な なんでこんなことに
沙羅夢幻想本編 第十章 読了後 推奨!!
第十章までお読みいただいてからだと、
よりお楽しみいただけるかと思います。
今回は、瑞智家で開催された「流しそうめん大会」
夏休みのとある平凡(?)な風景をお届けします!
「あいうえお作文」お題にちなんで、
全て繋がっているお話です。
そのつながりも一緒に、お楽しみください♪
※ 単話でもお楽しみ頂けるよう心がけております♪
気になるお話しだけでも、チラッと読んでみてくださいね☆
ずいぶんと陽が傾いてきた。夕焼け空から夕闇が広がるころ、漸く流しそうめん大会は開催された。
「え、これ私が知ってる流しそうめんじゃないんだけど!?」
驚きの声を上げたのは紗貴だ。蘭子は顔を顰めて、翠琉はぽかんとしてる。
「そういう反応になるよな、普通は」
うんうんとしたり顔で頷くのは槃だが、この虎のオブジェの様な流し素麺器作成に一役買っていることは言うまでもない。
「またなんで、こんなことに……」
ため息交じりに蘭子が呟けば、フッと微笑んで緋岐が応える。
「翠琉が、虎を好きだと言ったからだ……いいか、虎だぞ?断じて白虎ではないッ!!」
ドン引きである。が、ドン引いてないのが3名いた。
「っていうか、ジュデームとかジャングルとか種類があること初めて知ったよな」
うんうんと頷きながら謎な種類を爆誕させているのは、言わずもがな由貴である。
「ジュデームって、何かエロいよな……それ言うならアムールだな。ジャングルはベンガルだけど、俺的には、炊飯ジャーなイメージなんだよな……」
指摘しながら、更なる謎発言をするのは敦だ。
「それ言うんやったら、魔法瓶やろ」
何と乗っかったのは蕎だった。
そんなやり取りを横目に、翠琉を気にかけるのは周だ。
「翠琉姉様?」
周の呼び声に翠琉はビクリと肩を揺らす。
「どうかしたんですか?」
不思議そうに尋ねれば、おずおずと口を開いた。
「その……判ってはいるんだ。兄様は、皆の為にこの虎を制作なさったのだと……ただ、それが……私が好きなものだから、という理由であることが……その……嬉しくて……」
段々と尻すぼみになっていく声と共に、段々と翠琉は俯いてしまった。
だけど、その耳は、真っ赤に染まっていて。
「誰かに……その、私が好きだからと……何かを作ってもらったことが、初めて、で……」
最後は、囁く様な声になったのだが、しっかりと皆の耳に届いた。
―― その瞬間……
「これからは、いつでも、兄様が翠琉の作ってほしいものを作ってあげるからな?」
「緋岐!!?いつの間に!!???」
イイ笑顔で、さも当然のように翠琉の肩を抱き寄せながら言い放つ緋岐に驚きの声を上げたのは将だ。
確かに、ついさっきまで隣にいたはずだ。どうしてそこにいるんだ。
「お前は忍者か。匠の次は、忍者なのか?」
蘭子が呆れたように言えば、「何とでも言え」と不敵な笑みを浮かべて、緋岐はビシッと空を指さす。
「もしも、翠琉が海の中に道を作ってほしいと言えば、作ってみせる!!」
「モーゼかいな」
「空飛ぶ亀が欲しいというなら、捜して来よう!!」
「ガ●ラやないかい」
蕎のツッコミが冴え渡るが、緋岐は何のその。
「これからは、何が好きなのか。どんなことが楽しいのか……兄様と一緒に、見つけて行こうな?」
―― 璃庵じゃなくて、俺と!!
