第三話 愛してる
ロゼを気づかれないように尾行するのは簡単だった。
一度ロゼの家へ行き、しばらくしてから出て来て、ケーキ屋に向かう、そして、ロゼがたどり着いたのは・・・
「っ・・・!」
あの、花園だった。
キルクは入り口の柱に寄っかかっていた。ロゼを見ると微笑み、花園の中へと彼女を導いていった。2人に見つからないよう、登った木の上から見た彼らは幸せそうだった。ロゼの姿にふと、あの頃の私が重なった。そして、あの瞬間の私にロゼの姿が重なった。
強く目をつぶり、想像してしまったそれを頭から追い出そうとしたけど、無理だった。
・・・私は、その未来を見ないためにここにいる。ロゼは必ず、守り抜く。
そっと、袖に忍ばせた刃に指を滑らせた。
ロゼとキルクは夕方まで一緒にいた。ロゼが先に帰るのか、立ち上がって花園をでる。
それを、他人事のように眺めていた。これから私は、当事者になるのだろう、と、それすらもまた、他人事のように思えた。1人になったキルクにそっと近づいていく。天使や悪魔の気配は羽からだされるから、羽のない私にキルクが気づくことはない。ロゼが帰った後も花園に座り、景色を眺めていたキルクの後ろにそっと立った。
「……キルク。」
「……っ!?」
私の声にバッと振り返ったキルク。私はその胸に刃を突き立てた。流れでる真っ赤な血。倒れていくキルクの顔は悲しげだった。キルクの姿が揺らめき始める。悪魔であるキルクは天の上では、死したその体は保つことは出来ないのだろう。視界がぼやけたのを感じた。
不意に湧き上がってきた激情に突き動かされ、キルクの体を抱きしめた。溢れた涙もそのままに、強く、強く、抱きしめた。……やはり私は、キルクを憎むことは出来なかった。ここまで来て、取り返しのつかないところまで来て、それでも、キルクが愛しい。ふと、背中に温度を感じた。キルクの手だった。消える寸前だったキルクは私に一つだけ、囁いた。そうして、消え去った彼に、私は泣き続けた。あぁ、キルク、あのね、あのね、
「私も、愛してるよ……。」




