第6章 旅の支度
第6章 旅の支度
第1話 螺旋(1)
レンコは、放浪の欠片だ。
かれは、銀河系に詳しい。
今でも、時々旅をするらしい。
彼が言う。
「君達は、ようやく周波数と速度がEXPレベル1になったところだ。
パワーは、ゼロに等しい。
EXPレベルが、1上がれば約13倍の力を得たと等しくなる。
アインは、もう気が付いているだろう。
これからは、線形も百分率も通用しない。
最低でも指数的思考が必要だ」
螺旋の一端が解った。
螺旋は、1本では、意味を成さない。
二本以上の螺旋の、部分的に最大距離を持つ箇所に、BMUが介在する。
それが軸として、波を支える。
波は、安定する。
そして、強くなる。
二重螺旋波の研究が進められた。
最初にこれに成功したのは、イワンだった。
彼の持つパワーが、跳ね上がる。
そして、彼のパワーは、EXPレベル1に達した。
彼は、研究のために、模範を示した。
だが、アインにも解決できない。
二重螺旋波の研究チームが組まれた。
リーダーは、丹波とした。
彼は、レア・レベルだ。
それも、3つの分野のレア・レベルだ。
「遺伝子学」
「波動論」
「宇宙論」
第2話 人類
人類の人口は、350億人を超していた。
彼らは、平穏な暮らしを得た。
95%を超す人類が、細胞リサイクル遺伝子を発現させていた。
事故が起きない限り、彼らは不老不死だ。
出生率は、激減していた。
彼らの生きる目的は、望みと願いを得る事だった。
そうなのだ。
それが、細胞リサイクル遺伝子を発現させていたのだ。
彼らは、能力でレベル分けされていた。
レベルの高いものは、敬われた。
かつて、能力と人格は別だった。
今の人類は、能力と人格を同化させようとしていた。
何かが出来る事だけが、能力ではない。
何かしてあげたいと思う事も能力だ。
望みと願いは、自分だけのものではない。
「全は一、一は全」に向かっていた。
レベルは、1~5まであった。
それは、全遺伝子に対する発現率で区分された。
発現率60%を超すものは、3万人くらいいた。
これをレベルHと言った。
発現率70%を超すものは、未だいなかった。
13の輝きは、98%を発現させていた。
残りの2%は、突然変異領域帯だ。
彼らは、精と呪文も持っていた。
第3話 レア・レベル
レア・レベルと称されるもの達がいた。
彼らの全遺伝子に対する発現率は、それほど高くない。
しかし、特定の分野にだけ特別な能力を発揮する。
今、確認されているレア・レベルは2千人ほどだ。
その50%ぐらいが芸術分野だ。
そして、40%ぐらいが奉仕分野だ。
残りの10%は、多岐に渡っていた。
そして、その10%の中には、複数の分野のレアを得た者もいた。
丹波もその1人だ。
120人くらいが、学問分野だった。
その中の50人くらいが、科学者だった。
70人は、臨床医師、心理・精神学、文学、歴史学など多岐に渡った。
40人くらいが、エンターテイメント系だった。
40人くらいが、メカ操作に熟達していた。
反射神経が異常に高い者。
細かい作業をナノ・オーダーでこなす者。
瞬発力が異常に高い者。
持久力の高い者。
中には、3時間無呼吸で生存できる者もいた。
第4話 アプリ(1)
イズミは、退役した。
ケントがいないイズミは、旧型となっていた。
新しい宇宙船は、『アプリ』と命名された。
だが、詳細設計が決まらない。
アインは、忘れていた。
ミサが持ってきたセントニウムの事を忘れていた。
「セントニウムは、未だ安全性が確認されていない」
アインは、セントニウムを命鎮に保管する事にした。
命鎮に持ち込もうとした時だった。
命鎮が融解を始めた。
そして、固まり始めている。
命鎮の一部が変形した。
「何が起こったのだ」
命鎮は、クオダイバリオンで構築されている。
「クオダイバリオンに影響を与えたのは、これか」
アインは、セントニウムを命鎮から遠ざけた。
「調べて見なければ」
セントニウムの研究チームが組まれた。
リーダーは、鉱物学のレア・レベルであるサッキだ。
彼は、第7のクォ‐クについても研究していた。
第7のクォ‐クは、電荷を持たない。
1個のクォ‐クでも、バリオン系粒子となる。
「又、やっかいなものを持って来たな」
第5話 ZF
アプリに搭載される搭載機の候補があった。
ZFシリーズと呼ばれていた。
ZF0から開発されていた。
ZF6とZF7は、ショートの空間移動ができた。
それは、連続して行う事ができた。
旋回性能は、意味を持たなくなった。
しかし、ZF6にもZF7にも問題がある。
ボディは、クオダイバリオンだ。
理想的な重量をオーバーする。
ZF7は、人類の操作では能力を発揮できない。
人類の反射神経では、操作が追いつかない。
全てが、人工頭脳搭載型だ。
だが、未だ判断能力は人類には及ばない。
ZF6は、ZF7より性能は落ちる。
アプリもそうだが、ZFも改良が必要だ。
銀河に向けての開発は続けられた。
第6話 新物質
サッキが、解明した。
だが、それは性質だけだった。
何がそれを、そうさせているのかは、解らなかった。
それは、アインに委ねられた。
サッキのチームは、別な物を研究し始めた。
それは、重金属だった。
クォーク3個からなる元素の研究だ。
放射性物質が多い。
性質が明確でないものも多い。
サッキの解明したものは、2種類あった。
1つは、第7のクォ‐ク1個で構成されるバリオン系粒子だった。
この粒子は、必ず12個のグル‐オンⅠを得た。
