清楚なクラスメイトが本当は子供大好き姉御タイプだと知ったので、俺と沢山子供を作ろうって言ったらドン引きされた
「昨日のごちぱんは最高だったでござるな」
「そうだったっけ?いつも通りの日常系じゃなかったか?」
「何を言ってるでござる!幼女が一人で頑張ってお使いしてたでござる!」
「ロリコン視点の主張に同意を求めるな」
高校からの帰り道、友人の小太りロリコン男を冷たくあしらうのは小柳桜雅。見た目は何処にでもいそうな男子高校生で、周囲からは楽しそうに良く笑う人物だと思われている。
「桜雅殿だって子供好きな癖に」
「俺のは保護欲であって性欲ではない。一般的な感性だ」
「となると桜雅殿はクラスメイトも恋愛対象では無いと」
「どうしてそうなる」
「高校生も世の中的にはロリコンでござる」
「それは大人が付き合う時の場合だけだ!」
高校生同士の恋愛までもアウトだなんて言われたら、高校生恋愛を描いたあらゆる作品がイレギュラー扱いになってしまう。それは困る。本当に困る。
「つーかその理論だと、お前はクラスメイトも恋愛対象なのか? てっきり小学生以下が対象かと思ってたんだが」
「高校生なんてBBAでござる」
「おいコラ。矛盾してるだろうが」
「YESロリータ!NOタッチ!」
「勢いで誤魔化すな」
二人は高校で出会い、趣味も嗜好も全く違うのに何故か話が合ったことから、こうして友人として会話をしながら帰宅する仲になっていた。
「真面目な話、桜雅殿はクラスメイトに気になる女子とか居ないでござるか?」
「お前がBBAの話をするだなんて珍しいな」
「拙者とて高校生でござる。そういう話には興味があるでござるよ」
「ふ~んそんなもんか」
自分の恋愛対象が同世代であっても、歳の離れた大人同士の恋愛漫画を面白く思うような感覚に近いのだろうか。
「それで居るでござるか?」
「何でいきなり修学旅行の夜みたいな感じになってるんだよ」
「いいからいいから」
「う~ん、うちのクラスか。ピンと来る娘は居ないかな」
「小清水嬢はどうでござるか?」
「同級生を嬢って呼ぶのは止めろ」
二人のクラスメイト、小清水 夏奈。
腰まで伸びる長い黒髪が特徴的な大人しくて清楚な雰囲気を纏う学校一の美少女であり、ロリコンであってもその美しさに見惚れてしまう程。優しくて面倒見が良いことから女子からの人気も高く、女子の肉壁により同じクラスであっても男子は近づけない。
「綺麗だとは思うけど、彼女にって感じでは無いな」
「そうでござるか」
「なんで嬉しそうなんだよ。まさかお前彼女のことが」
「ありえないでござる」
「だよな。このロリコンめ」
桜雅がクラスの誰かと付き合うことになったら、今のような男同士でくだらない話をする時間が激減してしまうだろうから嫌だったのだ。もうしばらくは今の時間が続くことを嬉しく思っているのだが、恥ずかしくてそれは言えなかった。
「それじゃあ拙者はここで」
「おう。また明日な」
「また明日でござる~」
いつもの場所で別れ、桜雅は家に向かって歩く。
「今日はあっちから行くか」
家までのルートは複数あり、いつも気分で選んでいる。今日は川の土手の上の遊歩道を通るルートを選んだ。
「元気にやってるな」
河川敷で子供達が楽しそうに遊んでいる姿が目に入った。最近の子供達は外で遊ぶことが減ったなどと言われているが、この場所はいつも活気がある。
「あの馬鹿、ロリコンとか言ってる癖にこういうところには近づかないんだよな」
自分が変態だということを自覚し、もしも近づいて観察でもしようものなら子供達に怖がられてしまう。だから好きなのに距離を取っているのだと以前聞いたことがある。そういう人物だからこそ桜雅は友人として付き合い続けているのかもしれない。
「オラオラ!もうへばったのか!情けないぞ!」
「おや、この声は?」
子供の声に混ざって聞こえたのは威勢の良い女性の声。ここを通る時に何度か聞いたことがあり、威勢の良さが珍しい感じだったので印象に残っていた。今日は小学校低学年くらいの子供達とサッカーで遊んであげているらしい。
「平日に遭遇するのは初めてだな」
その女性はこれまで休日しか見たことが無く、平日は仕事をしているのかと思っていた。だがどうやらそれは盛大な勘違いだったようだ。
「え、あの制服ってまさか!」
そもそもその女性は社会人ではなく自分と同じ高校生。しかも自分と同じ学校の生徒だった。
休日に見かける時は帽子とサングラスと運動用のスウェットを着用しているため、遠目からでは年齢までは分からず勘違いしていたのだ。
「あの声にポニーテール、間違いなくあの人だよな」
聞き覚えのある声だけでなく、長い髪を高いところでポニーテールに纏めている姿もそっくりだ。間違いなく休日に見たことのある人と同一人物だろう。
