日差しを浴びて伸びる向日葵色
「で、さっきのはどういうことだったのかしら?」
「ふぁっきのこふぉ?」
あの自己紹介の後、私たちはファミレスでお茶をすることにした。
彼女─聖奈の提案だったのだ。
丁度私も小腹がすいていたので、今あまーいパフェを食べているのだ。
チョコ美味しい。
「んーーー?さっき。何してたっけ?」
態とそう言えば彼女は呆れたようにため息をついた。
私はただあの「人間失格」の主人公と同じく、おどけているだけだ。本当に忘れているわけではない。
その小さな努力によって、彼女の心の声は寸分違わず『変な人に当たった』だった。
「変な人って失礼じゃーん」
「あら、自覚があるなら尚ひどいわね」
私も訂正。
この子あの友人に背格好以外似てない。
言葉が優しくない。でも可愛い。
というか、つい返事をしてしまった。あれは心の声なのに。
そこで一度、よーく聖奈を見つめてみた。
短めの茶髪は自毛のようだ。
クリックリの同じく茶色い目は、とても澄んでいる。
肌にはニキビ一つないし、シミもない。
歳は同じ位と見た。
手先まできちんと手入れしているようだ。触ってみたい。
ネイルはしていないけれど、結構長めの爪だ。でもきれい。
それと、
「そんなにジロジロ見ていると本当に変よ」
「通報されないように手を繋いでください」
私の申し出は速攻却下されました。
きっと彼女の手はすべすべさらさらで、最高なのにな。
彼女はデコピン一発で私の行動を諌めた。
生々しい音が額から聞こえたけれど、無視しよう。そうしよう。
赤くなっていてもいいや。今は前髪長くしてあるし。
「ふぅ」
「ため息つくと幸せ逃げるよ」
「それは一体誰のせいかしら?」
「きっと悪徳代官様だよ」
聖奈はお行儀悪くテーブルに肘を突いて、頬杖をして私を見た。
そしてもう一度深くため息。
「貴女っていくつ?」
「花も恥じらう高校二年生」
「嘘はよくないわよ」
「せぶんてぃーん」
どうやら彼女も同じ年のようだ。『こんなのと同じ歳』って声が聞こえたから。
きっと間違いない。こんなのってどんなのだろうね。
どうしても信じてくれないようなので、こちらからも質問してみる。
「聖奈って学校どこ?」
「**高校よ」
「あ、同じだ。クラスは?」
「二年六組」
「あーあの先生ってハゲてきたよねー歳かな?」
そこまで話して漸く彼女は理解してくれたらしい。
『あぁ、この人本当に』って、どれだけ私の見た目に騙されてるの!
確かに百五十前半しかないけれど、中身はきっちり十七年分の経験が詰まってますよ!
「那都琉って本当に高校生なのね」
「最初からそう言ってるじゃん」
「小さいし、バカっぽいし。小学生かと思ったわ」
「よく言われる。けど、これでも頭いいんだよ」
「へぇー。得意教科は?」
「算数!」
「小学校いってらっしゃい」
昔からそうだが、私は身長のせいで年を下に見られることが多い。特に親戚のおばちゃん。
女の人はどうしてサバを読むのだろうか?自動サバ読みをされる身にもなって欲しい。
算数、もとい数学が得意なのは本当だ。一番好きなのは数列ーってまだ学校では習ってないな。
「で、話しを戻すけど」
「別になんでもないよ。だた、嫌なこと思い出しただけ」
しつこく聞いてくるので、淡々と客観的に事実を述べた。
腑に落ちないのか、聖奈は私の顔を伺う。
彼女が不満に思っているのをわかっていながら私は笑って言ってみた。
きっと彼女が聞かれたくないことを。
「聖奈こそ、あんなところで何してたの?学校は?」
「うっ」
あからさまに彼女は顔色が変わった。
『学校行きたくない』?『あいつがいるから』?
なんのことだろう何て、聞かなくてもわかる。一度見たことがあったから。
「いじめでもうけてるの?」
「あ、あなたには関係ないわ」
「へぇ、家族も助けてくれないんだ」
「さっきからなんなのよ!いいかげんにして」
聖奈は今まであってきた人と同じように怒った。当然だ。
本当は隠しておきたい事実を晒しているのだから。
私のほうが非情なのだ。
同じ種でも、性別でも、年でも、環境でも。
例え何年一緒に居ても変わらず、気づかえない。人間の不良品。
自分が異質なのはとっくに理解していた。
でも誰かの為に、何かを成してみたいと考えていた。
例えば、たったひとりの友人とか。
「いこっか」
「は?」
この時は、聖奈がどうしようもなくかわいいなって思っただけだった。
今更だけど、別の人だけど、友人を助けられたら幸せだなって後から考えた。
「初めまして、聖奈。私ね、那都琉っていうの」
「さっき聞いたわよ?」
「私ね、耳がいいの。人の心の声が聞こえるの」
「・・・・」
「だからね、聖奈を助けたいって思うよ」
「・・・っ」
「一日だけ。一緒に頑張ろうよ」
聖奈は綺麗だった。
私と違って、昔は快活だったに違いない。遊ぶときは近所の公園だろう。
つい最近まで、誰からも嫌われない、完璧に整えた女の子だったのだろう。
そんな涙ぐましい努力をも妬む人からすると、それも気に食わない要素か。
「今更、何も変わらないわ」
「うん」
「環境が変わるとか、いままで辛かったのがなくなるとか」
「うん、知ってる」
反論しようとしたか細い聖奈の声は、段々小さくなっていった。
きっと本当に優しい子なのが私でも理解できた。
「私はそんな聖奈が大好きになっちゃったの。
だって、こんな可愛い子見たことないもん。それに、
ちゃんと笑ってる顔みたいよ」
そういって未だ決めかねている聖奈の手を取った。
私は冷え切ったそれが暖かくなるまで、握っていることにしたのだった。
────陽だまりみたいに暖かい手、だったのだろうから。
こんにちは、といっても誰が見てくれるのでしょうね。れんです。
まだシリアスっぽいところがあります。残酷な場面は引っ込みました。またそのうち出るかもしれません。
こんな感じの小さな話をつらつらっとかけたらいいかなって思います。
よろしければお付き合いください。