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いろせかい  作者: 雲雀 蓮
高めの場所から見える風景の色
23/43

+浅葱色



結局晩御飯はカレーにはならなかった。

聖奈のリクエストでオムライス。皆で協力して作った。

肝心の卵は聖奈が作ってくれたんだけど、ふわっふわだった。


今は食器とかの片付け。夏樹はお風呂なう。


「聖奈って料理上手だよねー」

「うーん、でもこれくらいはできても普通じゃない?」


おぉう、コレが女子力か。聖奈の洗ったお皿を拭きながら、ショックを受ける。

記憶と一口にいっても一つまとめにされていない、というのが顕になっているな。

今の聖奈を見て感嘆した。


例えば小さい頃の記憶ががなくなったと言っても、歩けなくなる訳じゃない。

記憶の引き出し、ってよく言うけれど正にそれだ。

一つの引き出しに、一つの記憶。

たくさんの中の一つの引き出しが壊れた、若しくは開かなくなった。それだけなのだ。


「むー、じゃぁ、明日ガトーショコラ作って」

「え、難しいからやだ」

「簡単じゃないってこと教えてよー」


聖奈に我が儘を言いつつ考える。

どうしたら、何もかも終わるかな、と。


このまま記憶が戻らなくても、聖奈は生きてはいける。

だって思い出がないだけだから。そんな人は結構いると思う。

だから、聖奈の場合。両親の考え方が問題と言える。


早く思い出せ、なんて酷いことなんで言えるのかなぁ。

それができないから辛いのに。


シャロはまだ起きてない。と言っても寝付いたのが五時で、今は七時。

たった二時間で起きるとは思っていない。

どうやら色々欠乏しているようだから。

たくさん寝て大きく育てよー、幼女。と広い心で見守ろう。

私だってまだ大きくなるし。夏樹を見下ろせるくらい。


両親の連絡先ってどこだろう、と夏樹に訊いたら、携帯番号知っていた。

何でって訊けば、生活の援助してもらっているからだって。

その話聞いたことないと言えば、笑ってごまかしてきた。


ま、ここまでで情報は終わり。

これだけで、解決までこぎつけるのか。誰が?


洗い物をしている聖奈が?それともお風呂に入っている夏樹が?

未だに寝ているシャロが?名前も知らないような第三者が?


ありえない。

考えられない。


多分、おそらく、きっと。

私が何とかせねばならないだろう。


それは私が主人公だから、というメタな発想だけじゃない。

これらの問題に問題なく関与でき、解決策がぼんやり見えているからだ。

特に聖奈の件は。


ピーンポーン


「あら、お客さん」

「私が出てくるよ」


布巾を流し台の上の方につけたフックに引っ掛け、相手を確認しに行った。

こんな時間に誰だろう、と思って覗いたら。


「・・・・・・・・・」


お母さんがそこにいた。まごうことなく、私たちの。

鍵を開けようか迷ったけど、開けた。

何かしら重要な用があるんじゃないかな、というか。

こっちも丁度用があったからいいか、と。


「こんばんは」

「久し振り、お母さん」

「夏樹は?」

「お風呂。そろそろ出てくると思う」

「上がって待っていてもいいかしら?」

「別にいいよ」


物腰柔らかなお母さん。

あぁ、ダメだ。平行世界のお母さんが網膜に残っている。笑いそう。

念のため、お母さんの荷物を見る。大きなものはない。

小さなハンドバックが一つ。後は何もない。

おっといけない。前科があるからといって疑っちゃ失礼だね。


「あら?その人は?」

「私たちのお母さん」

「へぇー、お母さん・・・・え?!」


あ、聖奈の頭が軽くショートしている。会話が出来そうな状態ではないようだ。

私とお母さんを交互に見て、そして、その場にしゃがみこんだ。


「なんで、聖奈がびっくりするの?」

『だってだってだって!急に人が来て、お母さんで、』


この調子だと、夏樹がお風呂出てくるまでも落ち着かなそうだ。

仕方ない、そっとしておこう。リビングまでお母さんを連れて・・・。あ。

そう言えば、シャロはまだ眠っている。

お母さんをソファに座らせられない。シャロの上に座る人じゃないはずだけど。

平行世界のお母さんを見るに、やりそうだ(失礼)