そんな隠された副音声に気が付いたのは、紗貴、将、そして蘭子だ。
「いい話で終わらにところが、緋岐くんだよねー」
「本当に、残念な男だな。あれか?遠慮、常識、羞恥心をどこかにかなぐり捨てて来たのか?」
「蘭子さん、サイン、コサイン、タンジェントみたいに言わないでよ」
あんまりな反応である。
「とにかく!!流しそうめん、はじめようぜ!!腹減った!!!」
待ちきれないと言わんばかりに声を上げたのは槃だ。
余談だが、正宗、鋭、由樹、そして桜の大人組は、テーブルについて一足先に宴会と言う名の食事をはじめている。
「行きますよ」
璃庵が少し高いところから声を掛ければ、全員が頷いた。
その視線は真剣そのものだ。
全員、箸を構えて待って行ったのだが……
「よっしゃ!!素麺ゲットだぜ!!」
勝ち鬨の声を上げたのは、槃だった。
「俺の勘は、当たるんだよ」
言いながら戦利品である素麺を啜る。
説明しよう。
この、虎の形をしているそうめん流し器は虎の縞模様の部分が枝分かれしており、そこにそうめんが流れるようになっている。
つまり、一方通行の様にただ流れて行くのではなく、枝分かれしていくので、どの竹を流れるのかは運次第なのだ。
ちなみに、一番最後は合流して、掬いきれなかった素麺は虎の口から水と共に流れ出る仕組みだ。
「なんだ、この“あみだそうめん”は……絶妙に、イラッとするな。あとで一発殴らせろ、ヘタレッ!!」
残念ながら、ハズレの縞模様で待ち構えてしまった蘭子は、苛立ちを隠さずに緋岐を睨みつける。
「あみだそうめんとか、初体験だな!!」
「スリル満点だけど、このスリルはいらないなー」
「寧ろ、初体験やない方がおかしいしな」
とは、由貴、敦、そして蕎の会話である。
「なんかさ、マーライオンみたいじゃない?」
「マーライオンだな」
「だから、どこかで見たことがあるなあって思ったんだ!」
これは、紗貴、蘭子そして将の会話だ。
どうこう言いつつ、ワイのワイのと賑やかに“流しそうめん大会”改め“あみだそうめん大会”は終了した。
もちろん、桜主導に紗貴、蘭子、翠琉、そして周が作ったおかずも美味しく頂いた。
天灯を飛ばす時、とても強い気持ちを込めたのであろう。「お前は二度と戻って来るな。死ね。もげろ」と書かれている、大変物騒な天灯もあった様な気がしたが、気にしたら負けである。
皆がそれぞれの想いを託して、天灯を空に放つ様は、とても幻想的で……
「ファイヤーイリュージョンマスターだったなんてッ」
「炎のマジシャンって今度から呼ぼう」
「呼ぶなッ!!!」
―― とても、幻想的だったのだが……
案の定と言うべきか、由貴、敦、そして槃のテンポの良い漫才が、しんみりとする間もなく場を明るくしたのだった。
そうして、いよいよ最後に花火をしよう!!となった時……悲劇、ではなく喜劇は起こった。
「はー……喉、渇いた……おじいちゃん、これもらうね?」
「ちょっと!!紗貴ちゃんそれはダメッ!!!」
野球の試合に夢中な大人組のところに、サンダルを脱いで紗貴が近付いたと思ったら、由樹の静止も空しくテーブルにあったグラスを一気に飲み干した。
「あー……それ、芋焼酎の、水割り……」
「紗貴ッ!なんでこんなことにッ!!あれほど、呑むなってッ……」
由樹の声を遮るように現れたのは、まさかの緋岐だ。
そこからの行動はとても素早かった。
よいしょっと消防士搬送……いわゆる、お米様抱っこで紗貴を抱き上げる。
「ちょっと、行ってくるから……絶対に来るなよ!?覗くなよ!!?」
「あはは~……ひきくんの、うなじみえてる~」
「こら、紗貴噛むなッ!!!もう少し大人しくしてろッ」
―― 全くもう……
なんて言いながらも、まんざらでもなさそうなことは、喜色の滲む声音からも判る。
