1.本音は心の中に秘めたまま
将→紗貴
――まただ……
将は、紗貴に判らない様にそっと溜息を付いた。
ずっと想いを寄せていた少女が帰って来た。
今年の春からは、同じ中学校に通う事になる。
―― 言おう……
きっと、出会った時から惹かれていた。
だから、気持ちを伝えようと心に決めていた。
だけど、春休み……
毎日の様に道場に通い詰める中、判ってしまった。
「さっちゃん隙アリ!」
言いながら、手に持つ竹刀で軽く紗貴の額を突く。
「え?あ……将くん……」
慌てて額を両手で隠しながら、紗貴が将を見た。
――俺ヲ見テ
「ぼおっとして……どこ見てたの?」
将の問い掛けに「うっ」と言葉を詰まらせる。
――俺ノ気持チニ気付イテ
「判り易いよ、さっちゃん」
何時の間にか、逆転した身長差。
余裕の笑みで紗貴の頭を軽く撫でれば、顔を真っ赤にして見上げて来る。
「そんなに……判り易いかな?」
「まあ、少なくとも俺には。だって……」
――ずっと君を見てるから
そんな本音はそっと隠して。
「幼馴染み……だからね」
紗貴の視線が向けられた場所には、一人の少年が立っていた。
すぐに、気付いてしまった。
紗貴の気持ちに。
――どうせ叶わない想いなら
せめて、傍に居させて……
「ま、何かあったら俺に言いなよ?力になるから」
傷む心を見て見ぬ振りをして、微笑めば。
「ありがとう」
嬉しそうに
何処か気恥ずかしそうに
何の疑心もなく、素直に紗貴も微笑んだ。
――好きだよ……
今にも飛び出しそうな本音は、心の奥にしまい込んで。
“男”として傍にいることが叶わないのなら
せめて
“友人”として、君に一番近いところに居たい
●本音は心の中に秘めたまま
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