「ナイスプレー!いいよいいよ!」
その女性が大きな声をかけると子供達が元気になり動きがよりハツラツとする。
「いいなぁ。俺も入りたいな」
それは桜雅がロリコンだからではなく、純粋に子供が好きだから。だがいきなり見ず知らずの高校生がやってきたら子供達を怖がらせてしまうからそれは出来ない。子供好きだからこそ、子供への接し方に細心の注意を払っているのだ。
「あれ、何処かで見たことあるような……?」
そろそろその場を離れようと思ったら、女性の姿に何処となく見覚えがあることに気が付いた。今日は帽子とサングラスをつけていないため、遠目からでも顔が見えたのだ。
「まさか!?」
桜雅の知る彼女はあんなに威勢良く言葉を発しない。
大人しくて物腰柔らかで『静』のタイプであり、決して『動』のタイプではない。
「姉妹とか親戚なのか?」
絶対に別人だろう。
そう思えるくらいに普段の彼女とは様子が違っていた。
しかし。
「ななおねえちゃん!」
「なな姉!」
「おう、どうした!」
子供達が彼女のことを『なな』と呼ぶでは無いか。
あの見た目で『なな』と呼ばれている自分と同じ高校に通っている女子。
「小清水さん……なのか?」
清楚な彼女の予期せぬ一面を見た桜雅は、クラスでは不思議と何も感じなかったのに胸が高まっていた。
--------
「お姉ちゃん、さようなら~」
「ああ、気を付けて帰れよ!」
夕暮れが近づき、子供達は河川敷から各自の家へと帰宅した。
最後まで残った夏奈が乱れた制服を整え髪を降ろしていたら、誰かが近づいて来る足音が聞こえた。
「誰!?」
「あ~驚かせてしまって悪い」
「…………小柳君!?」
桜雅は夏奈に興味を抱き、子供達が帰り彼女が一人になるまで待っていた。とはいえ土手の上の遊歩道で何人もの人が歩いていて二人っきりという訳ではない。怖がらせないようにとその点は気を使っていた。
「俺の事覚えてたんだ」
「そりゃあクラスメイトだし……ってまさか見てたのか!?」
「子供達と遊んでたとこなら見てたぞ」
「…………終わった」
「え?」
何故か夏奈は絶望してがっくりと項垂れていた。
「お願いだ!小柳君!このことは黙っててくれ!」
「え?何のこと?」
「私が清楚だって学校で演技してることだよ!」
「え?演技だったのか?てっきり子供達と一緒の時だけ元気になるのかと思ってた」
「…………終わった」
桜雅は気付いていなかったのに、夏奈は自分から演技しているとバラしてしまった。
「(もしかして案外ポンコツ?)」
絶望する夏奈をよそに、なんとなく親近感が湧いた桜雅であった。
「ふふ、別に言いふらす気は無いから安心して」
「ホントか!?」
「ほんとほんと。それに代わりに何かしろなんてことも言わないから大丈夫」
「うううう、恩に着る!」
桜雅は泣きそうな女子相手に外道な要求など出来るような人物では無かった。
「でも気になるからもしよかったら教えてよ。どうして学校では演技してるの?」
元々が根暗で陰キャなのを誤魔化すために必死に努力して清楚を装っている、ということならば分かる話だが、元気一杯の姉御肌というタイプは学校でも人気キャラの部類に入るため敢えて清楚を演じる必要性が桜雅には分からなかった。
「それはコレのせいなんだ」
「髪の毛?」
夏奈は己の長い髪の毛に触れ、それこそが演技せざるを得なかった原因だと言う。
「私って幼い頃からおて……元気でさ」
「お転婆だったんだな」
「元気でさ」
「お転婆だったんだな」
「小柳って性格悪いな!」
「それほどでも」
「ぐっ……くそぅ」
気を許した相手を少し揶揄いたくなってしまう悪い癖があるだけだ。
「ああ、そうだよ。お転婆だったんだよ。毎日泥だらけになって遊んで帰ってくるくらいにな!」
「そりゃあ洗濯が大変そうだ」
「そっちの心配!?」
「泥汚れもキレイに落ちる、なんて洗剤使っても中々落ちないんだよ」
「何でそんなこと知ってるんだよ」
「母さんが仕事で忙しい時とかに代わりに洗濯することあるからな」
「突然好感度上げるの止めてくれない!?」
「ヨシ!」
高嶺の花、住む世界が違う。
そう思っていた夏奈がツッコミを入れてくれることが面白くてつい弄ってしまう桜雅であった。
「はは、小柳って面白れー奴だな」
そしてその態度が夏奈にとって好印象だった。
その理由は単純明快。
「こうやって話した方が気が楽かなと思ってさ」
「……お前マジで好感度上げようとするの止めろよ」
演技をしている清楚な夏奈に対して接するように丁寧に話しかけてくるより、雑に接してもらい素の自分の姿で話が出来る方が遥かに嬉しいからだ。
「おっと話が逸れちゃたな」
「誰のせいだよ」
「まぁまぁ、それでお転婆なのがどうしたって?」
