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祗園祭、宵山、午後六時、同行二人。

作者: 高野 真

 夕立あがる京都の街に、繰り出す人出幾万人。文月入りて二週間、祗園祭は宵山迎え、窓の向こうに流れる囃子、笛の音鉦の音太鼓の音。浴衣、兵児帯へこおび、信玄袋、手と手取り合いからからと、何がそんなに楽しいか、道ゆく男女をちらと見る。そんな姿を見かねてか、どうせ相手がおるわけでなし、あんたもおいでと声かけ給う、同じ職場で机並べる御姉様。仕事をしてる場合やないと、ぬさもとりあえず手向山、急ぎ追いかけ飛び出でぬ。


 戦の前の腹ごしらえ、財布片手に縦横無尽。鮎の塩焼唐揚の串、広島焼に鳳梨パイン串、屋台巡りて満腹御免。人の流れに身を任せ、新町室町そぞろ歩き。神功皇后船出の故事に題を取り、金色鷁首(げきしゅ)に朱塗りの胴、大船模したる舟鉾ふなほこから、月読尊つくよみのみこと奉り、鉾頭には三日月を、屋根に乗りたる三ツ足烏も誇らしげに、天竺由来の緞通刺繍で取り飾りたる月鉾つきほこへ。越すに越されぬ函谷関、鶏声真似て切り抜けた、孟嘗君も驚かん、豪華絢爛函谷鉾(かんこぼこ)の、屋根より出でたる七丈の真木、その天王座には二羽の鶏あると聞く。四条烏丸東へ進み、目に入りたるは長刀鉾なぎなたぼこ。疫病邪悪をなぎ払わんと、天を貫く大長刀の、冷たく光るも美しき。明日執り行われる山鉾巡行、山・鉾・山の三十二基がごろごろと、数多の人に曳かれては、四条通から河原町、御池通と巡りたる、その序はくじによりけれど、明応九年より五百余年、長刀鉾はくじ取らずとて、必ずやその先頭を行く。朧ろに灯る駒形提灯、十重二十重に鉾取り囲みたる、人々の姿照らしつつ。気合入りしか囃子方、より高らかに奏で出づ。

 コンチキチンのその中に、何を思うたか御姉様、ぽんと手を打ち口開き、あんたの行くとこここですと、首に縄つけ引くかのごとく、やってきたのは保昌山ほうしょやま。御神体には平井保昌、緋縅ひおどし鎧に身を固めたる、その掌中にあるものは、慕いたる和泉式部に求められ、手折りて捧ぐ左近の紅梅。今に聞こゆるひたむきの恋、我も我もとあやからんとて、善男善女が集いては、良縁結縁恋愛成就を祈りたる。さあさあんたもお参りしよしと、背中をぐいぐい御姉様。

 されど我が身を振り向き見れば、独り寝することはや幾年。色恋沙汰は諦め申した、かくなるうえはえんはえんでも縁より円、せめて仕事で成功せんと、立身出世を祈願しに、ほうほうの体で鯉山へ。

 登竜門の額掲げ、今まさに瀧を登らんと、五尺の大鯉荒波に、身を躍らせたるその姿、かの名工左甚五郎、作りしものとぞ伝え聞く。澱みに眠りし我が身なれど、今は雌伏のときにして、いざ一朝事あらば、さっと銀鱗翻し、一世一代大仕事、果たしてみせんと大望抱き、出世開運難関突破、有難き護符賜らんと、勇んで列に並びたるも、売切御免で残念無念、ひざもがっくり崩れ落つ。せめてお参りだけでもと、頭を垂れる哀れな我が身に、手ぬぐいどうどす、天の声。見れば涼やか薄紫の、絽のお召し物、小野小町もかくやと思わん妙齢の美女。薫りたつよなくび筋の、白きに見とれ居るうちに、気づけば我が手は財布に伸びて、手ぬぐい一本お買い上げ。

 やはり結ぶは円より縁と、嘆く男の哀しさよ。真面目に生きたらええことあるえ、希望を捨てずにお気張りやすと、励ます貴女もはや三十路。何を仰る御姉様、私ゃ貴女と縁結びたい、平井保昌ほどではないが、両手いっぱい薔薇の花、捧げてみせん貴女の為にと思いつつ、意気地のなさに苦笑い。


 ああ余は老けて夜も更けて、コンチキチンも鳴りやみぬ。宵山めぐる二人の旅もそろそろお開き、熱さめやらぬ人々あふるるプラットホームのこっちと向こう、手を振りあって笑顔を見せて、貴女は北へ私は南へ地下鉄に。ああ愉快なり宵山の街、ああ美しや宵山の街。願わくは次も、貴女とともに。

実はこのお話、八割方がほんまの話です(笑)

当時私が勤務していたオフィスの目の前にとある鉾があり、お囃子やら夜店やらで祗園祭期間中は仕事どころやありませんでした。

ちなみに私を連れまわす「御姉様」もモデルが居てはります。

なおこのお話は、内容よりもリズムに重きをおいて書いてます。

リズム感よく皆さんにお話できていれば、と思います。

それでは次回、京都のどこかでまたお会いしましょう。

(平成24年3月5日脱稿)

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[一言]  こんにちは。リズムを重視されただけあって陽気な文章だと思いました。文章が一区切りつくごとにひょいひょいと気持ちが持ち上げられ、いつの間にか楽しい気分になっているというか。読んだことはないの…
[一言] リズム感に重点を置いたとのことですが、確かにテンポよく読めました。 八割実話とのことですが、あくまで物語として今後の御姉様との関係も気になるところですが、あくまで気の無い素振りでこれからも色…
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