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いろせかい  作者: 雲雀 蓮
高めの場所から見える風景の色
19/43

+若葉色

記憶を無くした聖奈の視点です。


なにもかも、わからない状態だった。

どうして私がここに居るのか。ここはどこなのか。


目が覚めて、起き上がってみれば。

頭がずきずきと痛み、視界は黒で侵食されていた。

それがはじまり。


この時はただ、貧血になっていたのだ。


そりゃ、急に起き上がれば立ちくらみするよね。

座ってたけど。いや、寝てたけど。


「よかったよかった」

「もうだめかと・・・」


泣きながら私の心配をしてくれる一組の夫婦がいた。

馴れ馴れしく私の体に触り、先程痛んだ頭を撫でる。


「あの、どちらさまですか?」


そう言えば、彼らは絶望したような顔をした。

お医者さん(白衣を着ていた)が教えてくれた。

彼らは、私の親だと。私は記憶障害だと。


コンコン。

「はい?」


「おじゃまします」


音もなく開く扉の向こうから女の子が入ってきた。

黒髪で小柄。私より幾分か年下の子に見えた。


この人は誰なんだろう。誰かに似ている気もする。

しかし、それは一体誰だった?

私は恐怖した。

先程両親にしたように、この少女すらも傷つけてしまうのかと。


必死に記憶を掘り起こそうとしても、頭の中は真っ白だ。

パニック状態の私にできたのは、無為な時間を稼ぐことだけだった。


「えっと、あなたは・・・」

「こんにちは、聖奈。私のことわかる?」


ダメだ、知っている風を装って時間を稼いでも無駄だ。

だってなにも思い浮かばない。

いろんな感情がまぜこせになっていて、言葉すらうまくでなかった。


なんでこんな辛い思いを、強いられているんだろう。

──だれか、助けて。


『ありがとう、那都琉』


こえが、きこえたきがした。

使っている声よりも低い声が。


「なーんてね。ごめんね、意地悪して。私は」

「な、つる?」


って誰だっけ?

今の声はいったい誰?誰がお礼を言っていたの?

どこか懐かしい声。これは・・・誰?


目の前にいる少女は驚いた顔の後、納得したような顔で笑った。


「それ、私の名前。少し前から聖奈と友達してます」

「そう、そうなの?」

「うん。よろしく」


なぜか、少女が嘘をついている気がしたけれど、真偽を確かめる術はない。

今はただ、彼女を信じることにした。

さっきの驚いた顔が、今はとても悲しそうに見えたから。



「ねぇ、那都琉。記憶のあった時の私ってどんな感じだったかしら?」



だから、つい聞いてしまった。

彼女ならきっと嘘はつかないんじゃないかって。


両親曰く、私は成績優秀のいい子だった。

両親曰く、私は誰からも好かれる優しい子だった。


全部うそだと思う。


私に触れた手がぎこちなかったから。

暖かいけれどねちっこい手がためらうように触るから。


私の本当の親なのかと、疑うくらい。

感動で抱きしめるくらいは、するものじゃないの?


「うーん。乙女っぽかったかなぁ、それと一人称はあたし、だった。

紅茶が好きで、お菓子作れて、意外とビビリ」

「・・・・・・・・そう」


なんだ、普通にいい友人じゃないか。

年下かと思ったけれど気後れしていない。同じ年か。

幼く見えるのは身長と笑顔のせいだな。


無防備に曝すその表情がどうしようもなく、素直でよろしい。


笑ってしまいそうで、下を向く。

あぁ、もう。このばかっぽさは計算なのか。

すっごい可愛い。記憶のある状態の私、よくいい友人を選びました。


その私の状態を勘違いしたのか、那都琉は笑顔で私を慰めた。


「無理に思い出さなくてもいいよ」

「え」

「焦ったっていいことないし、それに誰かのためを思うならまずは自分を大事にしなきゃダメだよ」


びし、と指を私に突きつける那都琉。

どこのお母さんだ。腰に手を当てるのはやめなさい。


そして、こんな私がいつも優しい人だからみたいな話はやめて。



「でも、私は、前と違うのよ?全然違う人になっちゃってるんじゃないの?」



度重なる猜疑心に負けた。

私はか弱い女子を演じよう。うん。これは本気でどうなんだろう。


眉間に皺が自然と寄った。

どうしてこうも簡単に嘘がつける人間なんだろう。

きちんと事実を知れば、那都琉だってきっと両親と同じ。私のこと嫌いになる。


やだな。


そんな自虐に走っていた私に那都琉が掛けてくれたのは、とんでもなく優しい言葉だった。




「私にとって君は、いつだって聖奈だからいいんだよ」




世界はこんなにも私に優しい。

それはなぜ?



「・・・・・・・ありがとう。なつる」



神様が、一生懸命作ってくれたから。

そう信じて、私は生きることにした。

せめて戻ってくるまでは神様に感謝して生きていこう。



「じゃ、もう帰るね。ちゃんと早寝早起きだからね?」

「はいはい。わかったわよ。大丈夫だって」



明日も、会えるといいな。

今度はお茶の用意でもして待っていようかな。






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