きっと。
私の外に、適任者はいないのだろうけれど。
その人がどうか、私とは違う環境にありますように。
真っ白な世界の扉が、私のために開いた。
何もなく私はそこへ進んでいったのだった。




