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いろせかい  作者: 雲雀 蓮
化学反応→生成物+?
13/43

水酸化鉄(Ⅲ)色

愛が足りない、と誰かがいった。


愛があれば救われる人がいる。

貴方は誰かを愛したことがありますか。


”愛”というものは、世界を変えるのだ。

胸を張って誇張した言葉を吐いたのは、誰だった?



「・・・・うん。まだ大丈夫」


実家、というのは多少語弊がある。

両親は既に別々の家庭を持っているそうだ。ここまでは共通。

それが電車を使わなければならない遠くにある。

田舎のワンマン電車、とか。


「長い道のりだこと」


ぼそ、と文句。

聖奈は仮眠をとっているので、聞いていない。

交代で寝ることにしたのだ。だから、まぁ仕方がない。


がたたん、がたたん。


揺れが都心のそれよりも大きく、床がうねるようだ。

座れていなかったらどうなっていたのやら。


ゆらゆら揺れているのは自分なのか。

不安な気持ちが先行しているのか。わからない。


眠気とストレスで精神が安定していない。

そろそろ聖奈と交代してもらうのがよさそうだ。

眉間に皺がよりかけている聖奈を見て思う。

「お姉ちゃん」っていいな、と。


暖かいし、いい匂いするし、柔らかい。

お兄ちゃんにはないものばかりだ。羨ましい。

ゆさゆさ揺らす。中々強情だ。


「聖奈」

「ん~~」


起きない、だと・・・・。

なんて冗談は置いておいて。


「起きて、もう着くよ」

「えっ」


特技・嘘をつくこと。

履歴書とか調査書に書いてもらえないかな。

そうしたら全学校・会社不採用なのに。


「・・・・まだじゃない」

「おはよう、聖奈。そしてお休み」


睡魔が私を誘う。もう限界です、つらたん。

眠りかけた私を起こしたのは聖奈。


「もう少しだから起きてて」

「えぅ」


この強気な言葉尻から察するに、回避できないことが推測される。

ねむい、ねむいよぉ。パ●トラッシュ。僕はもう眠いんだよ。


「むー、いいよ。起きてるよ」

「ありがとう」


まぁ聖奈のことだから、寂しいだけだって分かってはいる。

だがしかし。苦行にも程があるとも思う。

暇なのは私も同じだったんだけど。という皮肉は隠しておく。


「そいえば、聖奈って夏樹と結婚するの?」

「ふぇ!?」

「え、付き合ってるとかじゃないの?」

「~~~!?」

「ごめんごめん、言いすぎました。だから日本語でおk」


どうしても純情な女の子だ。

恋話が苦手なのか、奥手過ぎるのか。どちらでも可愛いから許す。

ぽかぽか、と効果音のつきそうな拳骨を握ってやろう。


「・・・その、確かに付き合っては、いるわ」

「ふんふん」

「でも。・・その・・・けっ結婚?・・・・はまだ早いと・・・おもぅ」

「へー、なるほど」


この世界の夏樹はヘタレ決定。

くっそ、早く結婚して爆発してろ。このリア充共!

笑顔の裏にはいつも皮肉が詰まっているのです。

なんとなく複雑というか、なんというか。


兄の結婚。

それに対しての感想が段々雑になってきたと自分でも思う。

相手が相手だけに、離れていく感覚がないのが問題だろう。

もっと顔も知らない誰かであれば、少し位寂しいと思うのかもしれない。


「はやく求婚されるといいね」

「え゛」

「子供はサッカーチーム作れるくらいがいいな」

「・・・////」

「あと家は一軒家で庭があって、ゴールデンレトリバーがいて」

「なんで未来予想図を考えているのかしら?」

「で、エプロンをつけた聖奈が『いってらっしゃい』って言いながら頬にキスを」

「うううう、那都琉のいじわる」


結婚というものは、なんなのだろう。

傍にいることを約束すること?

いつでも愛し続けることを誓うの?


それって、変だよ。


「聖奈、結婚は冗談としてもさ。夏樹のことはよろしくね」

「え」

「んーと、私が元々いた世界では夏樹はお兄ちゃんだったの」

「・・・え」

「それで心配というか、なんというか」


夏樹の話になると真っ赤に染まる顔は、固まっていた。

二人が結婚すれば、こちらの世界でもお義兄さんだったよね。

と笑い話にしようとしたが、それもできないほどだった。


「あたしは・・・?」


『那都琉のなに?』

そう聞こえた。気にかかっていたのは私にとっての立ち位置か。

今とは違う関係であることが気になるといったところか。

これくらいはいいだろう。だって、真実をそのまま言えばいいのだから。


「聖奈はね、友達だよ。最近仲良くなったの」

「・・・・・ともだち」

「うん。同じ年で同じクラスで」

「そう、よかった」


何に対しての「よかった」なのか。

”聖奈を知らない私”ではないこと、かな。


「じゃぁ、お願いがあるの」

「なに?」

「那都琉の所のあたしに伝言」


がたたん、がたたん。


電車は揺れる。

私の世界をぐらぐら揺らして、進んでいく。


そこに愛はあるのか、と問われれば。

きっとないのだろう。



こんなにも世界には愛が足りない。



そう呟いたのは、誰だったのだろうか。

私じゃないことだけが確かなことなのに。



あぁ、誰か。

”愛”とやらで私の見ているこの世界を変えてみてよ。


そうすれば、私が泣くことは金輪際ないのだから。




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