「母さんが髪を伸ばしたら少しは大人しくなると思ったらしくてさ」
「それでそんなに綺麗な長い髪になったのか」
「おま、綺麗って」
「ん?」
「……いや、何でもない」
桜雅の様子からはそれが意図した誉め言葉ではなく自然に漏らした言葉のように感じられる。普段から髪を褒められ慣れている夏奈だが、不思議と今回に限っては無性に照れ臭く感じてしまい顔を少しだけ赤らめていた。
その気持ちを誤魔化すかのように夏奈は話を続ける。
「それで伸ばした髪を見て、皆が『お人形さんみたい』って褒めてくれるようになったんだよ。なんかその印象を裏切るのは悪い気がしてお人形さんっぽく頑張って振舞ってたんだが」
「その結果お母さんの狙い通り、清楚な女の子が誕生した、と」
「そんな感じだ」
「でも内面は全く変わって無いからお母さんの狙いは本当は失敗している、と」
「うっせ」
照れ臭そうにそう呟く夏奈の顔には諦めのようなものが見て取れた。少なくとも高校を卒業するまでは周囲の期待を裏切らないためにも清楚で在り続けなければならないと思っているのだ。
「清楚で憧れの小清水夏奈がこんな乱暴な女で幻滅しただろ?」
「いや全然」
「下手なフォローはいらねーよ。男はおしとやかな女の方が好きだって知ってんだよ」
「俺は今の小清水さんの方が話しやすくて圧倒的に好きだけどな」
「はぁ!? な、なな、何言ってんだよ!」
顔を赤くして驚く夏奈と、何を驚いているのかと不思議そうに首をかしげる桜雅。これまた桜雅が本気でそう思っているという反応にしか見えない。
好きの意味はもちろん恋愛的な意味では無いだろう。
だがそれでも素の夏奈の方が良いと言ってくれたことが嬉しくてたまらなかった。
「小清水さんが良ければ、またこうして話しようぜ。息抜きは必要だろ?」
「い、いいのか!?」
「もちろん。でも学校はダメだよな。俺としては小清水さんが学校で素を見せても平気だと思うけど」
「出来るわけないだろ!? 清楚清楚って清楚教の教祖みたいな扱いになってるんだぞ!今更素を出したら絶対に怒られちまう!」
「むしろ清楚神社の御神体みたいな扱いな気もするが」
「どっちにしろ同じだバカ!」
崇め称え祭られている。
そんな人物が実は虚像でしかなかったと告白したら、どんな反応になるか怖くて出来ない。
「そっちの方が楽しいと思うんだけどな」
「…………もう遅いんだよ」
「そっか。でも我慢しすぎないで、どうしても無理だったら素を見せちゃえよ。何かあっても俺が味方してやるからさ」
「お前はまたそういう……いや、ありがとな」
口説こうとしているかのようなセリフだがそうではない。
桜雅は純粋に夏奈のことを気を使っているだけ。
つい先ほど会話をするようになったばかりだというのに、夏奈は桜雅がそういう人間であることを感じ取っていた。
「じゃあここで会ったら少し話をするくらいにしておこうか。俺はここが通学路だから……って待てよ。そういえば小清水さんっていつもは休日しかここに居なかったよな。どうして今日はここに居るんだ?」
「……前からいるのバレてたのか」
「正体は分からなかったけどな。それでどうして?」
「それを話すには、そもそも私がどうしてここで子供達と遊んでいるかの説明から必要だな」
そのことも桜雅は聞きたかったから丁度良かった。
「親戚の子供と一緒に遊びに河川敷にやってきたのがきっかけだったんだ」
「親戚の子供?」
「ああ。親戚の集まりがあって、大人同士で話をしている間に私がその子の面倒を見ることになったんだ。それで近くの河川敷に連れて来てサッカーボールを使って遊んでいたら、いつの間にか他の子供も集まってきちまってな」
「ああ~見ず知らずの相手にもぐいぐい来る子供っているもんな」
「気付いたらいつの間にか沢山の子供の面倒を見ることになっちまって、その子達の両親からもまた今度遊んでくださいってお願いされちまって」
「断れなくなっちゃったのか」
親としては子供に外で元気に遊んでもらいたい。
だが今の世の中、幼い子供を外で一人で遊ばせるのは不安であり、しかも家の中での遊びが充実しているがゆえ外に出る理由が無い。
そこで夏奈の出番である。
近所に住んでいる女子高生の夏奈であれば、信頼して子供を任せられる。しかも夏奈の快活な素の性格のおかげか子供達が楽しそうに身体を動かし、また遊びたいと言ってくるのだから親としても預けたくて仕方ない。
お人形さんみたいと言われたらそれを演じて止められなくなったように、子供達を信頼して預けたいと言われたらそれを受け入れて止められなくなった。
どちらも夏奈の性格ゆえに引き起こされた事象のように思えるが、実は大きな差がある。
「断る気なんて元々ねーよ。子供大好きだからな!」
夏奈は自ら進んで喜んで子供達と遊んであげていたのだ。
