(付録)りっぱな犯罪、パート2
沙羅夢幻想本編 第十章 読了後 推奨!!
第十章までお読みいただいてからだと、
よりお楽しみいただけるかと思います。
今回は、瑞智家で開催された「流しそうめん大会」
夏休みのとある平凡(?)な風景をお届けします!
「あいうえお作文」お題にちなんで、
全て繋がっているお話です。
そのつながりも一緒に、お楽しみください♪
※ 単話でもお楽しみ頂けるよう心がけております♪
気になるお話しだけでも、チラッと読んでみてくださいね☆
「璃庵?」
腕の中から、不思議そうな声が聞こえて来る。
だが、璃庵自身それどころではなかった。
実は、ずっと見守っていた。
当たり前だ。璃庵の中に、翠琉を独りにするという選択肢そのものがないのだから。
それでも、独りになりたいときもあるだろうと、遠慮してそっと遠くから見守っていたのだ。
遠慮なく、語らい合い、笑い合うことが出来る由貴に仄暗い感情を抱いたのは確かだ。
そこに槃も加わって、3人で楽しそうに話す声に耳を傾けながら、そっと壁に背中を預けて目を閉じていたのだが。
「!?ッ……いっ……」
翠琉の、そんな声にバッと壁から背を離すと振り返る。
「だあから!!言わんこっちゃないッ……ちょっと、見せてみ……」
言いながら、由貴の手が翠琉の唇に触れそうになった瞬間。
気付けば、璃庵は翠琉を右腕で抱き上げていた。驚いたように見開かれた、澄んだ夜空の様な瞳に写っている自分の、なんと醜いことか。
徐に左手で唇に触れれば、赤い雫がその指先を濡らす。
「……失礼する」
言うなり、璃庵は翠琉を抱き上げたまま歩き出した。由貴と槃の視線を気にする余裕など、ありはしない。
辿り着いたのは、鴻儒家の墓だ。
そこにある、ちょうど座り心地の良い岩に翠琉を腰掛けさせる。
「気を付けろと、あれほど言ったのに……」
翠琉の前に屈むと、そっと翠琉の両頬に手を添えて、唇に滲む血を親指の腹で優しく、傷に触らない様に拭う。そして、そっと額に、頬にと啄むようなキスを贈った。
最後に、長い濡羽色の髪を一房掬い上げると、そっと唇を寄せる。
「……璃庵……?」
不思議そうに、怪訝そうに名を呼ばれ、ハッとしたのは璃庵だ。
バッと勢いよく離れる。
「俺はッ……なんてことッ……」
そう呟いたあと、深い、深い溜息を吐いてから、翠琉に尋ねる。
「翠琉、怪我の具合はいかがですか?」
「大丈夫だ。直ぐに塞がる」
翠琉の言葉通り、もう、そこにあったはずの切り傷は消えていた。
「ああ……加護を受けているのですね」
「……加護?」
その璃庵の言葉に、翠琉は首を傾げるばかり。
「ええ……ご尊母様は天上界に縁があると聞き及びました。恐らく、ですが……ご尊母様によるもの、ではないでしょうか?」
「かか様の……」
―― 深い業を背負わせてしまった……
―― 兄たちの運命まで、託してしまった……
ならば、せめて……
「痛い想いをなるべくしないように……傷痕が残らない様に……」
―― そんな切なる願いを込めて……
「……バケモノ、だから……傷もつかないのではなく……」
茫然と呟く翠琉に、璃庵はゆっくりと頷いて淡く微笑む。
「はい。これは、間違いなく……貴女を想う“願い”の力です」
僅かに見開かれた瞳が揺れて、一筋の涙が零れ落ちる。
何とか、涙を堪えようとぎゅっと膝に拳を握りしめて、唇を噛みしめる。
そんな翠琉の姿に、璃庵は溜息を一つ零してからそっと近付くと、優しく抱き寄せて背中をあやす様に撫でた。
しばらくして、落ち着いた翠琉がスンと鼻を啜りながら璃庵に気まずそうに言う。
「本当に、璃庵には泣き顔を見られてばかりだ」
苦笑で応える璃庵に、更に翠琉は言葉を重ねる。
「そういえば、どうして敬語なんだ?」
その問い掛けに、一瞬だけ璃庵が固まったように見えたのだが、きっと気のせいだろう。
「……主様のご家族がお眠りになられている場所ですから……」
璃庵の、その応えに合点がいったらしい翠琉は、小さくコクリと頷く。
「ありがとう、璃庵……ちょうど父様達に今日のことをご報告したかったんだ」
言って何の邪念もない微笑みを浮かべると、腰を上げた。
そして、そっと墓碑の前に屈むと手を合わせる。心の中で語りかけるのは、大切な家族だ。
今日あった楽しかったこと、嬉しかったこと、驚いたことを思い出しながら、ひとつひとつの思い出を丁寧に心の中で思い出す。
そんな翠琉の背中を見つめていた璃庵が、ふと空に浮かぶ月に視線を移して独り言をポツリと呟いた。
「本当に……大人しくしていなさい。立派な犯罪ですよ?」
それは、一体誰に向けた言葉だったのか。
璃庵のみぞ知ること、である。
● り りっぱな犯罪、パート2
/(c)永遠少年症候群
「事実は小説より奇なり」とは、現実の世界で実際に起こる出来事は、空想によって書かれた小説よりもかえって摩訶不思議であるという意味のことわざ。
イギリスの詩人バイロンの作品「ドン・ジュアン」中の一節から生まれた表現である。
☆ お付き合いいただいてありがとうございました!!!