この粒子の結合は、12個のグル‐オンⅠが行った。
CMD4の比ではない。
エラドルの直撃にも耐えた。
単位質量は、1/3だった。
水素より、1/24軽量だった。
電荷も持たない。
この物質は完全安定型だった。
問題は加工だった。
加工のためには、グル‐オンⅠを解かなければならない。
高出力のエネルギーを1点に照射しなければならない。
ケンザイムと名付けた。
アプリと搭載機ZFのボディに使われる事になった。
1つは、セントニウムだった。
セントニウムは、CMD4を簡単に融解させた。
そして、直ぐに凝固させた。
クォーク3個からなる元素も固体は、全て同じだった。
だが、ケンザイムはそうならなかった。
第7話 ペンタダイバリオン
クオダイバリオンの精神特性は、レンコの呪だった。
13個のクォ‐クは、禁忌ではなくなった。
ペンタダイバリオンは、強力な斥力子を発生させた。
そして、強力な重力子も発生させた。
結果として、強い空間場を発生させた。
これらの調節は、理論的には揃っている。
アジャスターの開発は、終わっている。
亜空間の移動量は、その内部に持つ質量で決まる。
ケンザイムだけなら、移動量は飛躍的に期待できるだろう。
だが、ペンタダイバリオンを用いないと、空間場を発生できない。
ペンタダイバリオンは、ケンザイムの百万倍重い。
使用量の調整は、困難を極めた。
アインも悩んだ。
そして、アインは結論を出した。
「ペンタダイバリオンは、アプリの空間巡航に必要なだけ使う。
空間バッテリーは、ケンザイムで作る。
アプリに積む転送機もケンザイムで作る。
ペンタダイバリオンが必要な時は、転送で得る。
搭載機は、最小のペンタダイバリオンだけ使う」
これは、防御をケンザイムだけで行う事と同じだ。
フィールドによる防御は、期待できない。
「補給が生命線になる。
ステーションの強化が求められる」
アインの方針があった。
鎮也もレオも同意した。
「逃走が第1優先だ。
防御の可否が分からないものに、力を費やす事はない」
サムとアリスで偵察を行う事にした。
そして、未久の予知能力に頼る。
補助防御は、幸と新和の結界だ。
そして、転送されてくるペンタダイバリオンを防御に使う。
だが、やはり逃走が第1優先だ。
未だ、EXPレベル1なのだ。
「指数的思考とは、極端に近いのかもしれない」
第8話 第7世代人工知能
第7世代人工知能の開発に成功していた。
オートマトンは、化石化していた。
現在、人工知能に用いられているのは、コンプレックス・タームだ。
コンプレックス・タームは、波を記述できる。
感覚波、分割波を出力、捕捉できる。
デジタル感覚も記述できる。
動物と植物の感覚を再現できる。
そして、中枢には複雑の木が埋め込まれた。
コンターと名付けられた。
かつて、等高線をコンターと言った。
原理は同じだ。
等感覚線を計測できる。
これが、乱れるという事は、異物があるという事だ。
異物を感じると逃走に重きがおかれる。
この重量は調節できた。
闘う時には、不要な重量だ。
小型化されている。
半径30㎝だ。
中枢の複雑の木からの命令は、末端の機器までほぼ光速と同じ速さで届く。
だが、ケントはいない。
全てを任せるわけにはいかない。
エマージェンシーが、1つ組込まれていた。
「13人全ての応答が無い時は、ムーに戻る」事だった。
第9話 螺旋(2)
丹波のチームが成果をあげた。
BMUを軸化できた。
二重螺旋が、威力を発揮させる。
セントニウムは、簡単に波化できた。
この性質が、固体を融解し、凝固させる。
この波を二重螺旋にして発射した。
全ての固体が消滅した。
融解させる。
そして、凝固する前に消滅するのだ。
セント砲ができた。
だが、ケンザイムは僅かに融解し、凝固するだけだった。
この砲の威力は、実験できない。
太陽系にあるものは、全て消滅させられる。
もしかしたら、太陽まで消滅させるかもしれない。
セントニウムも軽量だ。
だが、ケンザイムの千倍は重い。
セントニウムも転送で得る事にした。
タキオンも、二重螺旋化された。
高速通信に使用できる。
現在の技術では、測定できない速度で通信できる。
光速の数十乗倍、速いと推測された。
丹波は、遺伝子の解明にも1歩近付いたと思っていた。
第10話 アプリ(2)
アプリの仕様が固まった。
直径がイズミの5倍ある。
だが、重量は10tない。
イズミの1/100だ。
多重面体の構造になっている。
空間巡航速度は、毎時10光年ある。
積み込んである空間バッテリーを全て使えば5万光年を1分で移動できる。
通常宙航は、光速まで出せた。
だが、光速を出せばパラドックス現象に捕まる。
但し、これらは理論値だけだ。
装甲を含めてほとんどが、ケンザイムで作られている。
一番大きな機器は、転送機だ。
これが、1tある。
搭載機は、ZF11が1機ある。
これは、ロバート専用だ。
ZF10が12機ある。
12人のレア・レベル操縦者が志願した。
操縦者の特殊能力者達だ。
ZF9が48機ある。
これらには、全てコンターが搭載されている。
ZF各機には、エラドル砲が用意されている。
他に、21人のレア・レベル志願者が搭乗していた。
彼らは、基本的にアプリのメンテナンスを行う。
セント砲は、9門ある。
未だ、それは使えない。
13人は、「正統の輝くもの」。
「レジティメイト・ブリリアンス」LB13と呼ばれた。
LB13の支度は、整った。