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怪人に青春は出来ない!  作者: タケノコ
第1章 生徒会臨時雑用係
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第18話 学校の戦い

この街に出回っている怪人カプセル。

それを体に取り込めば、超人的な力を得られる。

だが、その代償として肉体は異形へと変わる。


火を噴く者。

空を飛ぶ者。

毒を操る者。


能力は実に多彩だ。


このカプセルが誰によって作られ、何の目的で存在しているのか――俺には分からない。

ただ一つ分かっているのは、俺が責任を果たすために戦ってきたということだけだ。


けれど、今回は――。


蜂怪人の鋭い針を紙一重でかわしながら、俺は反撃の隙を探る。


「ああ、クソッ!」


「あら? 全然反撃してこないじゃない。やる気あるの?」


からかうような声とともに、針が振り下ろされる。


「そんなに後ろの四人が気になるのかしら?」


蜂怪人は俺から距離を取ると、両腕の形状を変化させ始めた。

皮膚が波打ち、無数の細い針がびっしりと生え揃っていく。


嫌な予感が背筋を走る。


「それはマズいだろ!」


言い終わるより早く、蜂怪人は腕を大きく振り抜いた。


――散弾。


無数の針が、弾丸のように乱れ飛ぶ。

俺は咄嗟に四人へ覆い被さると、背中の形状を変化させた。

普段はブレードを生成する部位だが、イメージ次第で形は変えられる。


固く。

広く。

包み込むように――!


黒い外骨格が膨れ上がり、即席の盾を形成する。


ガン、ガガガンッ――!


鈍い金属音が連続して響いた。

目の前には、不安そうに俺を見上げる九条先生の顔。


「へぇ……そんなこともできるのね」


蜂怪人の声が響く。

背中に生成した盾が、耐え切れずにひび割れ、崩れ落ちた。

俺はゆっくりと立ち上がる。


「場数が違うんでね……」


だが、内心は冷や汗だ。

もうあの盾は作れない。

ブレードの生成すら重いのに、あんな大きな盾をもう一度なんて無理だ。

次にあれを撃たれたら、防ぐ手段はない。


「先生、金目先輩を連れて、できるだけ遠くに――」


言いかけて、俺は言葉を失った。

九条先生が足を押さえている。

その足元には、小さく滴る血。


「すまない……そうしたいのは山々なんだが、動けそうにない……」


盾に隙間があったのか。

守り切れなかった。


「先生、すいません……」


「君の……せいな訳が、ないだろ……」


か細い声。

それでも先生は顔を上げ、鴨川先輩を見る。


「東雲、鴨川……金目を……引きずって、そこの教室に……」


「でも先生は!?」


東雲会長が叫ぶ。


「私はいい。早く……!」


二人は一瞬躊躇うような素振りを見せたが、迷いを振り切るように、金目先輩を抱え、教室へ向かう。


「あらあら、金目君に抱きついて仲良しね」


蜂怪人が再び腕に針を生やし始める。

狙いは、明らかだ。


俺は地面を蹴り、その腕に飛びついた。


「殺す気ですか!?」


「そうだけど!」


反対の腕が振り抜かれ、俺は壁へ叩きつけられる。

それでも腕を離さない。


歯を食いしばり、そのまま蜂怪人を床へと投げ飛ばした。


「ギッ!」


短い悲鳴。


正直に言えば――強くはない。

以前戦った蜘蛛怪人の方が何倍も厄介だった。


ブレードを一閃させれば終わる。


だが、それはできない。

そうすれば中の旭野先輩まで死ぬ。


俺の目的は撃破じゃない。

分離だ。


「アハハ! イタイイタイ。女の子に最低ね」


蜂怪人は楽しそうに笑いながら立ち上がる。


分離方法――。

光太郎さんはどうやっていた?


思い出せ。


「旭野先輩、随分上機嫌ですね。そんなに楽しいですか!」


懐へ潜り込み、そのまま顎へアッパーを叩き込む。

再び床へ倒れる蜂怪人。


光太郎さんは、怪人にある程度ダメージを与えた後――


強制的にカプセルを“拒絶させていた”。

肉体が耐え切れなくなった瞬間、怪人と本体の結合が緩む。


なら――限界まで追い込む。


「旭野先輩!あんた、本当はこんなこと望んでないだろ!」


「うるさいッ!」


蜂怪人の針が俺の肩をかすめる。

焼けるような痛み。


毒が回っているのが分かる。

視界が、少し揺れる。


それでも俺は踏み込む。


「俺とあんた、似てるって言ったよな!」


ブレードを生成する。

震える腕で、しかし刃は鋭く伸びる。


「踏み出せなかっただけだろ!」


一閃。


蜂怪人の外骨格が大きく裂ける。


「ギャアアアッ!」


悲鳴と共に、黄色い体表が不安定に揺らぐ。


今だ――!


俺は胸元へ手を突き立てた。


外骨格の奥。

異物の鼓動。


これがカプセル――!


「返せよ……!旭野先輩の体だろ!」


渾身の力で、それを引き抜く――。


――ビキィッ!!


外骨格が悲鳴を上げるように軋み、ひび割れが全身へと走った。


「や、やめ――ッ!」


蜂怪人の声が、初めて恐怖に染まる。

カプセルが抜けた瞬間、蜂怪人の体が大きく仰け反った。

黄色の外殻が崩れ、内側から人の腕が覗く。


「旭野先輩!!」


俺はその体を無理やり引きずり出す。

ぬめりを帯びた外骨格が裂け、その中から――


制服姿の旭野先輩が、吐き出されるように転がり出た。


「はっ……はぁ……」


荒い呼吸。

虚ろな瞳。


俺はすぐに彼女を抱え、後方へ放る。


「九条先生!頼みます!」


先生は足を引きずりながらも、必死に旭野先輩を受け止めた。


「青木……君は……」


振り返る。

そこに立っていたのは、カプセルを失い、形を保てなくなった蜂怪人。

肉塊のように歪み、狂ったように毒針を振り回している。


「オオ……オオオ……」


理性はない。

残っているのは、本能だけ。

俺はゆっくりとブレードを生成する。


――終わらせる。


「旭野先輩は、返してもらった」


黒い刃が光を反射する。


「お前だけだ」


蜂怪人が最後の力で突進してくる。

俺は踏み込んだ。

すれ違いざま、


一閃。


静寂。


次の瞬間、蜂怪人の体が縦に裂ける。

遅れて、崩れ落ちた。

黒い肉塊は音もなく崩壊し、灰のように風に溶けていく。

残ったのは、静まり返った廊下と、荒い自分の呼吸だけだった。

ブレードが霧散する。

膝が、崩れ落ちる。


「……はぁ、はぁ……」


視界の端で、九条先生が俺を見ている。

その顔はどこか困惑と安堵が見て取れた。


「青木……」


俺は苦笑する。


「後で、ちゃんと説明しますよ……」


そのまま、床に倒れ込んだ。

遠くでサイレンの音が近づいてくる。

旭野先輩は生きている。

金目先輩も、まだ間に合うはずだ。


――守れた。


意識が暗闇に沈む直前、

俺は初めて、ほんの少しだけ安堵した。

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