第2章 空間の圧力
第2章 空間の圧力
第1話 突然変異
アリスが目覚めた。
麻痺を起して倒れていたアリスの眼が覚めた。
同時に、突然変異を起こした。
この世界に来てから2回目だ。
「軸の揺らぎ」を得た。
空間軸を見通す能力だった。
「平面の中心には、ペンタダイバリオンの巨大な塊があります。
第3軸は、薄い空間が圧縮されたものです」
アリスは、また倒れた。
2度の突然変異が、過度の負荷を彼女にかけたのか。
P=0Mp,c=17p,f=2,019MsHz,s=584Mv
アインは推測した。
「なるほど。
巨大なペンタダイバリオンが、空間を別離させたのだ。
平面と第3座標軸を別離させたのだ。
そして、平面にはスパイラル系を創った。
第3座標軸は、平面から局所的に落ちてくる物質により裂かれた。
それを修復するために、第3座標軸は、空間を創った。
第3座標軸の空間は、薄い空間が圧縮されたものだ。
落ちて来るものを全て支えられない。
元の平面に戻そうと作用する。
だが、この作用も落ちてくるものの速度に追いつかない。
この世界は、いずれ崩壊する運命なのだ」
第2話 何のために
あの者達は、何のためにこの世界を創ったのか。
もしかしたら、命の創造のための疑似世界か。
ペンタダイバリオンが創った意識に命を吹き込むためか。
どうやって。
ペンタダイバリオンが創った精神は、そのままでは役に立たない。
原動力が必要だ。
ケントもそうだ。
ポセイが操作しないと、ただ巨大なだけだ。
しかし、低いが知性を持っている。
僅かだが意識も持っている。
残念ながら、今の技術では、心を感知できない。
アインは、想像した。
「もしかしたら、遺伝子の実験ではないだろうか。
DNAを形作るのは、染色体だ。
染色体は、2重螺旋構造を持っている。
この世界は、螺旋の実験場ではないか」
しかし、この世界は、あの者達に打ち捨てられている。
第3話 意識
この世界の実験は、失敗したらしい。
螺旋構造が、遺伝子の解明に不可欠なのは理解できる。
だが、残された精神はどうすればいいのだ。
その時、微かなのか、大きいのか解らない意識が皆に割り込んだ。
皆、思考をブロックしている。
そのブロックを貫通するほどの力はない。
その意識が語りかけて来た。
「皆、敵だ。
我ら以外は、皆敵だ」
平面の中心にいる意識が、この世界を圧縮し始めた。
凄まじい速度だ。
光速を超えている。
いや、空間を移動している。
イズミが、軋む。
この時、誰かが呪文を唱えた。
『密許の窓』が解き放たれた。
この世界の精神に属するものは、全て送り届けられた。
「何処へ」かは、解らない。
誰かが呪文を唱えようとした。
その時、共鳴するものがいた。
それは、精達だった。
『集合の盤』
『絶対の軸』
『一体の錘』
『未明の橋』
が一様に鳴いている。
『密許の窓』に共鳴している。
呪文が唱えられた。
第4話 精達
呪文を唱えたのは、幸だった。
「無意の祈り」が発動したのだった。
防衛本能が一番発達しているのは、幸のようだった。
しかし、幸にも精達の共鳴は、どうする事もできない。
幸が突然変異を起こした。
4つの精の影響を最も受けたのは幸だった。
その影響は、精の攻撃ではなかった。
それは精の祈りだった。
「呪縛の紋章」を得た。
これは、幸だけが唱えられる呪文だった。
その呪文は、精の封印を解く事ができた。
そして、封印する事もできた。
アインは、幸の能力値を測定した。
能力値の変化はなかった。
この能力は、一時的なものなのか。
リーやロバートの関数交換と似たようなものなのか。
幸はこの能力を使って、4つの精を得た。
この影響で、この世界の崩壊が始まった。
消滅する運命にあるのだ。
イズミは、ムーに戻った。
第5話 アインの考察
命鎮に6つの精が封印された事になる。
1つの精は、異世界の次元の1つを構成できるほどの力を持つらしい。
負の世界にも3つの精が封印されている。
合わせて9つだ。
負の世界の精も、1つ1つが、座標軸を維持している。
精の力の分析は、現在の技術ではできない。
アインは、考察していた。
それは、螺旋についてだった。
「螺旋は、平面的にはスパイラルを構成する。
その平面に対し垂直に第3軸を持つ。
第3軸を安定させると、美しい。
第3軸が乱れると、平面も乱れる。
あの世界で、実証済みだ」
この時、眠っていたアリスが眼を覚ました。
「あの第3座標軸に未知の力を感じました。
それが何なのかは解りません。
第3座標軸に空間を作ったのは、その未知の力だと感じています」
アインは、考えた。
いくら考えても、考えた。
「そうか。
螺旋の象そのものに意味があるのだ。
象は図形ではない。
象は、何らかの集合体なのだ。
