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年下彼氏  作者: ショコラ*
番外編Short Story
6/8

ヘルシー・ガール


*Thema:ホテル(バイキング)

Side:リョウ



「リョウー、ちゃんと野菜も食べなきゃだよ」

「うるせぇ」


 朝食はホテルバイキングにしようという話になって、俺たちはトレイを持って並んでいた。

 日本と違って彩鮮やかなメニューに視線を落としていると、すかさず横からカナに口を出される。

 というのも俺のプレートに乗っているのは、肉や魚ばっかりだったから。

 実は結構、好き嫌いがあったりする。

 ……まぁ、無理すりゃ食える程度だけど。

 チラリとカナの皿に視線を向ければ、バランス良く主食・主菜・副菜と綺麗に盛り付けられていた。

 ちなみに今朝は、魚にするらしい。


「よっし、これでいいかな」

「それで足りんの?」

「もう同じ過ちは繰り返したくないからねー」


 俺の問い掛けに、くすくすと笑うカナ。

 昨日一日で、ハワイで出てくる一食分は、自分には多過ぎると認識したらしい。

 周りの各国の観光客と比較すると、かなり少なめに見えるけれど……確かによくよく考えてみると、カナの胃袋サイズからすれば妥当な量だ。


「はい、どうぞ」

「いらねぇし……」

「だぁめ!」


 顔をしかめる俺を無視して、カナはサラダトングで勝手にオニオンサラダを掴み、俺の皿へと乗せてくる。

 生の玉ねぎの匂いが嫌いな俺はテンションが下がるが、カナはこう見えて頑固なところがあるし、とりあえずは黙って従っておく。

 その後隣のグリーンサラダの割合を8割にしてくれたから、まぁ良しとした。

 数分後一度席に着くと、カナはスープを取りに、その間俺は二人分の飲み物を取りに再び立ち上がる。

 そしてようやくテーブルの上が充実したところで落ち着き、料理に手をつけ始めた。


「……」


 カナの食事を見ていると、普段は甘いものとか可愛いものとかに目が無いくせに、実際は結構地に足が着いてるっつーか……しっかりしてる奴だよなと思わざるを得ない。

 俺の周りは、「女の子っぽいものを食べている」とか「女の子っぽい量しか食べられない」とか、そういう自己表現の一環として食事をする女がやたらと多かった。

 その度に俺は誰も見てねぇよ、と思ったけれど、実際男友達はまんまとその手に引っ掛かっていたし――いや、引っ掛かったフリをしていたのか。

 男っつーのは、気になる女が「可愛いって言って」とアピールしてきていたら、それに応えてやろうと思ってしまう単純な部分がある。

 俺から見れば、自分で言わせるように仕向けておいて、「ありがとう」と照れるフリをする女も大概くらだらないと思うが。


「うーん、オイシイ。ここのパンって、中がしっとりしてるよねぇ」

「そうか?」

「うん、回りはサクサクだし! 一口あげる」


 にっこりと笑ったカナにデニッシュを差し出され、俺はそれを受け取った。

 カナの言う通り、言われてみれば……確かに結構美味いかも。

 あんまり食に関心は無かった方だけど、カナに出逢ってから多少は興味が出てきたようにも思う。


『人間は食べなきゃ生きていけないんだよ? なら、食にも楽しみを見出さなきゃね』


 最初にその言葉を聞いた時は、「幸せな奴だな」くらいにしか思わなかったけど。

 カナを見ていると、本当にそうなんじゃないかと思えてくる。

 確かにカナはきちんとした食生活をしていて、いつも幸せそうだったから。

 可愛さとかじゃなくて……本当に食べた方が良いものを食べている感じがするっつーか。

 いつも必ず主食と野菜とスープ系は並べてる気がするし、俺が最近全然食ってねぇなぁ……ってものを、忘れた頃に勧めてくるし。

 偏食人間ばっかりの時代に、よくもまぁこんなに意識を高く持てるなぁと関心することも多かった。


「美味しいねぇ、リョウ」

「そりゃ良かった」

「毎日こんなにフルーツを食べれるなんて、すっごく贅沢!」


 別でサラダの如く用意された皿には、イチゴやパイナップル、オレンジ……と大ぶりカットフルーツが並んでいる。

 それを見ながら、カナは微笑んだ。


「きっとこっちの人がみんな陽気でのどかなのは、いつも身体に優しいものを沢山食べてるからだね」

「食べ物の問題かよ」

「大事だよー。例えば毎日コース料理を食べてたら、疲れるでしょ? それが高級フレンチだったとしても」

「……」

「こういう何気ない、フレッシュな食材が私は好きだなぁ」


 それは完全に主観的な意見で、カナの独自理論で。

 言葉だけ聞けばそれっぽく聞こえても、もしかしたら全然正しくないのかもしれない。

 ……だけど。


「ふーん……」


 カナにそう言われると、そうだなとすんなり納得してしまう自分がいる。

 何の根拠も無いし、反論しようと思えばいくらでも出来そうなんだけど。

 目の前で健やかに微笑んでいるカナの顔を見ると、俺にとってはそれだけが真実に見えてくるんだよな。

 カナを形作っているものが、心身に悪いものだなんて到底思えないというか。


(……重症だな)


 いつの間にか、世界の中心がカナになっている事に気付き、思わず自分自身にため息を吐く。

 でも……夜が更ければ「眠い」と言い出すところとか。

 体温調節が出来る様に、いつでもストールを持ち歩いているところとか。

 美味しいものを、美味しいと喜ぶところとか。

 いつ見ても、触りたくなるような綺麗な肌をしているところとか。

 そういう何気ない、当たり前の健やかさを持っているカナがスゲー好きだったりする。

 ホント当り前なんだけど……よくよく見てみると意外といないんだよな、そういう女って。


「それ美味い?」

「これ? 美味しいよ」

「ちょうだい」


 きょとんと目を丸くした後、にこりと笑ってフォークを俺の方に向けてくるカナ。

 無邪気なコイツに絆されて、いつの間にか食べさせたり食べさせられたり……なんていう、昔なら悪寒が走っていたような行動にも抵抗が無くなった。

 カナに分けてもらった味は、どこか優しい。

 優しくて……何だか、元気が出そうな気さえしてくる。

 まるで、もうすぐコイツに会えるって思う週末の夕方みたいな。

 そんな味。


(……って、どんな味だよ)


 俺は内心苦笑しながら、オレンジ色のジュースを飲み干した。

 無意識のうちに、いつだったか「ビタミンがとれるね!」と笑っていたカナを思い出し、咄嗟に選んでしまった100パーセント果汁のジュース。


 本当に、マジでベタ惚れだよな……。

 そう再確認しつつも、嫌な気はしないリゾート2日目の朝だった。



fin.

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