仕方なく清楚を演じるのとは天と地ほどの差がある。
「遊ぶのは基本的に休みの日だけなんだが、今日は帰宅途中にいつも遊んでる子供達に見つかっちゃって遊んでってせがまれちまったんだよ」
「それを偶然俺が目撃してしまったと」
「そういうこと」
本当は正体バレの可能性があるから制服かつ素顔で遊ぶのは嫌だったのだろうが、子供達のお願いには逆らえなかったというところだろう。
「そっか。そこまで子供が好きなんだ。俺も子供大好きなんだよ」
「そうなのか!?」
「本当は小清水さんと混ざって遊んであげたかったんだよな」
「なんだよ。言えよな~」
「言って良かったのか?」
「皆が帰るまで待ってくれて本当にありがとうございました!」
「はは、だよな」
子供達に不審がられるというのもあるが、正体バレしたことで子供達に囲まれながら挙動不審になってしまうところだった。桜雅がそこまで考えて気を使ってくれたことに感謝しかない。
「小柳って少し意地悪だが良い奴だな!」
「意地悪は余計だ」
「本当のことだろうが。でもすっげぇ良くしてくれるから、やっぱり何かお礼するよ。何かやって欲しいこと無いか?」
「別に良いのに」
「そうじゃなきゃこっちの気が済まないんだって。なんなら清楚モードでデートでもしてやろうか?」
「そんなことしたらクラスメイトから袋叩きに合っちまうわ!」
「くくく、それはそれで面白そうだな」
「小清水さんだって意地悪じゃないか」
なんて嘆息しながら桜雅はお礼の内容を考える。
「じゃあさ、俺と沢山子供を作ろうぜ」
「は?」
あまりにも予想外の要望に何を言われたのかすぐには理解できなかったのか、間抜けな表情でポカーンとする夏奈。やがてその顔は真っ赤に染まり、思いっきり後退り桜雅と距離を取った。
「キモすぎんだろ!?」
「え?」
「ないわ。マジないわ。最悪」
これまでの和やかな雰囲気が一変し、夏奈は桜雅を睨み剣呑な感じになってしまった。
子作りの要望は親しくなりかけているとはいえ流石にやりすぎであり、しかも夏奈がその手の話が苦手だったこともあり好感度が一気に急降下してしまったのだ。
「いくらお礼とはいえ、やらせろとか最低だろ」
「あ、そういう意味じゃ」
「はぁ~まさかこんな最低な奴だったなんて。最初からそれが目的で!?」
「だから違うって」
「近づくな!」
「!?」
慌てて弁解しようと足を一歩踏み出すものの、強く拒否されてしまい桜雅は動けなくなってしまった。
「黙っててくれることを感謝するけど、出来ればもう近づかないでくれ」
「…………」
「じゃあな」
そして夏奈は慌てて逃げるようにその場から去ってしまったのだった。
--------
「やらかした」
桜雅に遭遇した翌日、盛大に凹んだ桜雅が肩を落としながら帰宅していた。
せっかく仲良くなれそうだったクラスメイトの女子に一度の失言で嫌われてしまったのだから当然だろう。
しかも今日はクラスで夏奈が桜雅がいる方を見ようともしないし、移動の際も意図的に近づかないようにしていたように感じられた。
「なんであんなこと言っちゃったんだろうか」
別に桜雅はやらせろと言いたかった訳ではない。
だがあの言葉はそうとしか受け取れないものだった。
しかも真意もまた気持ち悪いものであり、あの場のノリだったとはいえあまりにも酷いことを言ってしまったと反省するしかない。
「しゃーない。元から接点なんて無いようなものだったんだし、何も変わらないとでも思って……あ」
「あ」
これまで学校以外で遭遇したのは昨日の河川敷が初めてだったにも関わらず、不思議とこういう時に限って会ってしまうものだ。帰宅途中の曲がり角、二人はまたしても出会ってしまった。
「ストーカー!?」
「おい待て距離を取るのは良いとしてスマホを出すな通報しようとするな」
「だって昨日の今日で会うなんて狙ってるとしか!」
「俺もそう思う」
あんな別れ方をしておいて翌日偶然出会うなど出来すぎている。
追跡や待ち伏せでもしていたのではと想像してしまってもおかしくない。
「昨日は俺が全面的に悪かった。必要以上に接するつもりもない。だからそこまで警戒しないでくれ」
「そんな言葉信じられると思うか!?」
「だよな」
「どうせ昨日のことは全部嘘で、私の身体だけが目当てだったんだろ!」
「うわぁ。完全にこじれてら。つーか全部嘘?」
「そうだ!子供が好きってのも私に合わせただけなんだろ!」
「…………」
好感度が下がるとここまで酷い扱いになるのかと思う一方、一つだけ気になることがあった。
たとえ自分が百パーセント悪くとも、その一点については誤解されたくなかった。
同じ子供好きの仲間として。
「小清水さん。昨日のお詫びにある所に連れて行ってあげる」
「行くと思うか?」
