表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
年下彼氏  作者: ショコラ*
番外編Short Story
5/8

いつでもどこでも

番外編SSはすべて、本サイトの10万打企画の際に書いた、ハワイが舞台の話となっております。

少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。


*Thema:ホノルル空港



「わーっ! あったかいねぇ、リョウ」

「そりゃハワイだからな」

「見て見て、ヤシがいっぱい!」

「当り前だろ」

「……もう、リョウってば冷たいっ」


 ばしっと腕の辺りを叩けば、リョウはフッと口元を緩ませた。

 まったく、私をバカにする悪い癖は、日本を出ても健在らしい。


「ていうかほのぼのとしてるねぇ、ホノルル空港。成田と比べると、同じ空港とは思えないっていうか……」

「田舎っぽいよな」

「リョウ、言い方!」


 むすっと膨れれば、とうとう笑い出すリョウ。

 私はすっと目を細めたものの、どことなく上機嫌なリョウに絆されて気を取り直した。


「早く街中行きたいー買い物したいよー」

「お前またガラクタ買いまくるんだろ」

「ガラクタ?!」

「毎晩、買った物リスト化しろよ。お前絶対後で泣くことになるから」

「……」


 確かに私はお買い物大好きだし、雑貨とか単価の安いものをみると、ついつい買い過ぎちゃう癖はある。

 気付かずに似たようなものを重複して買ってしまった……なんて経験をしたのも、一度や二度ではない。

 若干言い返せずに黙り込むと、リョウはまたクスリと笑った。

 うー、やっぱり年下とは思えない。


「今日は何時までフリーなんだっけ」

「ディナーが19時だから……18時にホテル出れば良し」

「そうだ、今日かなり時間余裕あるんだよね!」


 ほとんどリョウが組み立ててくれた予定を頭の中でおさらいしながら、私はこれからの事に思いを馳せた。

 今日はホテルに荷物を置いたら、すぐにトロリーでアラモアナショッピングセンターへと向かう予定だ。

 これから出逢うであろう服とか靴とか雑貨とかを思い浮かべて、私は思わずスキップしたい衝動に駆られる。


「あぁもう、すっごい楽しみ――」

「おいカナ!」

「わっ」


 ぼやぼや歩いてたら、危うく転びそうになった。

 咄嗟に手を伸ばしてかばってくれたリョウに、もの凄い呆れ顔をされる。


「……俺マジで、お前を無事に日本に連れて帰れるか心配なんだけど」

「大丈夫だよー、リョウ色々器用だー」

「その俺任せ思考何とかしろ」


 とか何とか言いつつも、リョウがまんざらでも無いことは知っている。

 リョウはいつも自分が年下だということを気にしているせいか、やたらと私をエスコートしたがるのだ。

 まぁ私も年上だからといってリード出来るタイプではないから、丁度良いのだけれど。


 その後私たちは建物を出た所で、登録している旅行会社の人に名前をチェックしてもらい、自分たちのスーツケースが届いてあるであろう場所へと足を向けた。

 初めて使った約一週間分の荷物が詰まった大きなスーツケースは、リョウのアドバイスでレンタルしたものだ。

 何でも海外旅行の場合は、素人っぽさ丸出しの新品で可愛いスーツケースだと狙われやすいらしく、ある程度傷のあるシンプルなものが良いらしい。

 レンタルも会社を選べば全然清潔で綺麗だし……考え無しに、無駄に新しいスーツケースを買わなくて良かったと心底思う。

 だってこの先一週間以上の海外旅行なんて、そう頻繁には行かないだろうし。


「あった!」


 ロビーでターンテーブルに並ぶ沢山のスーツケースの中から、私は色違いの黒とパープルのスーツケースを見付け出した。

 それに走り寄ってリョウを振り返れば、リョウはゆっくりと歩み寄ってくる。


「ホテルまであとちょっとだから、スーツケースに轢かれんなよ?」

「轢かれないよ!」


 相変わらずからかい口調のまま、回収したスーツケースの取っ手をカチカチと伸ばしたリョウは、その上に私が飛行機内で使っていた膝掛け毛布やペットボトルが入っている大きなバッグを乗せて歩き出した。

