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怪人に青春は出来ない!  作者: タケノコ
第1章 生徒会臨時雑用係
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第9話 先生の頼みごと

 クッキー騒動が一段落したところで、九条先生がわざとらしく咳払いをひとつ。


 「さて、君たち。今がどんな時期かわかるか?」


 ピン、と張り詰めた空気を最初に破ったのは――鴨川先輩だ。

 バッ!と勢いよく手を挙げる。


 「お〜、元気だな鴨川。じゃあ言ってみろ」


 「はいっ! もうすぐ中間テストがあります!」


 ……あ、そうだ。もう五月か。

 やばい、俺、何もしてないな。


 「おお、そうだったな。で、勉強のほうは進んでるか?」


 「何もしてません!」


 即答。元気いっぱいに言い切った。

 ……この人、強い。色んな意味で。


 「それを教師の前で堂々と言える度胸。嫌いじゃないよ」


 九条先生は肩をすくめてため息ひとつ。次の矛先は金目先輩へ。


 「金目、君はどうだ?」


 「そうですね……」


 腕を組んでしばらく考え込んだあと、ぽんと手を打つ。


 「そういえば去年は新入生歓迎会やってましたよね?」


 「お、よく覚えてたな」


 九条先生が満足げに頷く。


 「そりゃあ、自分が生徒会に入ったきっかけが、その歓迎会でしたから」


 「ああ……そうだった。でもあれは君が悪い。参加してた女子に片っ端から声かけてただろう?」


 「ええ、それで東雲会長に声をかけたのが全ての始まり出したから……」


 「えへへ、覚えてるよ。嬉しかったな〜、声かけてくれて」


 東雲会長が少し頬を染めながらはにかむ。

 その様子を呆れた様子で九条先生が見つめる。


 「もう少しやり方があっただろう?」


 「ほら、恋愛は積極性が命じゃないですか」


 「限度ってものがある。あのあと、自分が何て呼ばれてたか知らんのか?」


 「絶世の美少年ですか?」


 「ド変態ナンパ師だ」


 「……知ってますよ。しばらく女子の視線が痛かったですから」


 金目先輩はなぜか誇らしげに頷く。

 ……この人、そんなことやってたのか。


 横を見ると――案の定、鴨川先輩の表情が怖いことになっていた。笑顔ゼロ。

 逆に旭野先輩は無表情で、完全にスルーしている。慣れてるのか、それとも興味がないのか……。


 そんな観察をしている間に、九条先生が手元のプリントを取り出した。


 「さて。今年もその思い出深い歓迎会を実施することになった」


 そう言いながら、少しだけ表情を曇らせる。


 「本来なら四月にやる予定だったが……知っての通り、あの誘拐事件があったからな。市全体で警戒が強まり、行事も制限されていた」


 「それで今からなんですね?」


 「ああ。企画自体は進んでいて、あとは実行するだけの段階で延期になっていたんだ」


 机に置かれたプリントを東雲会長が手に取り、“ふむふむ”と目を通す。


 「体育館で立食形式。交流を深める会ですね〜」


 「例年通りだな」


 九条先生が苦笑する。


 「面白味がないなんて思ってませんよ〜。新しいこと考えるの、大変ですし」


 「助かるよ。で、君たちには特別ゲストとして参加してほしい。ついでに設営も手伝ってもらえると助かる」


 「私は予定ないので手伝いますよ〜。皆はどう? 今週の土曜日だけど?」


 「私は大丈夫です!」


 「私も行けます」


 鴨川先輩と旭野先輩が即答。


 「おお〜、ありがと〜」


 東雲会長の視線が金目先輩へ移る。


 「で、金目君は?」


 金目先輩は腕を組み、やけに真剣な顔で天井を見上げた。


 「……ふむ」


 沈黙。長い。なんだ、この溜めは。


 「……予定は?」

 

 東雲会長が促す。


 「いやぁ……その日は勉強をしようかと」


 「え?」

 

 旭野先輩と鴨川先輩の声が同時に漏れる。


 「ほら、中間テスト近いじゃないですか。今のうちにしっかりやっておこうかと」


 旭野先輩が無表情のまま口を開く。


 「……普段からやってないのに、その日だけやっても変わらないでしょう」


 「ぐっ……そ、それは……」


 鴨川先輩も冷たい笑みを浮かべる。


 「つまり暇ってことだよね?」


 「い、いや暇ってわけじゃ……」


 「暇なら決まりですね。ちゃんと手伝いに来てください」


 金目先輩は肩を落として観念したようにため息をつく。


 「……わかりましたよ。行きます、行きますって」


 「よろしい」


 鴨川先輩が満足そうに頷いた。

 ……なんだこの上下関係。


 「じゃあ全員参加で決まりだな」


 九条先生が締めくくり、プリントを東雲会長に返す。

 東雲会長はにこやかに皆を見回し、ゆるい声で言った。


 「じゃあ、今週土曜は体育館集合ね〜」


 「了解でーす!」と鴨川先輩。

 「わかりました」と旭野先輩。

 「は〜い……」と金目先輩。


 そこで、東雲会長の視線がふいに俺へと向く。


 「で、青木君は?」


 「え? 俺?」


 「当然だよ~。だって新入生でしょ? 歓迎される側なんだから~~」


 「いや……別に俺は……」


 「それに“臨時雑用係”でもあるし、設営もお願いね〜」


 「え、二役!?」


 「まあ、諦めろ」


 と九条先生がさらっと言う。


 「……はい」


 ――こうして俺は、新入生として歓迎されつつ、同時に会場設営要員として強制参加が決定したのだった。

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