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いろせかい  作者: 雲雀 蓮
高めの場所から見える風景の色
20/43

+瓶覗色

聖奈の記憶が戻らないまま、数ヶ月が経った。


病院を退院したのは一ヶ月前。

特に目立っていた頭の傷が治ってから、また一緒に学校に通う事が出来た。


未だに戻らない記憶に怯えることもあるけれど、「大丈夫だよ」と笑いかけるとへにゃりと笑う。

穏やかな日々がずっと続くような気がした。


「聖奈、帰ろ?」

「えぇ」


今日も手を繋いで帰る。

聖奈の手はすべすべで温かい。まぁ夏が近いし、当然か。

なんで私の手は未だに血の巡りが悪いんだろう。


びゅん、びゅん。


大きい道に出た。

沢山の車が容赦なく通り過ぎる。ビュンビュン、よりギュンギュンかな。


死に急いでいないので、おとなしく信号が変わるのを待つ。

何かくだらない世間話をしようと、聖奈の方を見た。


すると聖奈もこちらを見ていた。

満面の笑顔付きで。なにか意味があるのかな、と思ったけれどなにもなさそうだ。

車の騒音で何も聞こえないし。


「あ、」


青になった。さぁ、わたりましょ。


「行こ、聖奈」

「うん」


今までみたいなお嬢様然とした言葉を使わない聖奈。

前は素面で「ええ」とか「ごきげんよう」とか言ってたのに。

あ、「ごきげんよう」は嘘だ。それは某お昼番組のだ。


今の子供っぽい感じの聖奈も可愛いからいいや。


だって手を繋いでくれるんだよ?

「小学生かっ!」って突っ込まないで手を繋いでくれるんだよ?!

ありえないくらい可愛い。もう幸せすぎる。


大きい道から離れて、誰が通るのか謎な道を通る。

記憶の上塗りという意味もある。

しかし一番の理由は冒険だ。


人生には大事なモノが三つある。

一つは愛。ラブアンドピース。うわ鳥肌。

一つは思考。脳みそパーン。

最後に探究心。何事も挑戦が大事なのです。


そんな冗談はさておき。


聖奈の不安が手から伝わってくるような気がする。

否定できないのがなんともいえない。


私には聖奈の記憶を取り戻させる力はないのだから。


人の気持ちをチラ見もとい、チラ聞きしているだけだし。

──聞いたってなんのことだかわからないし。


シャロのように魔法じみた力があればよかったな。


「ねぇ、那都琉」

「うん。なに?」


聖奈の記憶はもう二度と戻らないかもしれない。

そう医者は言っていた。のを立ち聞きした。


「記憶が戻らない、ってこわいね」

「・・・・・・・・うん」


脳の記憶を司っていた部分が少し損傷しているらしい。

もしかしたら中の記憶がなくなっているかもしれない。そう言っていた。


記憶喪失には2種類ある。

片方はただ思い出せないというもの。

記憶の引き出しにしまわれたままになっている状態。

もう片方は、記憶そのものがない場合。


もし、後者だったのならば。

戻る可能性は0だ。医者もまだはっきりとはわからないといった。

ほんの小さな損傷だから、もしかしたら大丈夫かもしれない。

様子を見ましょう。


なんとも当たり障りのない受け答え。

仕方はない。でも納得はできない。


「思い出せなくても、友達でいてくれる?」

「当然。つーか愚問だよ」


と、答えたものの。

聖奈が精神的に参っているのは知っている。

特に両親からの言葉がぐさぐさ刺さっているのを知っている。


いつも別れるとき辛そうな顔をしているのだ。

こう、わかりやすく。



平行世界の聖奈も、心が脆かった。



そのことを踏まえたら、何か手を打たなければならないだろう。

記憶を戻す、何かを。


私は聖奈が事故に遭ってからずっと、シャロへ電話を掛けている。

どうやら使われてはいるようだ。でも出ない。

結局は歩いて地道に探すしかないかなと考えている。


「じゃあね、聖奈」

「・・・・・・・・・うん、ばいばい」


こんな聖奈を、置いて?

シャロを探せるかといえば、無理としか言えない。


「・・・・」


もしかしたら、この聖奈も壊れてしまうかもしれない。

死んだ筈の人間をいつまでも待ち続けてしまう程、壊れてしまうかもしれない。

記憶が戻らないストレスなんて、どれほどかわからないし。


「ねぇ、聖奈」

「・・・何?」

「今日は金曜日だし、お泊りしない?」

「へ?」

「日曜まで、暇じゃん?」


ふへへ、ゆとり世代でのメリットは週に5日しか学校がないことです。いぇい。

土曜日?え、それ休みです。


「待って、お母さんにメールしておくわ」

「うん」

「三日分の支度・・・ちょっと時間が」

「大丈夫、まってるから」


見つからないなら、見つからないままで。

今できる最善を尽くすだけ。


今は、聖奈にストレスを与えている原因を取り除けばいい。

一時しのぎではあるけれど。


家に向かって走っていく聖奈を見て思う。

(あぁ、小動物みたい。かわいい)

もしも、本当に記憶が戻らなくてもいい。と。

聖奈はいつだってどうなったって、やさしいから。


私が一番大好きな聖奈のままでいるんだから。



「こんにちは、お姉さん」



私の後ろに立つ金髪の少女。

誰なのか知った上でこう、答えなくてはいけない。



「貴女、誰?」



あぁ、失敗した。

口元が不自然に歪んじゃった。




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