 私は自分のスーツケースと、お財布やカメラが入っているハンドバッグだけを持ってその後を追う。

 ……こうやって重い方の荷物とか、さりげなく持ってくれる所はやっぱり優しいなって思った。

 友達は男なら当り前! って言ってたけど……人と付き合う上で「当り前」なんて事は無いと思うし。

 たとえばそれが大して意図されていない行動であっても、やっぱり思い遣ってもらえれば嬉しい。


「バスがくるまで、ここで待機」

「バスでホテルまで移動なの?」

「そう」


 リョウの言葉に頷き、私もベンチに座る彼の隣に腰を下ろした。

 上を仰げば、空までの間にヤシとビルの影が並んでいる。

 そこら中に生えている植物はみんな見慣れない南国っぽい形のもので、あぁハワイなんだな……って今更ながら実感したりして。

 それにしても、まったりしている。

 まだ空港の敷地内にいるとは到底思えない。

 空港イコール、近代的で無機質な感じというイメージを抱いていた私にとっては、軽くカルチャーショックだった。


「私冷え症だから、ホントこの気温嬉しい」

「湿気が無ぇし、かなり過ごしやすいな」

「うん、それは大きいよね」


 リョウの言葉に頷きながら、私は長袖のカーディガンを脱いだ。

 外に出たら、ほとんどの人が初夏みたいな姿で歩いている。

 ワンピース一枚でも、問題無さそう。

 薄着になって解放的な気分になっていると、隣のリョウがチラリとこちらに目を向けた。


「……お前、今回水着とか着んの?」

「え?」


 突然問われた内容に、思わずまばたきをする私。


「いや……もう何年も泳いでないから水着無くって。もし泳ぐってなったら、こっちで買おうかなぁと思ってたんだけど」


 ちょうど今、円高だし。

 水着って結構値が張るから、バカにならないんだよね……とかどうでも良いことを考えていると、リョウは「ふーん」と何とも言えない返事をした。


「なに?」

「別に泳がなくていいんじゃね?」

「え?」

「こっちだと、ビキニばっかだろうし」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……リョウ、もしかして私が水着着るの嫌な――」

「お前胸あんま無いから、合うの探すの大変かもしれないしな」

「はぁ?! 酷いっ」


 一応そう言って睨みつけたものの、私はそれ以上問い詰めたりしなかった。

 何故ならリョウは視線を逸らして、気まずそうに顔をしかめていたから。

 いつも意地悪ばっかり言っているけれど、リョウが実はヤキモチ妬きで心配性だってことは、今までの経験からよくわかっている。

 思わずクスリと笑えば、思いっきり睨まれた。


「……カナのくせに生意気」

「はいはい」


 時々生じる、立場の逆転現象。

 リョウはすごい不本意って顔をしているけれど、 私にとっては、リョウからの愛情をストレートに実感出来る数少ないチャンスだ。


「ほら、バス来た」

「うん!」


 照れ隠しの様に早々に歩き出したリョウの隣に走り寄り、私はスーツケースを引いて無い方の手をリョウの腕に絡ませる。


「……」


 私から腕を組んだり手を握ったりする時は、絶対に振り払わないでくれるリョウ。

 普段は口が悪くて、意地っ張りなリョウだけれど……

 本当はこんなにも、私には甘い。


「リョウ、いっぱい思い出作ろうね」


 満面の笑みでそう告げれば、リョウの横顔は一瞬ふっと和らいだ。

 いつでもどこでも素直じゃないし、カッコ付けたがりの君だけれど。

 そんな所も含めて、これから過ごす日々が楽しみでたまらない。

 リョウと共有する時間は、どこにいたって私にとってキラキラした時間なのだ。

 私はぎゅっと腕を掴む手に力をこめて、連なるヤシ並木を仰いだ。



fin.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