「思わない。でもその場所が何処か聞いたら行くと思うよ」
「…………」
三十分後。
「おうにい!」
「佑基」
桜雅を見つけてぽてぽて走って来たのは、桜雅の弟の佑基。
学校帰りに保育園に迎えに寄ったのだ。
「こんにちは小柳さん」
「こんにちは園長先生」
「こんにちは小柳さん」
「こんにちは山野川さん」
保育園の人も、他の子供の親にも桜雅のことは知られていた。
それは単に弟がこの保育園に通っているからというだけではない。
「あそぼ!あそぼ!」
「こっち!こっち!」
「はいはい。今行くよ。それじゃあ園長先生、山野川さん、行ってきます」
「はい、よろしくお願いしますね」
「いつもうちの子と遊んでくれてありがとう」
桜雅は二人にそう告げると子供達の輪の中に入っていく。
「がおー!怪獣おうがだぞー!」
「きゃああああ!」
「逃げろー!」
「まーてー!」
子供達を追いかけ、身体に纏わりつかれ、肩まで登られ、楽しそうに園児達と遊んであげる。
その姿は昨日の夏奈とそっくりだった。
「…………」
その様子を夏奈は驚きの様子で見つめていた。
いや、羨ましそうな表情で見つめていた。
自分もあの輪の中に入って園児達と遊んであげたい。
桜雅が本当に子供が好きだなんてことは一目で分かったため、その驚きはすぐに消えたのだ。
「ところであなたは?」
「え、あ」
園長先生と山野川と呼ばれた誰かの母親。
その二人に不審な顔で見られて戸惑う夏奈。
桜雅が連れて来たので身元は保証されているのだろうが、それでも見知らぬ人がいるということに警戒するのは園児の保護者として当然のことだった。
「その、私は、小柳君のクラスメイトで……」
何なのだろうか。
友達でもない。
もちろん恋人なんかでもない。
それなのに何故自分がここにいるのか。
それが説明できず言葉が詰まり、より不審な目で見られてしまい焦ってしまう。
本当は桜雅が最初に紹介するつもりだったのだが、桜雅を見つけた弟達がすぐに遊びに誘いに来てしまったため出来なかったのだ。ゆえに桜雅は遠くからフォローをすることにした。
「園長先生!彼女は河川敷で子供達と遊んであげてる人です!」
「(そんなこと言っても伝わらねぇよ!)」
それは夏奈が自分についての近所での評判を知らないから思ってしまったことであり、園長先生も山野川もすぐに納得の表情になった。彼女が考えている以上に彼女は知られていて、子供達と遊んでくれる優しいお姉さんとして有名だったのだ。
「あなたがあの河川敷の姉御ですか」
「河川敷の姉御!?」
「お噂はかねがね」
「どういう噂ですか!?」
「良ければ子供達と遊んであげてください」
「喜んで!ってだからどういう噂……うう……行ってきます!」
噂の内容が気になるところだったが、子供達と遊んであげられることが嬉しくて聞き出すのを諦めた夏奈だった。
--------
「あ~楽しかった」
「楽しんでもらえたようで良かった。昨日の償いが少しでも出来たかな」
遊び疲れたのか、弟は桜雅の背中でぐっすりとお休み中。その温もりを幸せに感じながら、起こさないようにゆっくりと歩いている。夏奈はその隣を歩き、もう距離は空いていない。
「悪かった。昨日は私が言い過ぎだった」
「いやいや、謝るのは俺だよ。どう考えても気持ち悪すぎだったし」
「それはそうなんだが、小柳君が低俗な人間じゃないって分かってたのに、お前の弁解も聞かずに否定しまくってさ。最低だったよな」
「だから謝るなって。小清水さんは何にも悪く無いんだって」
「悪いさ。子供好きなことも信じなかったし、ほんと酷かった」
「あの流れならそれは仕方ないことだろ」
「仕方なくなんかないさ。同じ子供好きとして一番疑っちゃダメなところだし」
「いやだから」
「うにゅううう……」
「…………」
「…………」
謝罪合戦になりそうなところ、それを止めたのは弟だった。
可愛らしい寝言を言いながら身を捩られては、言い争いなんて出来るわけがない。
「ふふ」
「くくく」
子供の愛おしさは世界を平和に導くもの。
二人の間を流れる空気はとても柔らかいものになっていた。
「なぁ、昨日は何であんな気持ち悪いことを言ったんだ?私の身体が目当てって訳じゃないんだろ?」
「あ~どっちにしろ気持ち悪い話には変わりないぞ」
「良いから言えよ」
「分かった」
ポイントは桜雅が本当は何を欲しがっていたのかという点にある。
「最近の社会ってさ、子供をあまり作らない傾向にあるだろ」
「らしいな。嘆かわしいばかりだ」
「俺もそう思う。それに口にもしたくないような事件もあったりするだろ」
「考えるだけで胸糞悪いわ」
「だからさ、同じ子供好きの小清水さんと一緒に沢山の子供を作ったら幸せだろうなって思ったんだ」
「はいぃ!?」
