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いろせかい  作者: 雲雀 蓮
背景という遠いところの話(番外編)
28/43

線を引くんです


今までの生活に不便がなかったかと言えば、no。

いつだって不便ばかりで、人間の汚い部分ばかりを見てきたと思う。


いつからか、人を信じることができなくなっていた。

そこまでは彼女と同じ。しかし私の場合は少し違う。


予防線を張ることで、自分の核心への介入を拒否した。



「で、これは一体どういう状態ですかね?」

「聞いてよー優騎!聖奈が紅茶ばっかり用意するー!」

「いいじゃない、飲んで死ぬようなものじゃないんだから!」

「まずいのヤダー」


まるで子供の喧嘩だった。

同じ年の女の子の会話としては不適当だ。

紅茶が飲めない、というのも中々大人気ないけれど。


「いいじゃないですか、一口くらい」

「優騎が飲んでよ」

「今私が持っているカップが見えないんですか?」

「両手に持ってればいいじゃん」

「優雅さというものを勉強してきてください」


片手に一つずつカップを持っている人なんていないだろう、マナーとして。

どうやって飲むというのだ。


「聖奈。この人はバカっぽいところが9割なんで、いじめないであげてください」

「えぇー」

「対応させられる身にもなってください」

「仕方ないわね。優騎がそういうなら」

「聖奈お姉ちゃん、私も紅茶飲んでみたい!」

「あら、そう?じゃぁ、今用意するわね」


嬉々としてティーポットを持つ聖奈。

これで今日はおとなしくしているだろう。

私と、那都琉と聖奈、そして郁の四人でお茶会。

出会ってから週に一度だけ、開く約束をしたのだ。

偶にしない時もあるけれど、それはたいてい那都琉の我が儘のせいだ。


「・・・・・・・・・」


今日は無難にアールグレイ。

聖奈の入れる紅茶は本当に美味しい。


常に耳が心の声を拾う彼女と、少し違う私。

この紅茶を眺めているだけでは何も見えない。

たとえば、この紅茶はどこから来ているのかな、と考えると。

どこか広い場所が見える。一面紅茶畑。こんな感じの小さいもの。


那都琉と比べると些細なもの。

誰かとぶつかるものではない。


私の考えに何か証拠ともいえるモノの回収するだけの力。


「・・・・・・」


しかし、弊害として言えるのはコミュニケーションの欠如。

必要な思考をしているあいだも、この力は発動する。

見終わるまで、まるでテレビを見ている時の様に黙ってしまうのだ。


仕方がないから、人前では熟考は避けている。


どうしてこんな力を使えるようになったのか。

そう考えたのは小学4年の春だった。


那都琉も夏樹も遠くに行ってしまい、一人になった時だったと思う。

(確か三年の冬に出発して、中学入学頃に帰ってきていた)

幼い頃から何事か見えてはいた。しかし説明もできなければ、理解もできない。

何時も怯えていた子供だった。今もだけれど。


敬語を使うようになったのは、そうした恐怖を避けようとしたからだ。

誰かになにかに、深く入り込もうなんて考えないように。

自分のことだけを常に考えていられるように。

──誰も、私の中に入ってこないようにするために。


「う~、大人の味~」

「やっぱり郁ちゃんにはまだ早いかしら?」

「そもそも紅茶なんて飲めても、なぁ」

「な に か い っ た か し ら ?」

「ごめんなさい、怒らないで。紅茶もってこっち来ないで!」


私たちは、自身を守るための力を使えるようになる。

そういう血筋がある。

私は、過去未来を知ることで現在を形成する。

那都琉は、人の心理を知ることで影の思惑を知る。


違いはあれど、同じだ。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」

「はいはい、何ですか?」

「お菓子美味しい」

「それは良かったですね。聖奈に感謝してくださいね」

「おすそ分けー」


そう言って、クッキーを私にくれる郁。

「ありがとうございます」とカップを置いて受け取る。

食べてみれば、やはり美味しい。サクサクしている。

今度作り方を教わろうかな、と。ちょっとだけ思った。


聖奈は那都琉の友人。私のじゃない。


「優騎ー聖奈がいじめるよー」

「ちょっと、人聞き悪いわね。那都琉がお菓子ばっかり食べているからでしょ」

「那都琉、太りますよ」

「いいのー。こんくらいで太れるかー」

「カロリーを甘く見ているわね?」

「聖奈お姉ちゃん、那都琉お姉ちゃんはねお子様なんだからあまーく見てあげてよー」

「え、郁?お前もかー」


郁のなつき様も中々だけど。私は違う。

遠く遠くで、見守るだけでいい。


私は誰よりも臆病だから。

決まった未来をそのままたどることしか、できない。

きっと未来人だって、こんな悠長じゃないのになぁ。


先の決まっているものにだけ、手を出す。

傍から見れば、「なんだこいつ」的な扱いになるのは必至。


とりあえず。

迎えに来た夏樹に紅茶が降りかかる時間を静かに待とう。

本当は私が食い止めることで回避される未来だけれど。

一度見て面白かったから、もう一度みたいなぁ。


「おーい、迎えに来たぞー?那都琉ー?」

「やーだーこっち来んなー聖奈のばかー!」


那都琉が聖奈の手(withカップ)をはねのける。

その程度では聖奈はカップを離さない。しかし中身は水平投射される。

目的地は、夏樹の顔。


「うわぁ、あっちぃ!あっちぃ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・あははは」


まるで一瞬だけ黒人化したようで、笑ってしまった。

紅茶はいれたてなのがポイント。熱さに悶えている彼がとても面白い。


「お姉ちゃん、珍しく笑ってるね」

「だって、こんなの普通はないもの」

「ふーん?」


意味ありげに微笑む妹そっちのけで、わらった。

笑いながら、用意してきたタオルを渡したら、夏樹が驚いた顔で私を見た。


「なんか機嫌いいな?」

「体を張った芸ほど面白いものはないんですよ」

「・・・・そうだな。なんだか腑に落ちないけどな」


正に計画通り。としか言い様がない。


人と付き合うのにはまだ抵抗がある。

でもいつか。この力が無くなった時。その時にはきっと。

そう、わかっているから。


まだもう少しだけ、線を引こう。


私のすぐそばに一本。私の知り合いに一本。

その二つを一緒にして、もう一本。


いつか、私の周りの線を消しても、線が残るようにしておくの。



「ごめんなさい、優騎。優騎の部屋が紅茶まみれに・・・」

「別に構いませんよ。面白いもの見れましたし」



いつか、聖奈とも「友人」として笑い合えるように。

その未来が来るのを知っているからこそ、きちんと手順を守っていこう。



過去になる今を紡いで、未来を創る。

私好みの、未来を。





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