第4章 植物
第4章 植物
第1話 動く植物
植物の実験チームがいた。
彼らは、植物の本能と感覚を、調べる事を目的としていた。
実験内容は、単純だ。
だが、実験の量が多い。
レンドルという植物学者がいた。
彼は、このチームに参加していた。
彼は、レア・レベルを持っている。
植物学に関しては、ムーで最高の頭脳だ。
アインもおそらく、彼には及ばないだろう。
彼は、動物と植物を完全に分類できないと思っていた。
理由は、簡単だった。
「基本は、ATPとNADPマイナス・イオン」だけなのだ。
動物も植物もここから始まる。
動かないから、植物だという者がいる。
植物も動くのだ。
光を求めて動くではないか。
歩けないだけだ。
足と手を持っていないだけだ。
実験は、始まっていた。
実験項目は、数十万個あった。
この個数も過程しだいで、変更されるだろう。
実験は遺伝子の組み換えだけだ。
追加、削除は許されない。
誰もそれによる危険を予測できないのだ。
768項目めの実験をした時だった。
足を持つ植物が現れた。
「何が起きたのだ」
植物のコドン・セットは、未だ全てが解明されていない。
予測されるのは、眠っていた遺伝子の発現だ。
植物のコドン・セットが全て解明されていない理由がある。
それは、光合成の明反応だ。
光をエネルギーに換える受容体が解らない。
結果として、解らないものが、解らないものを更に生む。
第2話 進化
足を持つ植物が、現れた事に焦点が絞られた。
レンドルは、考えた。
「やはり、植物も動物と同じ祖先を持つのだ。
植物が動物に劣る理由も必要性もない。
彼らには、足も手も不要だったのだ。
代換えとして、光を得たのだ。
いや、逆だ。
光を得たから、足も手も不要になったのだ。
足を持つ植物には、意味がない」
動物は、闇を恐れる。
夜行性の動物は、必要だから夜行性になった。
彼らは、光を増幅させる。
闇を闇にしない。
増幅は、比較的単純な機構で、できる。
しかし、エネルギーへの変換は、困難だ。
光を自分に必要な量のエネルギーへと変換させるのは、困難だ。
ムーの技術でも変換機構は、ある程度の大きさが必要だ。
植物は、クロロフィルを筆頭に小さな機構で、それを行う。
クロロフィルの構造は、そんなに難しくない。
何が、それを有効な変換機にしているのか、解らない。
進化の過程で、植物は何を得たのだ。
第3話 センサー
植物は、多才なセンサーを持っている。
温度、湿度、日照など全てを測って生きているようだ。
動物は、感覚で生きる。
植物は、計測で生きる。
何が、その分岐をさせたのだ。
動物も植物も細胞1個1個を比べてみれば、大きな違いはない。
動物と植物を分ける決定的なものはない。
レンドルは、考えた。
「光だ。
光しかない。
光とは何なのだ」
アインに相談する事にした。
その頃、アインは心配していた。
「組み換えの実験チームに異常はないだろうか。
ミサは、奇跡を起こした。
彼らの組み換え実験が、奇跡を起こさないとは限らない。
危険だから、異世界で行わせたのだが。
心配だ」
アインに伝言が入った。
レンドルが、「知りたい事がある」と、言っているそうだ。
渡りに船だ。
アインは、植物実験をしている異世界へと赴いた。
異常はない。
アインは「ほっ」とした。
「杞憂だったか」
第4話 光子
レンドルの質問は、光子についてだった。
「光子の正体は、何なのですか。
光合成を解明したいのです」
「光は、粒子ではない。
粒子としての性質を持つだけなのだ。
本体は波なのだ。
それも、複合化された波だ。
しかし、単独の波でも光は光だ。
そこがよく解らない」
レンドルは、植物の事しか頭にない。
光の研究をするつもりはない。
「波か。
すると、振動が関係しているのか。
いや、違う。
哺乳類は、染色体の中に感覚波を持っている。
確か、そう聞いた。
植物の染色体の中を走るのは何なのだ」
レンドルは、仮説を立てた。
「植物は、染色体の中にデジタル受容体をもつのだ。
光の波位を捉えて、それをデジタル信号に換えるのだ。
クロロフィルは、それを媒介しているだけなのだ。
各部位は、それを使って測定をする。
デジタル信号は、エネルギーにも換る。
そのエネルギーは、大きくなくてもよいのだ。
効率の問題だ。
アナログより、デジタルの方が測定が簡単だ。
そして、明確だ。
エネルギーは、最小限でよいのだ」
実験が行われた。
多くの事が、解った。
植物の遺伝子の組み換えは、デジタル・システムを狂わす。
1つの事を求めて、組み換えをすると他の機能を失う。
コドン・セットの配列が、デジタル・システムを作っているのだ。
植物は精神に似たものを持っているらしい。
だが、それは現在の技術では確定できない。
ただ、小さいようだ。
いや、小さいのではない。
