【悲報】異世界転生したけど、邪神のせいで1からやり直しです、ちくしょう!
ユウは、現代日本に生きるごく普通の青年だった。
強いて特徴を挙げるとすれば――寝る間を惜しんでゲームをする、筋金入りのゲーム中毒だったことだ。
不幸な事故で亡くなったユウの魂を、とある世界の神が拾い上げた。
「――やあ」
穏やかな雰囲気をまとった“神”と名乗る存在は、ユウに提案した。
「もしよければ、私の箱庭――別の世界で、生き直してみないか?できれば邪神の討伐もお願いしたいけど、無理強いはしないよ」
異世界転生。
ゲーム好きのユウにとって、それはあまりにも魅力的な言葉だった。
「マジで?お願いします!」
一も二もなく即決したユウに、神は苦笑した。
「では、これを」
神は、一つのデバイスをユウに手渡した。
「これは、ステータスにポイントを割り振り、スキルを取得したり、私からの連絡を受信できるデバイスだよ」
「スマホみたいだな…」
「まぁ、それを参考に設計したからね」
画面を操作すると、直感的で洗練されたUIが表示される。
ゲーム慣れしたユウには、説明が不要なほどだった。
神は続ける。
「私から勇者のみんなへ、様々な情報をメールで送っているんだけど――」
神は少し表情を曇らせた。
「私と敵対している神――邪神が、時折システムをハッキングし、私を騙ったメールを送っている。もう何人も被害にあっていてね…」
「詐欺メールってことか」
ユウは軽く肩をすくめた。
心配そうな表情の神とは対照的に、ユウの表情は自信にあふれている。
「くれぐれも、メールのリンクは踏まないでほしい」
「分かってる。現代日本でメディア・リテラシーは鍛えられてるから、大丈夫だよ」
神は何か言いかけて、結局、黙って頷いた。
その後、細かな説明を終え、ユウは異世界へと降り立った。
†††
ユウの冒険は順調だった。
レベルアップするたび、自由にステータスを割り振り、スキルを取得する。努力が、即座に結果として返ってくる世界。
ユウは夢中でレベリングに取り組んだ。
神からのお知らせに混じって、時折、怪しいメールが届く。
「アカウント停止のお知らせ」
「還付金のご案内」
そのたびに、ユウは笑い飛ばす。
「停止? 何のアカウントだよ」
「還付金? 異世界に税金なんてないだろ」
そんなある日。
「セキュリティソフトのご案内」というメールが届いた。
差出人は神。
いつもの神の紋章に始まり、本文が続いている。
「へぇ、邪神のハッキングに対応できるソフトか。神様もいろいろ頑張ってるんだなぁ。お疲れ様です!」
下のほうに、セキュリティ更新のリンクが張ってあった。
ユウがリンクをタップすると、自動で「神公式ストア」というページへ遷移する。
左上に神の紋章がある、ステータス振り分けと似た印象のページ。ダウンロードというボタンを押すと、数秒で完了した。
ホームに現れたアプリを起動した瞬間、ユウはその場に崩れ落ちた。
体が重い。加えて、装備は重石のようだ。
「な、んだ…?」
デバイスのセキュリティソフトのページに、「あっかんべー」のようなマークが出ている。
「…まさか……」
重い体を必死で動かし、ステータスを確認する。
心血注いで育ててきたステータスは、とてもシンプルなものに変わっていた。
-------------
ユウ(レベル387)
職業:聖騎士
STR:1(固定)
VIT:1(固定)
INT:1(固定)
DEX:1(固定)
スキル(89):すべて封印状態
所持金:0
アイテム:なし
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「……は?」
何度確認しても、変わらない。
これまでの努力と費やした時間。
「全部…消えた…」
呆然と呟いたユウは、次の瞬間、神のもとへと召喚されていた。
「リンク、踏んじゃったんだね」
神の声は、事実を確認するように淡々としていた。
「……面目ない」
「君が飛ばされたストアは、邪神による偽物だね。あいつ、私のメールやシステムをことごとく模倣するんだ」
ユウは、強く歯を食いしばった。
「ち…くしょう……!」
神は悔しさに震えるユウに、問いかける。
