表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪人に青春は出来ない!  作者: タケノコ
序章 怪人のいる街
1/13

プロローグ

 街の外れにある、古びた廃工場。

 割れた窓から差し込む月明かりが、埃まみれの床や錆びた鉄骨を淡く照らしていた。


 ……雰囲気だけなら、ちょっとしたアート作品みたいだ。

 でも今の俺にそんな感傷に浸ってる余裕はない。


 「……っ」


 目の前で、何かがうめいた。

 人間のようで、人間じゃない“それ”が、床に膝をついていた。


 八つの目を持つ顔。背中には巨大な蠍の尾。

 見た目は完全に化け物。けど、血を流して苦しむ姿はどこか哀れでもある。


 「ま、待て……頼む……」


 蠍怪人が震える声を絞り出す。

 全身はすでにボロボロで、息も絶え絶え。

 それでも、よろよろと立ち上がろうとしていた。


 「見逃してくれ……っ。あいつらは、俺をいじめてた連中なんだ……! 俺は、正当な仕返しをしただけだろ!?」


 目に浮かぶのは怒りか、涙か。

 だけど――そんな理屈、もう通用しない。


 「……いじめられてたのは、気の毒だと思うよ。でもな」


 俺は怪人を睨みつけた。


 「お前が殺したのは五人。そのうち、二人は小学生だった。……そいつらも、お前をいじめてたのか?」


 怪人は何も言わない。

 答えは沈黙の中にあった。


 「もう……お前は、ただの殺人鬼だ。人じゃない」


 その瞬間、怪人の目が見開かれた。

 叫び声とともに、蠍の尾がこちらに振り下ろされる。


 「だから――」


 俺は拳を握った。


 「もう、眠れ」


 振りぬいた拳が、怪人の顔面を叩き砕く。

 骨が砕ける感触と、手にまとわりつく生臭さ。

 そして怪人は、そのまま力なく崩れ落ち、ボロボロと黒い灰になって消えた。


 ……何度やっても、この瞬間だけは慣れない。


 怪人とはいえ、元は人間だった存在。

 俺がやってることは、ある意味“人殺し”と変わらないのかもしれない。


 床に残された灰の中から、ひときわ光る何かが見えた。

 そっと拾い上げると、それは小さなカプセル。

 透明な中に、蠍のような影がゆらりと浮かんでいる。


 「……こんなもので」


 苦い気持ちを噛み殺して、カプセルを握りつぶす。

 カシン、という音とともに、中身はただの粉になって風に舞った。


 ふぅ……と息を吐くと、体から白い煙が立ちのぼる。

 ――人間の姿に戻っていく。


 怪人退治を始めて、もう三年。

 そして今日からは、晴れて高校生になった。


 だけど、こんな生活で“普通の高校生活”なんて送れるのか。

 そんなことをぼんやり考えながら、俺は夜の工場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