桜雅の要望は夏奈の身体ではなく、子供が大好きな伴侶と共に沢山の子供に囲まれて家庭を築く未来を夢見ていただけだったのだ。
「あれはお礼の話だったのにどうしてそんな話になるんだよ!」
「しー、佑基が起きちゃう」
「…………悪い」
慌てて弟を確認するが、気持ち良く眠ったままだ。
ほっとした桜雅は夏奈の疑問に対して説明する。
「俺の中ではお礼だってことが抜けてたんだよ。小清水さんに何かして欲しいことは無いかって言われて、それならお互いに楽しくなれることが良いよなって思って、それで思ったのが子供に囲まれた幸せな未来の事だった。俺も小清水さんも沢山の子供達も満面の笑みで幸せに生活する。ただそれを素直に伝えたらプロポーズになっちゃうから、冗談めかして言ったらあんな感じになっちゃったんだ」
それはやはり気持ち悪い回答だった。
クラスメイトと子供を作り幸せな家庭を作る未来を想像してましただなど、鳥肌が立ってもおかしくない。
だが夏奈はそうではなかった。
桜雅の真意を聞いて分かってしまった。
「(確かにこいつとなら幸せに……って何考えてるんだよ!)」
保育園で子供達と遊んであげている桜雅は慈愛に満ち、心から子供達を大切にしている気持ちが痛い程伝わって来た。園長先生や他の保護者が桜雅を受け入れているのも、その気持ちが伝わっているからに違いない。
そして桜雅と全く同じ気持ちが自分の中にある。
桜雅と共に家庭を築いたのならば最高に幸せな家族になるだろう。
全く同じことを考えてしまったが故に、桜雅の考えを否定することなど出来るわけがない。
「(うう、どうしてこんなにも胸が……どうして小柳君の顔が見れないんだ……)」
素の自分を受け入れ、自分が大切に想っている物を自分と同じくらい大切にしてくれている。
しかも相手を気遣う優しさがあり、話がとても合い軽口を言い合うのが楽しい相手。
「改めてごめんな」
「…………あ、ああ。気にするな」
「俺が本当に子供好きだって分かってくれたっぽいし、これからはもう近づかないから」
「それは気にするな!というか昨日のアレは全部撤回するから!」
「え、良いのか?」
「……素の自分で話せるチャンスなのに逃せるわけないだろ」
本当は違う理由があるのだが、芽生えたばかりの気持ちを表に出すことは夏奈にはまだ出来なかった。
--------
とある日の学校での休み時間のこと。
桜雅はロリコン友人と雑談をしていた。
「桜雅殿、最近楽しそうでござるな」
「そうか?」
「恋でもしたでござるか?」
「な、なんでそうなる!?」
ガタッ。
桜雅が慌てた瞬間、背後から大きな音が聞こえて思わず振り返る。
すると立ち上がった夏奈を全員が注目していた。
「小清水さん、急に立ち上がってどうしたの?」
どうやら先ほどの音は夏奈が思いっきり立ち上がったことで鳴った音らしい。
「あ、いえ、驚かせてしまってごめんなさい」
夏奈はどうにか誤魔化して優雅にまた椅子に座る。
「なんだったんでござるか」
「さぁな。気にしなくても良いだろ」
また前を向いてロリコン友人との雑談に戻った桜雅の背を、夏奈が一瞬チラリと見たことに気付いた者は居なかった。
「それでなんだっけ、楽しそうな理由だったか?」
「そうでござる」
「新しい趣味を見つけてな、最近休みがそれで楽しいんだよ」
夏奈と遭遇して以降、桜雅は休みになると河川敷に向かい夏奈と一緒に子供達と遊んでいる。それに加えて時々一緒に保育園に弟を迎えに行き園児達と一緒に遊んでいたりする。子供好きの桜雅としては最高の日々を過ごしていたので、その幸せオーラをロリコン友人は察したのだろう。
「あれ、小清水さん何か嬉しそう」
「どうしたの?」
「何でもないですよ」
背後からそんな会話が聞こえてくるのだが、残念ながら桜雅はロリコン友人との会話の方に集中しているため耳に届かなかった。
だがそれは彼女達が印象に残らない日常会話をしているからにすぎない。
その内容は特筆すべきことが無く、桜雅が意識する必要も無いこと。
つまりその内容が気になることであれば否応が無しに耳に入って来てしまうということになる。
「そういえば昨日さ、帰ってたら滅茶苦茶煩いガキが走って来てさ。蹴飛ばしてやりたくなったよ」
それは夏奈の取り巻きの女子の一人。
何気ない日常の不満の一つも、子供に関する話題となれば子供好きの桜雅は気になってしまう。
「分かるー。なんでガキってあんなに煩いんだろうね」
「頭を叩いたら静かになれば良いのにね」
「ぎゃはは、大昔のテレビじゃあるまいし」
「子供とか絶対作りたくなーい」
「美香って車の中に子供置いてパチンコに行きそう」
「ぎゃはは、やりそうやりそう」
彼女達にとってそれは冗談かもしれない
だが子供好きの桜雅にとって、それは絶対に許されない話だった。
