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いろせかい  作者: 雲雀 蓮
化学反応→生成物+?
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塩化ベンゼンジアゾニウム色

世界には、沢山の人がいる。

世界には、沢山の家庭がある。


それぞれ違うものであり、まったく同じものはない。


その原因が、個性と呼ばれるもの。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ながい、沈黙。

それはそうだ。先ほどの聖奈の言葉にはそれほどの威力があった。


『もし、元の世界に戻れたら』


未来の話なんて、考えたくなかった。

今あることをなしにして、次を考えることはおろかだと思う。

私たちはどんなにあがいても未来にはいけない。過去にもいけない。

ずっと現在を生きているのだ。って英語の先生が言っていた。


だから過去と大過去の英語文法をうんたんかんたん。

未来のIFの使い方だの、未来でも現在時制だうんたんかんたん。

あれ、なんの話だっけ?


勿論先のことを考えるのは当然だ。

でも、今やるべきことを放棄してまですることではない。

彼女は今の自分を蔑ろにした。それがとても不満なのだ。


「・・・・・(もしも、)」


私が、”那都琉”だったらどうしただろうか。

聖奈を怒るだろうか、笑わせるだろうか、泣き喚くだろうか。

どれもが嘘だろう。きっと、”那都琉”ならいつもの調子で笑うのだ。


なにもわかっていない道化のフリをして。


「あ、あの」

「・・・・・・・・なに」

「お・・・・怒ってるわよね?」

「・・・別に」

「沈黙が怒りを代弁しているわよ?」

「きのせい」

「そんな・・わけ」

「あるよ」


一方的に畳み込んだ会話。

怒っている、それは正しい。でも、それは”那都琉”じゃない。

なにも入っていない人間もどきわたしが怒っているのだ。

それに対して謝罪や気遣いは不要なのだ。


うん。厨二っぽい。やめよう。


「いいよ、ほんとに。気にしないで」

「で、っでも!」

「眠いだけ」


だから膝貸して。

聖奈からの返事を待たずに強制膝枕。

あー、きもちい。柔らかい。なにこれ幸せ。


「帰ったらさ、ちゃんと話すよ」

「え」

「今の伝言」

「・・・・・・ぅん」

「覚えてたら」

「うん。ありがとう」


継ぎ足し継ぎ足しの会話。ぶっつんぶっつん、言葉が切れる。

眠い、眠い。でも眠れない。

寝床が揺れているからではない、心が揺れているから。

不安で仕方がない。頚動脈をかきむしってしまいそうだ。


「ちょっと、だけ。ねさせて」

「・・・うん。わかったわ。着いたら起こすわね」


『那都琉、ごめんね。無理させて』

聖奈は優しい。

日中ずっと干しておいたお布団みたいに。


でも優騎のように厳しくはしない。

それがきっと聖奈の嫌いなところだ。

かと言って優騎が完璧で大好きじゃない。

優騎にも嫌いなとこはある。


個性に良いも悪いもない。


心理学だか、脳科学だかの先生が言っていた気がする。

個性は人それぞれであり、優劣なんてない。確かにそうだ。

私たちは自分にとって都合がいいか悪いかで、人を嫌う傾向にある。

好きな面があれば、嫌いな面もある。

家族でも友人でも、恋人でも。一生の伴侶であろうとも。


「わたし、好きだよ」

「なにが?」

「みなのこと」

「そう、ありがとう」

「でも、優しぎるだけだとだめなの」

「そうね」

「たまにはさ、わがままいってもいいんだよ?」

「我が儘?例えばどんな?」

「さぁ。多分、今思ったことを正直に言えばいいんだよ」


迫る眠気、まぶたの開閉回数の減少。

そして理性の休業。あー、今私何言っているんだろうか。


もうすぐ、両親に会うというのに緊張感が足りない。

父、母の順で会う予定だ。聖奈に聞いたところ、父は田舎で畑仕事。母は川で洗濯じゃなくて、都会で玉の輿なんだそうだ。


現状、両極端な二人はどうして出会ったのだろうか。

どうして結婚したのだろうか。聞かされたことはない。

二人が仲良しだった記憶もない。どちらもお互いを利用しようとしていた記憶しかない。


真実を知る意味などない。けれど、私は知りたい。

私だけではなく、こちらの聖奈も捨てた理由を。

私だけではなく、あっちの夏樹も捨てた理由を。


「次はーーーーー駅ーーーー駅ぃーーーお出口はーーー」


「いこうか、聖奈」

「うん」


手を繋いで、一緒に行こう。


口にはしなかったけれど、彼女は素直に手を出した。

やはり、温かくて柔らかい。これも聖奈の好きなところ。


「ねー、ドアあかないよ?」

「そこのボタンを押すのよ」


ドアの隣に開・閉ボタン発見。なんじゃそれ。


電車は手動(ボタンを押すだけ)のドア。もう一回言おう。なんだこれ。

東京では見かけない謎のシステム。他のどこにも自動ドアは付いていない様子。

急いでいる人の気持ち考えたことあるのかよ!このやろー。


「・・・・いなか」

「そうね」

「どいなか」

「あんまり大きな声で言っちゃダメよ。事実でも」


見ている人がいるからね。

と、聖奈は私を窘めた。おとなしく口を閉じたのはいい。

本当に田舎なのだ。あの父と同じ人なんだろうか。まったく一致しない。

見渡す限り、畑のパレード。


「ほんとに、ここであってるの?」

「うん、その筈だけれど?」

「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」


疑っても仕方ないので、聞き込み調査。


「あのーこの人知ってますか?」


幸い写真がある。それを頼りに探せば見つかる。

田舎の情報網なめるとだめだぞ!


「あぁ、この人ね」


たまたま通りがかった農家のおばあちゃんを発見&聞き込み。

どうやら、見覚えがあるようだ。やったね、たえちゃん。


「知ってるんですか?」

「随分前になくなったよ」

「え」


知らないのかい?


おばあちゃんに娘であることを告げると、家を教えてくれた。

そこに息子だかがいるから訪ねて来るといい、と。

親切なおばあちゃんにお礼を言ってその家に向かった。

私たちの足取りは、当然重くなった。


「・・・・病気一つしなかった人なのにね」

「そうね。でも原因は怪我かもしれないわ」

「事故、とか?」


毎日毎日決まった時間に決まった行動を取る定規人間。

それが私たちの父だった。無論、それは元の世界でも同じだ。

電車の中で一通りの話を聞いて、驚いたくらいだ。


もしかしたら、私の父も───?

そんな考えがよぎった。帰ったら訪ねてみることにしよう。


だいじょうぶ、

だいじょうぶ、

だいじょうぶ。


魔法の言葉、を唱える。


「大丈夫、だよ」


昔、誰かに教えてもらった呪文。

辛い時は、苦しい時は、不安な時は、唱えなさい。

そうすれば何とかなる言葉だよ。


と。

誰が教えてくれたのかは覚えていないけれど。


「会おう」


息子さんが待っている家、暖かいといいななんて。

儚いような図々しいようなお願いをしてから、また歩き出した。


そうして、辿り着いた家にはなぜか。

夏樹が待っていたのだった。



「遅かったな」



お前がラスボスだったのか。

そう訊いた私は心底バカだな、と思う。





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