安定しているのだ。
変化が少ないのだ。
アインは推測した。
「植物の願いは、小さいのだ。
我々とは、違う価値観を持っている」
第5話 植物の価値観
植物は、花を開かせようとする。
そうでないものは、根を大きくしようとする。
更に、そうでないものも1つのものだけを願う。
我々は、それを生殖活動だと思っていた。
違うのだ。
我々は、その活動を儚いと見て、愛でる。
違うのだ。
それは植物のたった1つの願いなのだ。
植物は、多くを願わない。
安定した精神を持っているようにも見える。
これは、究極の生命活動なのではないか。
進化の分岐は、願いによって起こったのだ。
多くのものを願うものは、動物へと進化した。
1つのものだけを願うものは、植物へと進化した。
だが、どちらにも、なれないものもいる。
願いの数が、植物と動物の境目なのだ。
優劣をつける事はできない。
ただ、それが事実なだけなのだ。
第6話 爬虫類
アインは、爬虫類の遺伝子組み換え実験をしている異世界に行った。
悲劇が起きていた。
大問題が起きていた。
爬虫類が巨大化している。
2億年くらい前に繁栄したとされる恐竜に似たものもいる。
突然変異を起こし、精神エネルギーだけ巨大になったものもいる。
実験チームの者達は、全滅していた。
アインは、推測した。
「遺伝子の組み換えと、爬虫類の願いが融合してしまったのだ。
ここでも、奇跡が起こってしまったのだ」
爬虫類は動物だ。
多くの願いを持っている事が予想される。
だが、知性と願いは違う。
その優劣はつけられないが、彼らの知性は低いように見える。
アインは思った。
「この者達を地球に連れて行ったら、破壊活動しかしないだろう。
自らの願いを達する事だけが、行われるだろう。
この者らの精神を分析する事は、現在できない。
だが、予測する事はできる。
彼らの生体活動を観察すると、精神が安定していないように見える。
願いが欲望にと移っているように見える。
この者達は、自滅の道を歩むしかないだろう」
第7話 呪縛の紋章
アインは命鎮へ行った。
ユーラに訊ねたい事があった。
それは、「あの爬虫類達を、送り届ける事ができるか」だった。
『密許の窓』を使って、それが可能かどうか知りたかった。
ユーラが言う。
「予測できなかったのです…
可能かどうかは、試すしかありません」
「予測?
何の事だ」
だが、今は急を要する。
幸を伴って、爬虫類達のいる異世界へと戻った。
幸が、呪縛の紋章を唱える。
『密許の窓』が発動した。
爬虫類達は、見る間に、送り届けられたようだ。
命鎮へ戻って、『密許の窓』を封じた。
そして、ユーラに訊ねた。
「うまくいったのか」
「はい。
成功しました」
第8話 昆虫
昆虫のいる異世界へも行った。
同じだった。
違うのは、種が過剰に増えている。
指数的に進化が分岐している。
『密許の窓』を発動させた。
だが、残る者がいる。
全てを送り届ける事ができない。
命鎮で、ユーラに訊ねた。
「何故だ。
何故送り届けられないのだ」
「私の失敗です…
貴方達のせいでは、ありません」
「失敗?
予測?
何の事だ」
ユーラが責任を持つという。
アインは理由を尋ねた。
だが、今は言えないという。
謎が残った。
第9話 ミサ
ミサが、次々と何かを持ってくる。
意味のない物が多い。
だが、重要な物もある。
厳重に命鎮に保管されている物まで持ってくる。
「どうやって持ってくるのだ」
命鎮の中には、サムもテレポートできない。
命鎮は、ダイバリオンだけで構成されているのでは、ないらしい。
強力な「呪」が、掛けられているようだ。
「誰によって?」
考えられるのは、レンコによってだが。
「何故?」
アインは、ユーラに訊ねた。
「ミサは何者なのだ。
命鎮の呪は何のためだ」
「ミサも想定外です…
呪については、時がきたら」
「想定外?」
謎が増えた。
第10話 あの者達
ユーラとレンコが会話をしている。
「潮時かもしれない」
「はい。
彼らの成長の早さも想定外です。
早過ぎます」
「我らは、思い違いをしていたのかもしれない」
ユーラから命鎮へメッセージが届けられた。
「その方からの伝言です。
あの者達が見つかったそうです。
そして、その方から贈り物があるそうです。
皆、命鎮に集合してください」
13人が集合した。
その時、108の神殿が輝き出した。
108の神殿は、かつて、先駆者達に1つ1つ与えられたものだ。
今は、ミチヤに複合体として同化している108人の先駆者達のものだ。
誰かが気付いた。
「今、ミチヤは何処にいるのだ。
いつから、見えなくなった」
ユーラが言う。
「ミチヤは、私の元へ還りました。
神殿1つ1つに『精』があります。
それは、貴方達のものです」
それぞれの精がそれぞれの者と同化した。