「子供なんて家政婦に任せれば良くね?」
「あったま良い!」
「それか旦那に全部やらせれば良いっしょ」
「ぎゃはは、女が育児とか時代遅れだっつーの」
「(あいつら……!)」
あまりにも子供を蔑ろにする言葉の連続に桜雅は怒り心頭だ。
桜雅以外のクラスメイトも不快に思っていたが、カースト上位の女子に文句を言おうものなら何をされるか分かったものでは無いため誰も何も言えないでいた。
「(小清水さんは平気かな)」
自分は聞きたくない話だったら逃げれば良いだけの話だ。
だが夏奈は違う。
彼女の取り巻きがその話をしているのならば、最低限相槌を打たなければならないのだ。
そっと背後を確認する。
「!?」
すると彼女は机の下で拳をきつく握り、感情が爆発するのを必死に耐えているでは無いか。
「(そこまでして清楚の演技を続けなきゃならないのかよ!)」
本当は否定したいはずだ、注意したいはずだ、逃げ出したいはずだ。
だが清楚という枷を己に嵌めてしまった彼女は感情を昂らせるわけにはいかない。
そうしてしまったら素が表に出てしまい、これまで彼女を慕ってくれた全ての人を裏切ることになってしまうから。
「(なら俺がやるしかない)」
桜雅は立ち上がり、夏奈の元へと向かおうとした。
その直前。
「むおっほん、むおっほん、桜雅殿、どうなされましたか?」
「お前……」
ロリコン友人の顔には覚悟が浮かんでいた。
「(いいのか?)」
「(幼きを愛する者として許せませんぞ)」
「(だがカースト上位の女子に歯向かったら後が面倒だぞ)」
「(元より嫌われている身、何も変わらんでござるよ)」
アイコンタクトでお互いの意志を確認し、ふっと笑い合う。
桜雅は立ち上がるのを止めて、ロリコン友人にいつもより大きめの声で話しかけた。
「ま~た幼女の話かよ。ロリコンにも程があんだろ。絶対に手を出すなよ」
「YESロリータ!NOタッチ!の精神ゆえ出さないでござる!」
「だからそれもキモいんだって。手を出すだけじゃなくて見るのも止めろよ。子供が怖がる」
「酷いでござる!危害を加えて無いのに!」
突然どうしたと教室中が桜雅達に注目する。
敢えて肝心なセリフの直前に間を開けて、より注目が集まるのを待った。
「確かに、子供を蔑ろにするような奴らよりもロリコンの方がマシかもな」
その瞬間、教室内が緊張感で満ちたのを誰もが感じた。
何しろ桜雅はカースト上位の女子達が最下位のロリコン男よりも人間性が下だと言っているのだから。しかも教室中に聞こえるような声量であることから、明らかに聞かせるための発言だ。
「真のロリコンは子供を愛でるものなり」
「やっぱりキモイわ」
「酷いでござる!でも桜雅殿はいつも拙者を人として扱ってくれるでござるよな」
「当然だろ。子供を虐待するような人でなしとは違うからな」
ロリコン友人と協力し、件の発言をした女子達を徹底的にこき下ろす。
お前達は最低な性犯罪予備軍以下であり、人ですらないクズだと主張する。
女子達は顔を真っ赤にして怒りに打ち震えた。
桜雅が敢えて直接伝えず、イヤミ度の高い間接的なやり方でネチネチと攻撃したのは、そっちの方がダメージが大きいだろうと思ったから。
『はぁ?何言ってるの?』『うざ』などと言った感じで軽く受け流させず、確実に心にダメージを負わせたかったから。
そしてその狙い通り、女子達はプライドが傷つけられ今にも怒鳴り出しそうだ。
「(これで少しは小清水さんの気が晴れたかな)」
ノーダメだったら意味が無かったが、ダメージを与えて怒らせたことで桜雅の狙いは達成された。少しばかりは夏奈も溜飲が下がっただろう。後は彼女達からの攻撃を残りの高校生活二人で耐えるだけ。
桜雅の中ではもうこの件について終わっていた。
「何よ!好き放題……」
ついに女子の一人が立ち上がって桜雅に口撃しようかと動き出したその時。
ガタッ。
夏奈がわざと音を立てて立ち上がり、その女子の発言を遮った。
「こ、小清水さん?」
ただでさえ一触即発の雰囲気だった教室中が更に静まり返り、何が起きるのかと誰もが困惑しながら彼女の様子を伺い、先ほどの会話に入らなかった女子が恐る恐る声をかけた。
夏奈の表情が清楚とは程遠くキリっとしていて、別人のようだったからだ。
彼女はその声かけに答えず、ポケットからゴムひもを取り出し、長い髪を高いところでポニーテールで括った。
「(おいおい、まさか)」
その行動の意味を理解出来たのは桜雅ただ一人。
夏奈は桜雅に視線を向けてニッと笑うとスタスタと彼の元へと歩き出す。
あまりにも堂々とした雰囲気で、取り巻きの女子達はついていけず彼女の行動を眼で追うことしか出来なかった。
夏奈は桜雅の元まで辿り着くと、思いっきり肩を組んだ。
「そうだよな!子供は宝だよな!」
「お、おい」
いいのか?