その集合体が未知の力を産み出すのだ。
未知の力は、新しい力とは限らない。
既知の力の複合体かもしれない」
第6話 異なる世界へ
鎮也達は、充分な休養をとった。
旅立ちの日は近い。
休養をとっていないのは、アインだけだ。
アインにとっては、思考が休養なのだ。
そして、アインはペットを飼っていた。
いや、それらは野放しだった。
最初は、親猫だけだった。
その猫は、ある用事で大陸に行った時に拾った猫だった。
薄汚れた猫だった。
だが、アインとその猫の気は合った。
その猫が、子猫を3匹産んだ。
今、その子猫は産まれてから5カ月だ。
やんちゃだ。
名前は付けているが、恥ずかしいから皆には内緒だ。
かつて、「犬猫は快と不快の判断脳しか持っていない」と、
主張した学者達がいた。
アインの観察によれば、そうは見えない。
「彼らの何が、危機を判断するのだろう」
猫には猫の世界がある。
猫同士は喧嘩する。
仲間とそうでないものを判別する。
「彼らは、何を基準にしているのだろう」
この考察の答えが、次の異世界で待っている事をアインは知らない。
第7話 ネコ科
鎮也達は、異世界へと旅立った。
彼らは、その世界に辿り着くまで、その世界の事を知る術がない。
雄叫びが聞こえた。
獰猛な野獣のようだ。
しかし、この世界の座標軸と空間は、我々の世界と同じらしい。
何頭かの群れがいた。
いや、何人かの群れなのか。
彼らは、直立歩行をしていた。
だが、姿形は虎に似ていた。
彼らの思考を探った。
知性を持っているようだ。
その知性は、人類に遥か及ばない。
しかも、精神エネルギーはほとんど感じられない。
レオが言った。
「何だ、この世界は。
動物園か。
直立する動物園か」
鎮也を含めて何人かが、この世界に降り立った。
この世界の大気成分は、ムーとよく似ている。
その時だった。
直立する虎が、間近にいた。
新和の防衛本能が働かなければ、喉笛を噛み切られていたかもしれない。
新和の結界の外を右往左往する虎がいた。
その虎は、瞬時に複数になっていた。
その虎達は、鎮也達を異物と判断したのだ。
第8話 防衛本能
その直立する虎達は、防衛本能で行動したのだった。
鎮也達は、虎の体毛を1本持ってイズミに戻った。
ケントは、DNAの分析をした。
「染色体は、9本です。
突然変異領域は、0.01%です」
ムーでは、突然変異領域が「特別なコドンで囲まれている事」を突き止めていた。
人類の突然変異領域は全体の2%だ。
アインは、思った。
「突然変異領域帯が小さいため、進化が遅いのでは」
それは、半分当たっていた。
彼らには、決定的な危機がないのだ。
突然変異を起こさなければならない理由がないのだ。
この虎達の特異性は、テレポートできる事だった。
敏捷性も桁外れだ。
鎮也達の中で敏捷性が、この虎達を上回っている者はいなかった。
生身で闘えば、必ずあの世行きだ。
ムーでは、防衛本能が遺伝子の「何処かに埋め込まれている」と推測していた。
未だ、人類のそれは発見されていない。
巧妙に隠されているのだ。
鎮也達は、全遺伝子の98%を発現させている。
残りの2%は、突然変異領域帯だ。
しかし、98%の遺伝子全ての説明がつく。
何処にも防衛本能は埋め込まれていないのだ。
第9話 特異能力領域帯
特異能力領域帯を囲む特別なコドンも発見されている。
この領域帯は、全体の約3%だ。
そして、この領域を構成するコドンは個体差が大きい。
ここの虎達もこの領域を何らかの理由で発現させている。
そのため、テレポートできるのだ。
アインは、悩んだ。
「この虎達の防衛本能が、我々を上回っている事が予測される。
しかし、この虎と人類を比較しただけでは、何も解らない。
ここに別の種はいないのだろうか」
アリスは、生命体の感知を行った。
「数十種の生命体を確認しました。
もっと探しましょうか」
「いや、充分だろう」
アインは、仮説を持っていた。
「塩基の配列の順番なのだ」
第10話 眠り猫
その小さな猫に近付いた時だった。
リーとサムが、強力な睡眠暗示にかかった。
リーとサムのブロックは間に合わなかった。
その小さな猫は、獲物の収穫に喜んでいた。
だが、小さな猫は獲物にありつけない。
リーとサムは、TBD8スーツを着用している。
だが、やっかいだ。
新和が、リーとサムの周りに結界を張った。
同時に小さな猫を捕縛した。
捕縛した猫は、体毛を1本抜いて、放した。
幸は、リーとサムに祈りを捧げた。
マリヤは、妖精の力を注いだ。
だが、2人は、回復能力を持っていない。
どの程度、効果があるのか解らなかった。
やがて、リーとサムが目覚めた。
何の効果かは、解らなった。
リーとサムは、皆に戒められた。
「油断するな」
これは、皆への戒めでもあった。