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怪人に青春は出来ない!  作者: タケノコ
第1章 生徒会臨時雑用係
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第8話 鴨川先輩のクッキー?

 生徒会の“臨時雑用係”を拝命して、気がつけば数日が経っていた。


 広報ポスターの掲示、会議の議事録作成、資料のコピーや整理──まあ、雑用と呼ばれるものは一通りやらされている。あの、のんびりとエアコンの効いた生徒指導室で暇を持て余していた日々が、今では少し恋しく感じるくらいには、毎日てんてこ舞いだ。


 そして今日も例に漏れず、校内をぐるぐる歩き回りながら、古い掲示物の回収に勤しんでいた。


 ……いや、これ、ちょっと使い倒されてない?


 掲示板の前に立ち、画鋲抜きを手に、貼られた紙を一枚ずつ丁寧に剥がしていく。カチ、カチ、と外れる音が心地いい。


 ちなみにこの作業、地味だけどわりと好きだったりする。

 画鋲を抜くあの手応え、画鋲抜きの中に溜まっていく銀色の粒たち──ひたすら無心になってこなせる感じが、なんというか、作業してるって実感が湧くんだよな。


 ……と、ひとり黙々と画鋲と格闘していると──


 「やあやあ~、頑張ってるね~」


 間延びした声が、背後からのんきに響いてきた。


 「……なんですか、東雲会長」


 振り返ると、手にペットボトルを提げた生徒会長・東雲が、ひらひらと手を振って立っていた。


 「いや~、ちょっと飲み物でも買おうかと思ったら、君がこんなところで頑張ってたからさ~」


 「そうですか。意外と楽しいですよ、これ」


 そう言いながら、俺はカラカラと画鋲抜きを振って見せる。

 カチリ、と金属が鳴る音が妙に誇らしい。


 「おお~、それはよかった~」


 東雲は笑いながら、どこか楽しげに言った。

 ……まるで俺の雑用ぶりを見て、ちょっとした観賞用のペットでも眺めているような口ぶりだった。


 この人は、本当に――


 俺は、東雲会長のことがあまり好きではない。

 いや、初対面であんなことを言われたんだから、好きになれるわけがない。けれど、それを抜きにしても、どうにも言い表しづらい“怖さ”のようなものがある。


 「どうしたの~? そんな怖い顔して~」


 「いえ……別に、何でもありません」


 笑顔で話しかけられた瞬間、背筋に冷たいものが走った。


 ――やっぱりダメだ。


 怪人と相対する時とは別の、じわりと染み込んでくる不気味さがある。


 一刻も早く、この場から離れよう。


 「では、俺はこれで。掲示物、まだ回収が残ってますので」


 そう言って一礼し、踵を返しかけた、その時。


 「ああ~、ちょっとちょっと」


 背中から、引っかかるような声がかかる。


 「せっかく会ったからさ~、生徒会室に戻れる~? 別の仕事があってね~」


 「え? 掲示物の回収は……?」


 「ん~、それは明日以降でも大丈夫だから~」


 「そ、そうですか……」


 完全に主導権を握られている。言い返す隙すらない。

 不本意だが、逆らうのは得策じゃなさそうだ。


 「じゃあ、戻ろっか~」


 そう言って、東雲会長はふわりと手招きする。

 ……たったそれだけの動作なのに、何故か逃げ場を塞がれた気がした。



 生徒会室に入ると、いつものメンバーに加えて、九条先生の姿もあった。


 「おお、青木。その様子だと頑張ってるみたいだな」


 気楽そうに声をかけてくる。

 まったく、誰のせいでこうなってると思ってるんだか。


 「ええ、おかげさまで充実した日々を過ごしてます」


 皮肉を込めて返すと、九条先生はさらに無邪気に笑った。


 「おっ、いい心がけだな。東雲、こいつもっと仕事ほしいらしいぞ」


 「ええ~、じゃあもう全部やってもらおうかな~」


 好き勝手なことを言ってくれる。


 と、心の中で毒づいていると、目の前にそっとクッキーが差し出された。

 差し出してきたのは金目先輩だった。


 「大変そうだな。クッキー、食べるか? 鴨川が作ってきたんだよ」


 「ありがとうございます。頂きます」


 手にした荷物を適当な場所に置き、ソファに腰を下ろす。

 そして、渡されたクッキーを口に運ぶ。

 ポリッ、と軽快な音が鳴る。


 ──素朴な味だ。


 飛び抜けて美味いというわけではないけれど、どこか安心感がある。

 しかし、それより意外だったのは、鴨川先輩がこんなものを作るという事実だった。

 見た目にはどう見てもドジっ子属性なのに、手作りお菓子とは意外すぎる。


 「これ、美味しいですね」


 「えっ、本当⁈」


 鴨川先輩がパァッと顔を輝かせる。


 「これね、お母さんと一緒に作ったんだ~。私は型抜きと味見担当!」


 ……なるほど、どうりで“母の味”っぽいわけだ。


 というか、型抜きと味見って、それ……ほぼ何もしてなくない?


 「鴨川さん、それは“お母様の作ったお菓子”と表現すべきでは?」


 旭野先輩が、俺の心の声をそのまま代弁してくれた。


 「型抜きは立派な作業でしょっ⁈」


 「味見は否定しないのね……」


 旭野先輩は眉間を押さえつつ、ため息をひとつ。


 「私も食べたいな~」


 と、今度は東雲会長がふわっと鴨川先輩に詰め寄る。


 「もちろん、会長の分もありますよ!」


 鴨川先輩は笑顔で小皿に数枚クッキーを取り分けて、会長に差し出した。


 「はい、どうぞ!」


 ……ていうか、なんでわざわざ小皿に分けるんだ?


 見回すと、どうやら全員に小皿でクッキーが配られているらしい。

 いつの間にか、俺の前にも置かれていた。別に、大皿から直接取ればいいのに。


 「ありがとね~」


 東雲会長はクッキーを一枚つまみ、ぱくりと食べる。


 「美味しいね~、これ~」


 と言いながら、もくもくと食べ続け……ふと、手を止めた。


 「でもさ~、私、あの花型のクッキーも食べてみたいな~」


 「……え?」


 鴨川先輩がぴくりと反応する。


 花型のクッキー?

 そんなものあったか?


 気になって自分の小皿を見るが花型のクッキーなど乗っていない。


 念のため他の人の皿もちらっと確認してみたが──

 ……あった。金目先輩の小皿にだけ、数枚の花型クッキーが並んでいた。


 「ねえ金目くん、花型クッキー、美味しかった~?」


 「え? ああ、言われてみれば、ちょっと味が違ったような……」


 顎に手を当てて考え込み始める金目先輩。

 だが、次の瞬間。


 「わ、わ~~っ!」


 鴨川先輩が真っ赤な顔で腕をぶんぶん振りながら、金目先輩の言葉を遮った。


 「く、九条先生っ!」


 「おっ?」


 先生はクッキーに夢中だったのか、意外そうに顔を上げる。


 「先生、生徒会に来たのって、何か用事があったんじゃないんですか⁈ 会長も青木くんもいるし、さっさと話しちゃいましょうよ!」


 焦りながら早口でまくしたてる鴨川先輩に、九条先生は苦笑しながらクッキーをもう一口。


 「そうだったな。いや、ついクッキーが美味しくてね……これぞ“乙女の味”ってやつだな」


 ──うん、それたぶん九割お母さんの功績です。

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