そう聞きたかったが、夏奈の顔つきに自信が満ちていたため無粋な問いかけは止めた。
「だがロリコン。てめーはダメだ!」
「そんなぁ!」
「まぁ子供の良さについて話をすることくらいは認めてやろう」
「なんでお前そんなに上から目線なんだよ」
「そりゃあこれでもカースト元トップの元清楚だからな。はっはっは」
「自分で言うな自分で」
夏奈の突然の豹変にクラスメイトは開いた口が塞がらなかった。
いきなり話しかけられてスムーズに反応したロリコン友人の評価がこっそり上昇した。
「な、何……どうなってるの!?」
「嘘……嘘でしょ……」
「わ、分かった。そいつに脅されてそんなことしてるんでしょ!」
自分達の言葉を否定し、桜雅の味方をし、キャラが激変したという現実を受け入れられなかったのだろう。そうであって欲しいという自分勝手な願いを口にする女子達だが、夏奈は振り返り反応することすら無かった。
「そういや桜雅。このロリコン、保育園のこと知ってるのか?」
「アレって何でござるか?」
「……教えるわけないだろ、夏奈」
「アレって何でござるか?」
「だよなー危なすぎるもんな」
「アレって何でござるか!?」
しかも敢えて名前を呼び捨てにし、共通の話題があることを暗に証明して関係性の深さを見せつける。
「(ありがとう桜雅。おかげで勇気が出せた)」
清楚を演じたのは夏奈の意志であり、本当のことを言い出さなかったのは夏奈の責任でもあるのかもしれない。だからこそ彼女はこれまで必死に清楚という偶像を演じ続け、皆の期待に応えて来た。それを自分勝手な都合で壊してしまうなど失礼だと考える人もいるかもしれない。
だがそれがどうした。
それは自分が本当に大切にしていることが侮辱されても守らなければならないことなのか。
桜雅が自分の今後の学生生活を犠牲にしてまで彼女達に反論してくれたことで、夏奈はやるべきことに気付いたのだ。
素の自分を見せてでも強く反論して戦わなければならない。
しかも仲間がいるとアピールしてくれているのに手を取らないなど子供好きとしてありえない。
枷から解放された夏奈は高揚していた。
言い換えれば暴走していた。
己の心のままに行動する。
その結果、彼女が隠していた気持ちですら公になってしまうのであった。
「そうそう桜雅。子供だけど何人作ろうか?」
「は?」
困惑していた教室内の空気が再度ピシリと固まった。
それは桜雅とロリコン友人までもだ。
「前に私と子供作ろうって話しただろ。それだよそれ。やっぱり四人くらいかな」
「あ、ああ、その話か。四人と言わず多ければ多いほど良いな」
「じゃあお互い頑張らなきゃな。妊活の勉強しなきゃ」
「ぶほっ!はぁ!?」
てっきり冗談を言っているのかと思いきや、妙に話が生々しい。それに夏奈の顔がとても赤くなっているではないか。
「な、なぁ。今更なんだが、俺で良いのか?」
「何言ってるんだよ。桜雅が良いんだ。桜雅以外に考えられない」
「そ、そうか。俺も夏奈が良い」
「なんだよそんなに赤くなって。これじゃあまるでぷろぽ…………ぬぉおおおおおおおお!」
「気付いてしまったか」
暴走して夢心地のままとんでもないことを口にしていたことに今更ながら気付いてしまった。
だがそのせいでクラス中が二人の関係を理解してしまった。
「何がどうなってるのおおおおおおおお!」
「スクープ!スクープだ!訳が分からないがスクープだ!」
「清楚な小清水様に彼氏が!いや元清楚!?あれ!?」
狂乱の中に件の女子達は埋没し、カーストトップの夏奈に批判されたことで彼女達は肩身の狭い高校生活を送る羽目になってしまう。そのことに苛立った彼女達は後に仕返しをしようと試みるものの失敗して高校を中退することになるのだがそれはまた別のお話。
大騒ぎの教室の中、一早く冷静になったロリコン友人は、親友に祝福の言葉を送った。
「子供が出来たら抱かせて欲しいでござる」
「断る!」
「断る!」
仲良く声を揃えて反対する二人は、将来本当にスポーツチームを作れるくらい沢山子供を作り、笑顔が絶えない幸せな家庭を築いたのであった。
なお、どのスポーツなのかは想像にお任せする。