「あら、この子」

「えっとね、この子はちょっと」

「ご飯、ちゃんと食べてないみたいね。それにクマも酷い」

「あ、うん」


一通りのチェックをしたあと、ソファのそばに座った。ソファに背を預けた状態で。

これお風呂から上がる夏樹から見えない位置じゃないかな。まぁいいか。


「那都琉はちゃんとご飯食べてる?」

「うん」

「ほんと?嫌いなものはペってしてない?」

「・・・・そんな子供じゃない」

「ならいいけれど。あそこで座ってたお嬢さんは?」

「聖奈」

「そう、いいお友達ね」

「うん」


なんとなく、目を合わせられない。

ずっと会ってなかった。言いたいこと、話したいこと、甘えたいこと。

たくさんあるはずなのに、何一つ出てこない。


「夏樹って意外と長風呂なのね」


違います、さっき入ったばかりです。多分もうそろそろ出てくるでしょう。

とは、言えなかった。待たせる気満々じゃん、と突っ込まれそうだったから。


「今日はね、那都琉に用があったの。だから夏樹は後でいいよね?」


小悪魔メイクの上に、首をかしげてあざといお母さん。

この人ほんとに私達を生んだお母さんか?細いし、顔整ってるし。

信じられないくらい子供っぽい。



「シャロちゃんも、目が覚めたらお話したいなぁ」



静かに微笑むお母さん。まるでずっと知って居たみたいに。


「お母さんは、何を知っているの?」


私は紛れもなく、この女性から生まれてきた。

同じように生まれたはずの夏樹は、何も持っていなかった。

・・・・私だけが、変な力をもってしまった。


「そうね、どこから話しましょうか」


顎に手を当てて、「うーん」と態とらしく唸る。

気持ちの整理が終わったようで聖奈は私のそばによってきて座った。


「うん、じゃぁまずはこの間のことから」

「え?」

「この間、違う世界にいたでしょ?」


真っ直ぐ、私を見る。何で、知っているの?

もしかしてお母さんも、私や優騎、そしてシャロと同じなにかが?

気づいたら眉根がよっていた。聖奈が不安そうな目で私を見ていたのは、これか。


「別に、なんでも知っているわけじゃないの。教えてもらったのよ」

「誰に?」

「シャロちゃんから」

「会ったことあるの?そこで寝ているシャロに?」

「ううん、違う方。那都琉を連れて行った方よ」


えっと、つまり?今ここにいるシャロとは関係ないってことか。

それで事情はシャロ2号の方に聞いたから、知っているだけで。そこに異能の介入はなかった。

いやいや、ないわけないよ。だってそもそもシャロ2号は、私達とは違う世界の人だよ?


「お母さんは可能性の世界を、知っているの?」

「あら、正解よ。よくわかったわね」


平行世界を知ることができる、そんな力を持っている。

それが私のお母さん?このお母さんは、本当にこの世界の人?

だめだ、頭がごっちゃになる。


「正真正銘、私はあなたのお母さん。でも今までいろんな”那都琉”にあったわ。

 自分の能力を隠している那都琉、実力を遺憾なく発揮している那都琉、誰かのいうことを聞かされている那都琉。たくさん、見てきたわ」


楽しそうに話しているように見えるけれど、違う。

お母さんは悲しいんだ。声は聞こえないけれど、泣いている。


「丁度、那都琉と離れてから始まった旅だった。今になって、貴女を放すべきではなかったと後悔してしまうほど、この世界の貴女は私にとって大切な存在って気づいたの」


こらえきれずに、涙が零れた。ポロポロ、ポロポロと。

化粧が落ちていくのも気にせずに、お母さんは泣いた。

それが、どこかあの聖奈と同じで。コレが愛情なんだなって、漸くわかった。



「帰ってきて、那都琉」



私の名前だけはっきり発音する、お母さんに思いっきり抱きついた。

お化粧が服に付いちゃったら、夏樹に洗ってもらおう。

久しぶりのお母さんの感触はびっくりするほど固かった。

ご飯食べてないの、そっちじゃん。泣きながら抗議した。



お風呂上がりの夏樹が今頃出てきた。

いつも言っているじゃん。上半身裸で出てくんなって。








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