「最終手段を使うかい?」
「…お願いします…」
最終手段――それはリセットだった。
全てのステータスを1に固定された状態では、レベリングも意味をなさない。
リセットが実行され、ユウのレベルは1に戻った。
職業未設定、スキルもない。完全な、初期状態。
ユウは、拳を握りしめる。
「邪神……許すまじ…!」
地上へと戻ったユウは、職業選択画面を開いた。
邪神と戦うことを念頭に、魔導士を選択する。
――すべてを奪った存在を、必ず討ち倒すために。
「地獄の果てまで追いかけて、しばいたる…!」
それから、ポン、という通知音がデバイスからするたび、ユウは通知を睨みつける。メールの中に、リンクはないか慎重に読み進める。もし、リンクがあったとしても。
「……メールのリンクは、二度と、絶対、踏まない」
憮然とユウはひとりごち、筋トレを続けた。
†††
――数百年後。
邪神の玉座が鎮座する虚無の神域。
世界の裏側、誰一人として到達できぬはずの場所。
その“背後”で。
メリ、メリ、メリ……と、空間が歪み、軋む音がした。
「……?」
邪神が振り返る。
空間が、縦に裂けた。
そこから一人の男が足を踏み入れてくる。
ボロボロのローブ。
幾度となく修復された痕跡のあるワンド。
そして――ギラギラと獣の様に光る双眸。
「な、なぜ人間がここに……!?」
邪神の声が裏返る。
ここは神の領域。
人間ごときは侵入不可能なはずの場所だ。
男は肩をすくめ、淡々と言った。
「そりゃあもう、大変だったぞ」
一歩、前へ。
「不老不死のスキルを取って」
「世界の端から端まで歩いて」
「次元干渉スキルの取得条件を調べて」
「神域に届くまで、何百回も失敗して」
1歩ごとに語られる内容は、常軌を逸している。
邪神の脳内では警鐘が鳴り響いている。
本能的に動いてはいけない気がして、邪神は青ざめることしかできない。
「――試行錯誤を、重ねに重ねて。ようやく、お前に、辿り着いた」
邪神の目の前まで来た男が、拳を握り込む。
「よくも」
男からとんでもない覇気が放たれる。
「ヒィ…!!!」
「俺の努力を、無に返してくれたなぁ……!」
次の瞬間。
ドゴォォンッ!!
「ふべぇっ!!?」
拳が邪神の顔面にめり込み、神であるはずの存在が、情けない声を上げて吹き飛んだ。
「ちょ、待――」
ドガッ!
「詐欺メール」
バキッ!
「偽ストア」
ゴスッ!
「ステータス全没収」
一撃ごとに、男の言葉が叩き込まれる。
「騙された俺も油断してた……それは認める――だがな」
邪神の胸倉を掴み、至近距離で睨みつける。
その口が、歯をむき出しにして弧を描いた。
「騙すやつが、やっぱり一番悪いんだよ!!」
ズドォォン!!
最後の一撃で、邪神の存在は粉々に割れ、黒い靄となって崩壊していった。
「……詐欺、ダメ、絶対。」
そう呟いた男――ユウは、静かに拳を下ろした。
†††
次にユウが目を開けたとき、そこは懐かしい空間だった。
穏やかな光。
安心したような、呆れたような表情の神。
「……本当に、倒してしまうとはね」
「約束通りだろ」
ユウは肩を回しながら言う。
神は苦笑し、問いかけた。
「望みは何かな?世界を救った英雄に、相応の褒美を用意しよう」
伝説の装備。
最強スキル。
神の座ですら、選べるかもしれない。
だが、ユウは少し考え――笑顔で言った。
「リセット、お願いします」
神がぽかんと口を開ける。
「……リセット?レベル1からやり直したいの?」
「ああ」
ユウは、晴れやかな顔で言った。
「今の俺は、復讐のためのビルドだ。そして、目的は果たした…だから、今度はさ。効率とか最強とか気にせず」
一度言葉を切ったユウは、満面の笑みで続ける。
「昔やってたゲームみたいに、ただ楽しみながらレベルアップしたい」
神は、しばらく黙っていたが――やがて、深く頷いた。
「…わかった。じゃあ、いくよ」
光が満ちる。
すべてが初期化され、再び始まる物語。
異世界転生、三周目。
メールのリンクだけは、二度と、絶対に、踏まないと誓いながら。
――ユウは、“本当の冒険”へと歩き出した。
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