「何や、消防士搬送かいな」
「消防士搬送って言うなよ。せめてファイヤーマンズキャリーって言えよな」
「お!?ファイヤーコンビか、先輩と槃!!」
「止めろ、敦……マジ、止めろッ……なんだそのコンビダサすぎるッ!!!」
「姉ちゃん、どうしたんだろうな???」
年少組の噛みあっているようで嚙み合っていない会話をよそに、将と蘭子はちょっとだけ心配そうに、緋岐と紗貴が消えて行った方向を眺めながら言う。
向かった先は玄関のようだ。
「あーあ、さっちゃん……大丈夫かな?」
「大丈夫じゃなかったら、ヘタレを絞める」
「アパートに帰ったってことは……うーん……無事、じゃいられないかも……?」
将の苦笑交じりのその言葉に、蘭子は深いため息を零すばかりだ。
「おら、ガキ共……無駄口叩いてねえで花火するぞ」
いつの間にか、縁側に座って煙草をふかしていたのは鋭だ。
「兄貴もする?」
そんな弟の声に、まるで強請る様に片手を出す。
「寄越せ」
チンピラが、カツアゲをしている様にしか見えないのだが、敦は平然と花火セットの中をゴソゴソと捜してから、兄の元へと駆け寄った。
「はい、蛇玉」
それを半ば強奪するように取ると、満足げに……それはもう横柄な態度で頷いた。
「敦、何渡したんだよ?」
槃が尋ねれば、敦に代わって由貴が応える。
「蛇玉。昔ッから、さと兄は蛇玉好きなんだよなー……俺、アレ苦手だけど」
「判る。あれってさー……なんかうねうねしてるけど、一歩間違わなくても、うん……」
―― シュッ……
敦の言葉は、最後まで続かなかった。何か鋭いものが横を通り過ぎて強制的に黙らせたのだ。
恐る恐る視線を向けたその先には、輪ゴムを構えた鋭が……否、ハンターがいるではないか。
「ちょうど、的当てがしたい気分だったんだ。おい、ガキども……的になれ……」
「ひいいいいい!!!」
言うなり、逃げまどう由貴と敦を、輪ゴムを構えてゆったりとした足取りで、獲物を追い込むように近付いていく鋭。
「いやあ……ホント、鋭もまだまだ若いねえ……」
言いながら生ビールをグイッと呑むのは由樹だ。そんな由樹に正宗は思わず一言。
「同い年じゃろうて」
ごもっともである。
「……翠琉ちゃん、周ちゃん……花火しようか!ほら、槃と蕎もこっち来て!!」
もう、見ていないことに決めたのは将だ。清々しい笑顔を浮かべて4人に声をかける。
「はい!」
元気よく頷く周とは違い、翠琉は若干困ったような表所を浮かべる。
「……あの、花火をしたことがなく……仕方が判りません」
仕方も何もないのだが、将と蘭子は顔を一瞬見合わせてから苦笑を零すと優しく言う。
「全く、しょうがない兄様だよね?こういう時に傍にいなくてどうするっていうんだか」
「安心しろ、私たちもいるからな」
と、そこに更なる声が重なった。
「私が、教えて差し上げましょう」
璃庵だ。蘭子は胡乱げな眼差しを向ける。
「出たな、気まぐれタイガー」
そんなこんなで、花火を始めたわけだが……
途中、鋭が現れてねずみ花火を強奪して行ったのだが、その使い道は敢えて聞いていない。
花火を楽しむ面々を他所に、野球の実況に夢中な正宗と由樹。
雄たけびを上げながら逃げまどう由貴と敦を狙う鋭。
子ども達を「あらあら、元気いっぱいやねえ」なんて、のほほんと見守る桜。
もう、この場にはいない緋岐と紗貴。
「なんでこんなことに……」
思い返してみて、将は思わず空を仰ぎ見てため息交じりに一言呟いたのだった。
● な なんでこんなことに
/(c)永遠少年症候群
☆ 兄様は、大切なものを捨て去りました。それは……
遠慮・常識・羞恥心 です!!
緋岐「捨ててないからな!?」
NEXT⇒「りっぱな犯罪、パート2」




